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灰色の瞳


第3話−1


「似合うかな……?」
 照れと不安の入り混じった声で少年が言う。
「うん。すごく似合ってる。カッコいいよ」
「へへ……でもまだちょっと大きいんだ」
 少年が腕を下ろすと手首はたっぷりとした袖に隠れてしまう。おろし立ての学ランに着られているような姿はまだ子供らしく、男の目に愛らしく映った。
 少年自身に自分の制服姿を見せることができないのがもどかしく、男は着心地で陰影を描き出すように、少年の肩や腕、背中をゆっくりと力を込めて撫でた。
「ゴワゴワするし、首がチクチクする」
「そのうち慣れるさ」
 畏まった襟のホックを外してやる。第2ボタンまで外すと寛げた首筋をちゅ、と吸った。少年はくすぐったそうに首を竦める。
「制服、皺になっちゃう」
「学生服の君を抱き締めたいんだ。きっとすぐに背も伸びるから、今の君をしっかり覚えておかないと」
「ん……っ」
 男の手は優しく少年の背中や腰を撫で、やがて尻を揉みしだいた。股ぐらに手を這わせ、前からも胸に手を当てる。
 おとなしくしていた少年は性的な意図を持った手の動きに催したのか、もじもじと内股を合わせた。
「あ、のっ……そんな風に触られたら僕、」
「ん? どんな風……?」
 男は耳元で甘く囁きながら、後ろから羽交い締めにするようにして制服の中に手を滑り込ませる。
「あっ……」
 ボタンをもう1つ外し、シャツの上から乳首を撫でると、少年はピクリと反応して男の腕を咎めた。薄いシャツの上からでもその隆起がわかるようになるまでしつこく弄ると、少年は膝を震わせる。
「やっ……ん、ダメ……あ、おにいさ……ズボン、脱がして……っ」
 微かに勃ち上がったものがズボンを押し上げている。
「新品を汚したら嫌だもんな」
 言って、男は少年のベルトに手を掛けるとファスナーを下ろした。大きめのズボンはストン、と落ちてすらりとした足が露わになる。
 ズボンは皺にならないようベッド脇の椅子の背にかけると、少年の肩を掴んで正対した。少し腰を折って目線の高さを合わせる。
「中学生になったんだもの、アイの勉強もステップアップしなきゃね」
「えっ……まだ、続きがあるの?」
 声に怯えを滲ませながらも、少年の灰色の瞳は期待に潤む。
 男の手によって幼い身体はすっかり敏感になり、腹の奥は膣のように男を愛撫した。口内も後孔も少しの刺激で熱く濡れる淫猥な性器に作り変えられていたが、それでもいまだ抱く度に見せる恥じらいが男には愛しくて堪らなかった。
 視力をなくした少年の体内には、誰の目にも触れられない男の痕跡がくまなく刻みつけられている。それでも満たされない征服欲に目眩がするようだ。
「あるよ。今までよりももっともっと気持ち好くなる」
 男は少年の唇に啄ばむようなキスをした。チュ、チュ、と音を立ててからやがて舌を絡ませて深く吸いつく。ふ、と鼻から息を漏らし応じる少年の、学生服のボタンを丁寧に外す。甘い果実の皮を優しく剥くように中のシャツも開けば肌が晒され、黒い制服とのコントラストが眩しい。
 少年の華奢な身体の線を確認するように撫でさすると、それだけでも気持ち好いのか少年は呼吸を少し乱して男の膝に己の股間を擦りつけた。
「おや、何してるんだ?」
「んっ……早く、触って……?」
 男の肩から腕、手首を辿ると、少年は男の手を自身の血の集まる下半身へと導く。
「んっ……」
 下着の中に案内すると、少年はその手首を掴んだまま前後に動かした。男はわざと身を委ねる。少年は目を閉じると、口を半開きにして甘い吐息を漏らした。そのまま腰を揺らし、男の手を使って自慰を始めた。
「は、……あ、」
 幼い陰茎を男の指の間に挟み、擦る。やがてヌチ、ヌチ、と淫らな音がしてきて、少年は唇を舐めた。
「おに、さ……ねぇ、もっと……おにいさんの好きにして……っ」
 遠くを見つめる少年の濡れた瞳に興奮を覚えた男は、操られていた手に生気を漲らせた。
「あっ!」
 先まで意のままだった男の手が、不意に少年の予測を裏切って蠢く。陰茎を指の間できつく扱き、指の腹で陰嚢を転がす。
「あっ、あは! あっ……や、にいさ……はぁんっ、や、あっ」
 皮を引っ張りながら先端をグリグリと虐められた少年は、背中に走る快感で身体を震わせた。
「あんっ、あ、あぅっ、きもちぃっ……! あ、はぁ、後ろ、もして、」
 腰に回されていた手を掴み、そちらも下着の中へ。少年は自分で下着を下ろすと、立ったまま男の身体にしがみつき全身を擦りつけるように抱きついた。
「はぁ、はっ……あ、」
 男の指先が秘部を探り当てると、少年は切なげに眉を寄せた。
「はしたない顔して……感心しないな」
「ごめんなさ……んっ――ふ、」
 唇を塞ぎながらずぷずぷと指を進める。刺激を求めながらもそこはまだ閉じていて、異物の侵入を拒んでいる。けれどここがもう大人の逸物をすっかり飲み込めるよう躾けられていることを知っている男にとっては、何だか取り澄ましているようでおかしかった。
「ほら、力抜いて」
「はぁ、はっ、あ、あんっ……あ、んっ……」
 カクカクと腰を揺らして指が入りやすいようにすると、男を迎えたそこは腸液を分泌して潤った。少年の身体は、もうほとんどメスと変わらない。男を受け入れる態勢を整えるように肌を染め、内側まで淫らに濡れていく。
 やがて男の指2本をずっぽりと食い締めると、少年はうっとりしながら舌を出した。
「はっ、はぁ、……あっ――ん、んふっ、」
 口づけを求め、塞がれると中はますます悦ぶ。男は少年の締めつけを指で感じているうちに下半身に欲望を擡げ、自身の前を寛げると性器を取り出した。
 もしそれが見えていたら、少年は悲鳴を上げていたかもしれない。男の性器は元々太く長かったが、さらにそれを大きくするためのペニスサックを装着していた。
 根元にはびっしりと小さな突起があり、挿入される者の内側を快感でいたぶるための性具――男の亀頭部よりもさらに張り出した先端は赤黒く塗られており、少年の細い肢体を前にするとまるで凶器のようだ。
 男は少年を後ろ向きにさせると、ベッドに胸をつけさせた。尻を突き出した状態で膝立ちになると、少年は興奮した様子で腰を揺らす。
「早く、挿れてぇ……」
「まったく、我慢がないね。ちょっと待って、今日は特別ゲストがいるんだから」
「え……?」
 男はその場を離れるとドアを開け、スリッパを履くとパタパタとその場で足踏みした。それからまたドアを閉める。
「いらっしゃい。遅かったじゃないか」
 言って、近くにあったハンガーにかかったジャケットを外し、またかけ、大袈裟に音を立てながら椅子に座ると、今度は物音を立てないように少年の後ろににじり寄った。
 もし誰かがその様子を見ていたなら、男の行動はただ奇怪に見えただろう。しかし少年は――目の見えない彼はこう思う。
 この部屋に、第三者が入って来た、と。

2018/05/28


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