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僕のクロ


第3話−1


 豪奢なホテルの一室には、半獣を飼う裕福な者達が集まっていた。
 リボンタイにベストという、いつになく余所行きの格好をしたクロは壁際に佇立し、所在なげに辺りを見回す。主人はどこまで足を伸ばしたのか、人の群れに掻き消えてしまった。
 ぼんやりと遠くを見ていたが、室内を行き交う半獣達の視線に気づいたクロは慌てて俯く。
 他の半獣達は、クロが性玩具として扱われていることを知っているのだ。何故といって、首につけられた首輪がその目印になっている。赤は性奴隷、黄色は召し使い、何もつけていない者は家族のように大切にされている。
 嘲笑が漏れ聞こえて、クロは身を縮めた。恥ずかしいだけならまだいい。クロが恐れているのはトレードだ。
 トレードとは半獣の飼い主同士が行う取引のことで、主に赤い首輪の半獣の間で取り交わされる。わざわざまわりの者に半獣の立場を知らしめるのはそのためだ。
 短期のこともあれば買い取りになることもあるが、クロも主人の気まぐれで1週間他の家に出されたことがあった。
 日頃主人に強いられている行為にもクロの身体は悲鳴を上げていたが、あの1週間の苦痛はその比ではなかった。
 薄暗い地下牢に閉じ込められ、鞭打たれ蝋を垂らされ、ディルドの生えた木馬に騎乗することを強制された。期間限定の主人となった男はクロが恐怖と快楽に泣き叫ぶ様を喜び、自分ではなく下男達にクロを輪姦させた。媚薬を盛られ、止むことのない絶頂に苛まれて意識を失うまで、何度も。
 クロは主人のことが好きだ。というよりも、彼に引き取られなければ死んでいたかもしれないのだから、クロにとっては何をされても抗えない神のような存在だ。
 それなのに主人は何故あんなトレードを受け入れたのか、信じられない思いだった。自分のことを馬鹿でのろまだと思っているクロだが、何の取り得もない自分でも少なからず好いてくれていると思っていたのに。
 またあんなことがあるのではないかと思うと、社交会に行く時は気が重い。できるだけ人目につかないよう、壁際でじっとしている。
「おい、お前」
 突然投げられた声が自分に向けられたものだと気づくまでに少し時間を要した。顔を上げると、クロの目の前には茶色い耳の生えた半獣の少年がいた。首輪は黄色だ。年齢はそう変わらないように見えるが、クロに比べて体格がいい。
「僕……?」
「噂には聞いてたけど、やっぱり赤はパーが多いんだな。ボーっとしやがって」
 パー、が何かすぐにわからなかったが、どうやら「頭がパー」という意味らしい。確かにそうだなとクロは心の中で頷く。
「学校、行ってないから」
「家で毎日主人のチンコ咥えてるんだろ? 股開いて腰振って、ケツにハメられてニャンニャン鳴いて悦んでるってわけだ」
 急に投げつけられた言葉を処理しきれず、クロは一瞬ポカンと口を開けた。遅れて湧いてきた恥ずかしさに顔を染める。
「や、やめてよ……大きい声で言わないで」
「へぇ、一丁前に羞恥心はあるのか。なら、なんでそんなこと続けてるんだ?」
「え?」
 ──続けている? やめる、という選択肢があるなど考えたこともなかった。
 少年は呆れたように溜め息をつくと、自分の首輪を忌々しげに引っ張る。
「俺はお前よりはマシだけどさ。それにしたっていつまでもこんなことやってらんねぇよ。いつかここを出て自由に生きるって決めてんだ」
「自由……」
 それは果たしていいことなのだろうか。物心がついた頃から見世物として扱われ、主人に買われてからはずっと今の生活をしてきたクロには想像がつかない。
 少年の言う通り、毎日主人に性的な奉仕をしているが、慣れてしまえば辛くない。与えられる快感で自分を見失う時は少し怖いけれど、衣食住の保障はされていたし生活に不便もなかった。1人での外出は許されていないが、それでもクロには十分に思えたのだ。
「なぁ、お前さ。 半獣とはヤッたことあるか?」
「え……何を?」
「バカ、セックスに決まってんだろ。なぁ来いよ、ちょっとだけヤらせろよ」
「え……え? でも、」
 ぐいぐいと腕を引かれ、トイレに連れ込まれるとそのまま個室に押し込まれた。
「ほら、ケツ出せ」
「だ、ダメだよ。ご主人様に怒られる」
「うるせぇな、モタモタしてんじゃねぇよ!」
「やだ! やめてよ!」
 クロは必死に少年を押しのけようとしたが、ぐん、と尻尾を引っ張られると力が抜けた。
「半獣の身体のことは半獣が1番わかってるんだ。ご主人様とするより気持ち好くなれるかもしれないぜ?」
 言うや、少年はクロを後ろ向きにしてドアに押しつけるとズボンをずり下ろした。
「やっ、」
「へへっ……――ん? 何だ、コレ」
 クロは下着をつけていなかった。代わりに黒革のベルトを股間に巡らし、アナルもそのベルトの内側につけられた太いディルドで塞がれていた。
「貞操帯か…ご丁寧に鍵までついてやがる」
 クロの主人は自分のペットが他の者に無断で弄ばれるのを嫌ってこれを装着させた。そのことに、クロは一抹の安堵を覚える。自分は主人のものだ、大事にされているはずだ、と。
 しかし少年はそれで諦めはしなかった。
「クソ、面白くねぇ。けどま、上のお口で楽しませてもらうよ」
 言うや、クロの頭をぐっと押さえつけると、便座に座った自身の股間に押しつけた。
「ほら、しゃぶれ」
「や、やだっ……んむっ」
 無理矢理性器を咥えさせられ、頭を揺すられる。何度もそれを繰り返すうち、クロの口内で少年の性器は硬くなった。
「くっ……ほら、舌を使え。そう、そうだ」
 ほとんど条件反射的に動く舌で、少年のものを愛撫する。カウパーが溢れ、クロの細い顎を伝う。
「ふぅっ……ん、」
「あは、なんだお前、人のチンコしゃぶっただけで感じてんのか? 前から汁が漏れてるぞ」
指摘通り、金属の格子で覆われたクロの性器は、その中でピクピクと震え先走りの汁を垂らしていた。勃起できないように作られたその容れ物はクロの性器を縛りつけ、苦しめる。
「ふぅっ……んんぅ、」
 少年は傅くクロのリボンタイを解くとボタンを引きちぎってシャツを開き、乳首も責めた。きつく摘み、優しく捏ね、弾く。
「んっ……んふ、」
「そんなんじゃイけねーだろが」
 クロの頭を掴むとさらに強引に揺さぶる。喉の奥を突かれて「えぐっ、」と呻くが、少年は構わない。
「あーっ出る出る、よし、全部飲めよっ……うぅっ──!」
 勢いよくクロの喉奥に精液が放たれる。クロは慣れた調子で喉を開放すると音を立ててそれを飲み干した。
「は、はぁ、……あ、んっ」
 へにゃりと床に座り込むクロを見下ろし、少年はフゥ、と息を吐く。
「なかなか好かったぜ。ケツに突っ込めないのが残念だが、後でたっぷりご主人様に可愛がってもらうんだな」
 言い捨てると少年はクロを残して先に個室を出て行った。
 クロは乱れた息を整えながらよろりと立ち上がる。
 硬くなった性器が拘束具の中でじんじんと痛む。ディルドを嵌めた部分も続きを強請っていた。
「ご主人様……探さなきゃ、」
 早くあの人が欲しい。乱暴に突き上げて、中に吐き出して……他の男に身悶えたことを叱って欲しい。クロは乱れた衣服を整えるとトイレを出た。

2018/07/29


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