Long Story|Short Story|Anecdote7days【完結】
6.土曜日 −前編−
「土田(つちだ)先生ですね。岬くんから聞いてます」
豪邸の門扉の前、呆然と佇んでいた俺に、インターホンから若い男の声が呼びかけた。慌ててカメラを覗き込む。
「どうも、はじめまして。今日は家庭訪問で参りました」
「今、そちらへ参ります。門を解錠しますから、庭を抜けて玄関の前までお越し願えますか」
「わかりました」
ピー、という電子音と、施錠の外れる音。門が自動で開いて、俺は挙動不審になりながらも藤島家の敷地内に足を踏み入れた。
噂には聞いていたが、物凄い広さだ。玄関までの庭もよく手入れされている。おまけにさっきから俺にプレッシャーを与えてくるのは、隙なく設置された防犯カメラの存在だ。これだけ広ければ本格的な防犯対策も必要だろう。
石畳を踏みながら玄関前に立つと、タイミングよくドアが開いた。
「ようこそいらっしゃいました。わたしはこの家のハウスキーパーをしている堀(ほり)と申します」
応対に出たのはさっきの声の主だ。声音から想像していた通り、まだ若い。大学生くらいだろうか? 体格はいいが顔立ちは柔和だ。大きな口が弧を描くと、その口元のホクロもきゅっと上がる。
「岬くんの担任をしております土田と申します。本日はお世話になります」
「あの、先生。藤島さんのご主人なんですが、実は今朝、急な仕事が入ってしまって留守なんです。奥様は元々の都合でいらっしゃいませんし……」
「えっ?」
俺は思わず大仰な声を出してしまう。両親が不在がちだというから、都合を聞いてわざわざ土曜日にしてもらったのだが……。
「それは弱りましたね。お戻りの時間はわかりませんか?」
「ええ。でも、予定が見えたらメールをするよう伝えてあります。せっかくですし、お茶でもいかがですか?」
保護者の留守にオレが招かれるのもおかしな気がしたが、せめて藤島の顔くらい見ていくのが担任の務めだろう。
「岬くんはおうちに?」
「はい。今は自室にいるはずです」
藤島岬はクラスでもおとなしいタイプの生徒だ。もう少し学級での取り組みに積極的になってくれるといいが、といって友達がいないわけでもなく、それなりに学校にも馴染んでいるように見える。俺が中学の教師になって初めて受け持ったクラスの生徒だから、思い入れもひとしおだ。
それが、最近あからさまに元気がない。授業中に船を漕いでいることもしばしば、それはさておき手の甲に青痣ができていることが気にかかり、家庭訪問の約束を取りつけた。多忙な両親だと聞いているし、DVとは思えないが……心配してし過ぎることもないだろう。
「それじゃあ、お言葉に甘えてお邪魔します」
「後で岬くんの部屋にもご案内しますよ。さぁ、どうぞ中へ」
出してくれたスリッパを履いて廊下を進む。廊下、と呼べる広さと長さがある家の造りに改めて圧倒されながら、リビングに通された。
室内にはL字型の4人掛けソファと、大型の液晶テレビにスタンド型のスピーカーが広々と据えられていて、ホーム・シアターと呼んで差し障りない構えだ。壁際にはさり気ないが高級そうなルームライト。物は最小限、シンプルにまとめられたセンスの良い部屋だ。
棚の上に置かれた写真立てには藤島一家3人の写真が飾られている。中学の入学記念の時にでも撮ったものだろう。
母親はモデルのように長身で美しい人だった。1度だけ二者面談で顔を合わせているが、怜悧に見える尖った美しさに反して、人柄は穏やかでおっとり、天然と言ってもいいような雰囲気の人だ。少し世間知らずのようにも見えたが、その美しさと品の良さも相まって、愛嬌になっている。藤島の中性的な面差しは母親譲りだろう。
一方、父親は角ばった輪郭に太い首、がっしりとした男らしい体躯で、ラグビーでもやっていたのでは、というような容姿だ。その体育会系の印象を押し隠すように黒縁眼鏡をかけて、ぎこちない笑顔を浮かべている。まだ実際に会ったことはないが、有名IT企業のCEOだとか……しがない教師の俺にはその年収など想像も及ばない。
彼の遺伝子が藤島の身体的特徴として現れてきたら、今の繊細な印象は消えてしまうだろう。そのくらい、今の藤島は父親と似ていない。強いて言えば、藤島の特徴的な大きな耳は、父親の福耳に由来するだろうか。
「どうぞ、お掛けになってください」
ソファに座ると、用意があったかのようなタイミングでミルクティーが出て来る。俺は素直にそれに手を伸ばして、一口啜った。その時何か、違和感のようなものを感じたが、何かはわからないまま、喉を通った紅茶が今まで味わったことがないほど美味しいことに驚嘆する。焼き菓子も出されて、恐縮しながらも1つご馳走になった。
「学校での岬くんはどんな様子ですか?」
家庭での様子を聞くつもりでいたところ、年下と思しき青年に逆に尋ねられて虚を突かれる。口に運びかけていたティーカップをソーサーに慌てて戻しながら、
「とても真面目で、優秀な子ですよ。集中力があって、努力家で……人より前に出るのは苦手なようですが、学校生活も楽しんでいるようです」
言うと、堀さんは朗らかに笑って頷く。
「そうですか。僕はここで家事手伝いをするようになって3年くらいなんですが、出会った当時から岬くんは本当にいい子で。それに、奥様によく似てとてもきれいな顔をしてるでしょう? 可愛くて仕方ないんです」
「え? あ、はぁ……そうですね」
何だか俺の主張とは論点がズレている気がしたが、藤島が美少年であることに異論はない。同僚の若い女性教師なども、おとなしいけれど目を引く、と色めき立って話していたのを思い出す。
とは言っても、まだ子供じゃないか。俺の方がいい男だと思うけど……そんな風にひやかしては総スカンを食らったっけ。「土田先生は素敵な奥さんがいるんだから、わたし達の小さな楽しみに構わないでください」とかなんとか……思い、自分の左手薬指に目を落とす。
大学の頃からつき合っていた恋人とはこの春に籍を入れ、式も挙げた。彼女のお腹の中には新しい生命も宿っている。仕事も、問題児やモンスター・ペアレントに悩まされることもなく、34歳にしてまさに順風満帆。
土曜日の午後、大豪邸で美味しい紅茶と焼き菓子をいただきながら、何だか不思議なほどの幸福感に満たされていた俺は、はたと我に返った。
「あ、すみません。あんまり素敵で居心地のいいおうちなもので、つい寛いでしまって……」
しどろもどろに肩を竦めると、堀さんはくすくすと笑う。
「いえ。土田先生がとても熱心で優しい先生だとは、岬くんから聞いていいました。思った通りの方だ」
「えっ、藤島が?」
岬くん、と改まるのも忘れて、俺はまた喜びに顔が火照るのを感じた。
俺に対して、藤島は何の関心もなさそうに見えたけれど……そんな風に思ってくれていたなんて。
「尊敬していると言っていました。だから勉強ももっと頑張らないとって。月曜から金曜まで、いろんな家庭教師に来てもらってるんです」
「5日間も? 遊ぶ時間がないのでは?」
年頃の少年ならゲームやスポーツもしたい盛りだろう。恋愛だって……我が校は男子校だが、近くに女子校も多い。夏休みにハメを外さないようにと指導はするが、彼らが薔薇色の青春を謳歌しているのは承知だ。
堀は微笑して、
「家庭教師はみんな僕くらいの年の大学生なので、岬くんの話相手にもなっているみたいですよ」
「へぇ……ああ、だから彼は少し大人びているのかな」
年上とのつき合いが多ければ、自然とそれに感化されることもあるだろう。15歳なりのはしゃいだ感じがないのは、そのせいかもしれない。
不意に、堀さんはあはは、と声を立てて笑った。
「いや、失礼……はは、大人びてる、か。大人も顔負けですけどね」
俺は笑いの意味が理解できずに、持ち上げていたカップを持ったまま固まる。しかしこの時の俺はその不審の正体には気づかず、不意に開かれたドアに視線を投げた。
果たしてそこに、話題の渦中の少年は佇立していた。
「土田先生……?」
廊下とリビングを繋ぐドアを開けて現れたのは、私服姿の藤島だった。
真っ白で清潔感のある七分袖のカッターシャツに黒のカーゴパンツ。色の取り合わせは学生服とあまり変わらないが、それぞれに少しずつ丈が短いために、普段よりややアクティブな印象を受ける。学校ではどことなくしゃちほこばって見える藤島も、こうして見るとまだまだ子供らしく、微笑ましい気持ちになった。
「やぁ、お邪魔してるよ」
「岬くん、先生にご挨拶は?」
堀さんの言葉に、藤島は少しよそよそしい戸惑いの色を浮かべたが、そろりとドアの隙間から身を滑り込ませると、距離を保ったまま前で手を組んだ。
「今日は、お忙しいところお越しいただきありがとうございます。父は外出してしまって……」
「岬くん、先生を岬くんの部屋にご案内して差し上げてよ。勉強してる部屋の様子が見たいっておっしゃってるよ」
藤島のか細い声を遮って、堀さんが言った。
そこまで強く希望したつもりのなかった俺は、その言いように少し面食らってしまう。
「いや、わたしは別に──」
言われた藤島も、突然のことに顔を曇らせた。
「あ、の……でも、今日は……両親いないか、らっ、」
語尾を震わせて、藤島の肩がビクッと跳ねた。壁に凭れかかり、腹部をおさえてズルズルと蹲る。
俺は咄嗟にソファから腰を浮かせた。
「藤島!? どうし、」
「──来ないでッ」
鋭い声が飛んで、俺はその場で踏み留まる。咄嗟に堀さんに目配せしたが、彼は藤島を超然と見つめながら、その口元に緩く笑みすら浮かべているように見えた。
再び藤島に目をやると、ぎゅっと唇を引き結んで苦し気にしている。俺は居ても立ってもいられず彼に駆け寄ると、薄い肩に手を添えた。
「どうした、体調でも悪いのか?」
「っ……さわ、らな……」
藤島は少し赤い顔をして、こめかみには脂汗を浮かべている。
「だいじょ、ぶ……ですから、」
「岬くん、具合でも悪いの?」
俺の後ろから堀さんが声をかける。どこか楽しそうに見えるのは、俺の気のせいだろうか?
「彼の部屋まで運びましょうか?」
訝しく思いながらもそう投げかけると、堀さんは鷹揚に頷いた。
「そうしていただけますか? 岬くん、先生が運んでくれるって。おんぶしてもらおう」
「い、い……自分で歩ける、から」
藤島の目が怯えたように震える。本当に具合が悪そうだ。
年頃の男の子だから、教師の背に子供みたいにおぶさるのは照れ臭いのだろう。けれど同級生の目もない今、辛いなら早い方がいい。
「ほら、背中に」
俺は藤島の前に屈んだ。堀さんが藤島の背中を半ば強引に押すと、俺の背に預ける。俺が身を起こして彼の太腿の下に腕を滑らせると、1度身体を揺すって体勢を整えた。
「は……ンあっ」
耳元で藤島が大きく息を吐く。俺の首筋に顔を埋めてそうされると、ゾク、と鳥肌が立った。
「あ、はっ……お、ねが、もう……めて……っ」
「岬くん、我慢だよ。じゃないと土田先生の背中、汚しちゃうからね」
「ひっ……く、うっ……、とめ、て……とめて……っ」
密着した藤島の身体は異様に熱かった。微かに身を震わせて、涙まで流して……熱でもあるのだろうか。
「よし、すぐに部屋に連れてってやるからな。どっちです、堀さん?」
俺は堀さんに誘導を頼って、藤島の部屋へと急いだ。
道中、藤島はしきりに俺の耳元で浅く息を吐いて、切なげな声を漏らす。まだいっぱしの男の声になりきらない藤島の吐息は、艶っぽいと形容してもいいような響きだ。掠れる声に、何だか妙な気分になる自分に焦りながら、とにかく彼の部屋へと急いだ。
堀さんの案内に従って歩を進め、ようやく部屋に辿り着く頃には、俺のシャツの襟は藤島の涙でぐっしょりと濡れていた。
「ほら、もう大丈夫だからな」
軽い身体をベッドに横たえてやりながら、そう呼び掛ける。ほの赤い顔をした藤島は濡れた目を俺の方に投げると、絞り出すように唇を震わせた。
「せん、せ……帰って、くださ……ここにいちゃ……だめ、」
「え?」
その時、背中に衝撃を受けて、俺は泣きくれる藤島の上に倒れ込んだ。危うく押し潰しそうになったところ、彼の小さな顔を挟むように肘をついて上体を支える。
「な、に――」
振り向いた時、シャシャシャ、という電子音がスマートフォンの連写であることに気づいた俺はしかし、咄嗟には何が起こったのかわからなかった。
「淫行教師、家庭訪問で教え子に襲い掛かる! ──いい画が撮れましたよ、土田先生」
「……え?」
俺達の背後を守る形で部屋に入って来たはずの堀さんは、柔和な笑みを浮かべたまま俺にスマートフォンの画面を向けた。
そこには、ほの赤い顔を涙に濡らした藤島と、その上に圧し掛かる俺が映っていた。
インコウ、キョウシ──堀さんの口にした言葉が後からその画と結びつき、ぞっと悪寒が走る。写真だけ見れば、まさにそう誤解されても言い逃れができないようなシチュエーション。おまけに、次の写真にスライドしていくと、動画のコマ送り再生の要領で振り向いた俺の驚きと必死の形相は、その現場を取り押さえられた犯人の面容そのものだった。
「何を言って、」
「家庭訪問に来たからには、岬くんの本来の姿を見ていただかないといけないと思ったんですよ。そのためにはまず……先生には僕の言うことを聞いていただかないと」
「うっ、」
堀さん──堀と名乗った男は、素早く俺の腕を捻ると後ろ手に捩じり、身動きできないでいる藤島の横に俺を押しつけた。
見かけによらない強い力にも驚いたが、それ以前に自分の身体の自由が利かないことに気づく。俺は焦りと混乱に陥った。
「そろそろ効いてきたでしょう? さっき先生に飲んでいただいた紅茶、一服盛らせていただいたんです」
あの時感じた妙な違和感の正体──堀は、俺にミルクや砂糖を入れるか否か、尋ねなかったのだ。最初からミルクティーとして供されたカップ、その中にはすでに何らかの薬が入っていたということだろう。
「大丈夫、副作用はありません。ちょっと身体が痺れて……それから、少し性的興奮が強くなるだけですから」
耳元で低く囁かれて肌が粟立つ。そうする間にも、堀は俺の両手首を掴むと背中にまわし、結束バンドでギチギチと拘束してしまった。
「やめてください! 一体何の真似……っ」
「先生にもいい思いはさせてあげますから、お楽しみに」
言いながら、無様にひっくり返る俺のバタつく足までも器用に担ぎ上げ、足首を同じように縛る。俺は芋虫のようにのたうつしかない。
堀はポケットから小さなリモコンのようなものを取り出すと親指でそれを弄った。途端、ベッドでぐったりしていた藤島の身体が跳ねる。
「ふあぁっ!」
「お、おい! 藤島にも何か飲ませたのか!?」
「ええ、まぁ。それに加えて大人の玩具を味わってる最中ですから……先生の背中に出さなかったのはよく我慢したね、岬くん?」
「はっ……は、はぁ、……は、」
荒く息を吐きながら肩を揺らす藤島の、もじもじと合わせた膝に堀が手を伸ばす。
「や、だ……やめっ」
強引に足を開かせると、藤島の股間は性を主張して膨らんでいた。涙に濡れたか弱い面差しは、羞恥に歪む。
「おねが……もうやめて……」
「自分で外してごらん」
堀は俺をベッドから引きずり下ろすと床に転がし、代わりに自分がそこに乗り上げると、無抵抗な藤島の身体をひっくり返す。俯せシーツにしがみつく藤島の、カーゴパンツに手を掛けるとズルリと剥いだ。
「や……っ!」
下着ごと脱がされ露わになった白い小さな尻、その姿に俺は自分の目を疑った。
藤島の尻の窄まりからは、5、6本の細いコードがぶら下がっていて、根元の直方体のプラ部分が、すらりとした腿に医療用テープで貼りつけられている。小さな振動音が聞こえ、それが藤島を苦しめているらしい──大人の玩具、と言ったか?
じゃあリビングで顔を合わせた時、すでに藤島は……。
「何てことを……」
「いやだぁっ」
細い腰を捩って逃げようとする藤島だったが、堀が手元のリモコンを操ると全身を痙攣させて切ない声を迸らせる。
「あは、ぁっあ、ひぃッ……!」
「岬くん、気に入ってくれたみたいだね。好きなところゴリゴリされて気持ち好いだろ? さっきも、先生の背中に股間擦りつけていやらしい顔してたの、ちゃんと見てたよ」
「ふ、うぁ……、あっ」
「1つは遠隔バイブなんだ。ほら、僕がこう弄れば……」
「ひぁあぁッ……!」
藤島は高く叫ぶと、いつの間にか勃ち上がっていた性器から精液を弾けさせた。とろりと、シーツに白濁が落ちる。
「あ……は、ぁっ……」
「後ろだけでイッちゃうなんて、岬くんは本当に淫乱だね」
俺はその暴挙を、ただ呆然と見ていた。頭が働かない。何が起きているのか理解していても、どう対処すればいいのかがわからない。
「先生も岬くんのエッチな姿に驚いてるよ。もっと見せてあげようか」
「いやっ……、見な、でっ……あ、あぁっ」
堀は藤島の太腿からテープを剥がすと、コード部分を掴んでぐっと引いた。シーツを握り締める藤島の手に力がこもる。身を震わせて喘ぐ少年の小さな窄まりから、カプセル状の物体が引きずり出された。ピンク色の異物を排泄したそこは銀糸を引いて、ヌルついた表面がいやらしい。俺の雄の部分が、嫌でも反応する。
「ふっ……う、ふぅっ……」
藤島は脱力しきり、真っ赤になった大きな耳だけを俺に見せて、顔をシーツに押しつけた。
藤島はこの男からずっと、こんな目に遭わされていたのだろうか? あの手の痣も。
「貴様……こんなこと、許されると思ってるのか!? 警察に突き出してやる!」
「できるならしてください。その前にさっきの写真、ネットに流しますけど。事実がどうあれ、先生の人生狂っちゃうんじゃないかなぁ?」
「なっ……」
妻の顔が頭をよぎる。まだ見ぬ自分の子供のことも。でも、それを守るために今目の前で苦しんでいる藤島を見過ごせというのか?
「それは……そんなの、どうしたって誤りだと証明してやる。藤島は俺の生徒だ、俺が守る!」
「せんせ……」
片目を見せた藤島がポツリ呟き、そしてまた泣く。ごめんなさい、と。
「すごいな、今時こんなアツい先生がいるなんて。でもさぁ先生、岬くんの本当の姿を見てから言った方がいいですよ。彼、こんな可愛い顔して男達をたぶらかして、さんざん色欲に溺れる、ドのつく淫売なんだから」
「そんな、嘘……いや、いやだぁっ」
男の手が藤島の腰にまわり、無理矢理尻だけを上げさせる。男は片手で自身のベルトをはずしチャックを下ろすと、ボロンと大きな性器を取り出した。
「いやいやって言うけどね、岬くん。キミは身体の方が正直だからな」
「ちが、う……ちが、のにっ、」
「さっきのじゃ物足りなかっただろ? 岬くんが大好きなのでめいっぱいイかせてあげるからね」
「やだっ、いやっ……いや、挿れないで、あ、いやあぁっ」
男は硬く勃ち上がったものを握ると、藤島の尻の窄まりに狙いを定め、ぐっと腰を押しつけた。
「ン"ンッ ──!!」
シーツに埋めたくぐもった悲鳴が、痛々しく部屋の壁を震わせる。ああ、なんて残酷な──俺は目の前の光景を見ていられなくて、ギュッと目を閉じた。
「ふっ……ン、ンッ……ぅ、」
目を閉じていても聞こえてくる肌のぶつかる音、悲痛な喘ぎ。男が、俺の目の前で、俺の生徒を犯している。
「ふぅ、うっ……あ、あはぁッン!」
「はは、凄い、中で感じてるね、岬くん……っ、」
男の上ずった声が気色悪い。2人の荒い呼吸が、部屋の室温を上げていく気がした。
「あ、あ、いや、いやぁっ」
「ね、チンポのが岬くんの好きなところ、可愛がってあげられるからっ」
「やめ、てやめ、……て、もう、許し……ったすけ、て」
藤島の哀願に、俺はカッと目を開いた。
「やめろっ、藤島から離れろ!」
俺は横ざまに倒れている体勢ながら必死に声を張り上げた。肘を床に突っ張り、何とか上半身を起こすと、堀を睨み据える。
堀は白けた目で俺を一瞥すると、ニタリと口元を歪め、これ見よがしに腰の動きを激しくした。
「あ"ぁッ!? ──あッ、いや、いやぁッ! あ、だめ、そこだめッ……!」
「ホラ、先生に見せつけてあげよう? あは、中が絡みついて……っ、先生に見られて興奮してるんだろッ」
「ンッ、ん! いや、あ、あンッ」
男に後ろから激しく貫かれる藤島を前に、俺はまた一瞬呆然としてしまう。あまりにも、現実味がなくて──はたと我にかえると、再び堀に噛みついた。
「くそっ離せ、藤島を離せよ!」
「ほら、可愛い生徒のイき顔、ちゃんと見てあげてよ先生っ」
「いや、やだ! ひあぁっ」
堀は左右に打ち振るう藤島の頭を掴むと、強引に俺の方を向かせた。側頭部を強く押さえつけられた藤島の大きな目が、俺を捉える。
見開かれた藤島の目は涙に濡れ、いつもは白く表情の乏しい顔も真っ赤に染まっていた。恐怖、羞恥、戸惑い、そして──快楽。様々な感情と感覚に翻弄される様が滲み出る悲鳴に、俺の中の何かがズクン、と突き動かされる。何だ、これ──。
「ひっ、や……いやっ、いやぁッ、せんせ……ぇっ」
戦慄く唇が俺に助けを求めた瞬間、男が気味の悪い呻き声を上げて身を震わせた。藤島の目が大きく見開かれ、それからまた涙が溢れ、そして静かに光をなくしていく。
「ふっ……く、うっ……ぁ、あ……ッ」
堀は啜り泣く藤島の背中に覆い被さり、後ろからうなじに噛みつくように顔を埋めると、下品な笑い声を漏らした。
「んっふふ、くはは、……あはぁ、気持ち好かったぁ……ッ」
こいつは、射精したんだ──藤島の体内に。怒りで身体が熱い。握ったままの拳が震える。
「ふふ、お先にすみません。あんまり好かったんで、つい」
堀は腰を引くと藤島の中に埋めていた性器をズルリと引き抜いた。抜き取ったそばから溢れる精液が内股を伝い、男のものに銀糸を残す。支えをなくした藤島はぐったりとベッドに伏して、薄い肩をヒクヒクと震わせた。
手も足も出なかったのは拘束されていたせいもあるが、俺は自分の身体の大きな変調にも気づき始めていた。ああ、さっきの動物的な衝動も、残念ながら気のせいではなかったのだ。
「さて、先生もそろそろじゃないですか?」
堀の指摘通り、俺は股間に集まる血液から意識を逸らそうと必死だった。これまで味わったことのないような劣情をどうにかしたくて、腕がもう1本あれば人目も憚らずに下半身に手を伸ばしていただろうというほどに。
堀は自分の衣服を整えるとベッドから下り、俺の方へと歩いて来た。俺は言いようのない恐怖に震え、後退る。
「く、来るなッ」
「先生もいい思いさせてあげるって言いましたよね。ほら、今度は先生の番ですよ」
堀は俺の膝頭を掴むと強引に押し開き、両肘で固定した。力が強いのもあるが、俺はいつもの力の半分も出せず、自分の身体を操ることができない。
「くっ、何を……っ」
男の手が俺のベルトに伸び、はずされ、そしてズボンのファスナーを下ろされる。ズルズルと衣服を膝まで下げられ、外気に晒された肌が粟立った。
「あは、俺達のセックス見て興奮しちゃったんですね」
「やめろっ……」
下着を捲られ、緩く勃ち上がったものを剥き出しにされて、俺は顔を背けた。こんな情けない姿……眼前で舐めるような男の視線を感じて、羞恥で身体が燃えるようだ。
「ねぇ岬くん、ほら見て! 先生のチンポ、大きくて美味しそうだよ。しゃぶって、もっと大きく硬くしてあげてよ」
堀の言葉に俺はギョッとする。
「何言って……お、おいっ待てやめろ、やめろっ」
堀は俺の脇の下に腕を入れると身体を起こさせ、強引にベッドの方へ連れて行くと藤島の隣に放り投げた。
スプリングが鳴り、身体がバウンドする横で、藤島が小さく震えた。
「せんせ……」
「藤島……っ」
身近に迫る、むっとした人間の匂い……セックスの名残り。汗で湿ったシーツに嫌悪感と、同時に興奮を催してしまうのは何故だろう。
「さぁ岬くん。先生のチンポ、しゃぶってあげて」
2017/07/17
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