Long StoryShort StoryAnecdote

傾いた家


うだる閑処


A……13

 まるで、サウナみたいだ──朦朧とした頭で、篤は思う。
「はぁ、はぁ、篤……うっ、ああ、気持ち好いよ篤ぃ、」
「ん、ふっ、……ふぁ、ぁ、あっ」
 2人の吐く吐息、流す汗、発する熱。狭いトイレの中は異様な暑さと湿度になっていた。
 篤は汗で全身を濡らしながら、父親の太腿の上に対座して細い腰を前後に振りたくっている。

 学校のマラソン大会の後、体操着のまま帰宅した篤は、ジャージのズボンを洗濯機に入れると尿意を感じてトイレのドアを開けた。
 後ろ手に鍵をかけようとした刹那、何かが引っかかって戸が閉まらない。振り返るとそこには父親が、ドアの隙間に膝を滑り込ませて立っていた。男は篤の肩を掴んで個室内に押し込むと、躊躇なく少年の下着に手をかけたのだった。

「あ、ンっ……!」
 父親は対面座位で篤の小さな尻を割り開くようにいやらしく揉みしだきながら、その奥まったささやかな菊門に逞しい雄の猛りを突き入れ、激しく出し挿れさせていた。
 粘り気のある卑猥な音を立てる結合部からは父子の分泌した体液が溢れ返り、禍々しい性器がずるりと姿を表す時には泡立った糸を引く。まるで咀嚼を覚えたばかりの赤子の口のようだが、少年の下の口は幾度もこの肉棒を食わされたために、年齢にそぐわぬほど淫らに成熟してしまった。
「ひ、うっ、あ、やら、……ら、あっ」
 篤は両手を壁に突っ張るが、腰を上げるには至らない。男はがっちりと篤の細腰を掴み、結合から逃れられないよう押さえつけている。
 ばちゅん、ばちゅん、ばちゅんっ
「篤、ああ、篤はこの、入口の辺りも好きだよね……!」
「っ ──! ひ、くぅ、ンッ──!!」
 篤は唇をきつく噛んで声を押し殺す。
 父親は、息子の弱いところを知り尽くしていた。絶妙に腰を回し、浅いところも深いところも、篤が油断した隙を狙ったように激しく責め立てる。
「ああ、すごい……すごいよ篤……! お父さんのおちんちんで感じてくれてるんだね。気持ち好さそうに中がうねってヒクヒクしてるよ」
「ち、が──……こんなの、ちが、のに……っ」
 篤はふるふると頭を振りかぶり、涙を落とした。
 しかし、その呟きも虚しい。篤のアナルはもう本来のそれとはやや様相を変えて、縁はぷっくりと赤く腫れている。医師の目にでも触れれば、何度も性交を強いられたことは明白だった。
 縦に広げられた穴から溢れる体液は父親のカウパーだけでなく、篤自身の分泌した腸液も混ざっている。誘うようにぬかるむそこは、さながらオスを求めるメスの陰唇のようだ。
 また、驚くべきはその小さな穴が飲み込んでいる異物の大きさだろう。少年の結腸をも抉る長さはもちろん、太さも相当なもので、篤の直腸は硬くなったそれでみっちりと征服されてしまう。
 おまけに張り出したカリ首は、結腸口を出入りする度に何度も篤を絶頂に追いやり、快楽で苦しめた。
 13歳の少年の腹の奥は、実父の歪な肉棒の形とそれによる快楽をさんざんに刻みつけられてしまったのだ。
「おと、さん……も、やめて……っ」
 はぁはぁと喘ぎながら、篤が言う。口では拒みながらも、蕩けた表情は男の情欲をさらに煽り、子供の体内に収めた熱の塊はますます硬度を増した。
 その圧迫感に、篤の顔もギクン、と引き攣る。
「や、なんで……っ」
「色っぽい表情をするようになったね、篤も……大人を誘うのが上手くなって!」
「ひあっ!」
 強い突き上げに思わず大きな声が出てしまい、篤は慌てて両手で口を覆う。
「ふんっ! んっ! んぐっ!」
 トイレの外はすぐ隣家だ。あちらで大きな物音がすれば聞こえることもあった。
「あ、んあっ、待って、まっ……おと、さ……、だめ、あ、は、激し……くて声、出ちゃう、ぁ……!」
 ぞく、ぞく。込み上げてくる悪寒に語尾が震える。
 自身の腰の動きと父親の律動とが相まって、前立腺に張り出した亀頭部が当たる。ズリズリと同じところを擦られれば、篤の表情は戸惑いや恐怖よりも愉悦の色を濃くしていく。
「あ、あはぁっ! だめ、そこっ……そんな、にしちゃ……! あ"あ〜〜ッ!」
 グリグリと抉るような執拗な責めが堪らず、篤は父親の胸に抱き縋り喘いだ。それでも男はやめない。
 カリ首が結腸口をじゅぱじゅぱと捲りあげる動きにはとうとう限界を来して、篤の爪先がピンと伸びた。
「は、ああーッ!! も、やめひぇ……ッン"ーー!!」
「ああ、篤、篤ぃイッて……! 中でイッてるね篤……!」
 極めている息子の名前を切なげに呼びながら、男は愛息の頬を包み唇を寄せる。肉厚なそれは篤の薄い桃色の唇を覆うように塞ぎ、口内に長い舌を忍ばせた。
「んは、うっ……ふ、むっ、」
 強引に合わせられた唇の隙間から、少年は甘い喘ぎ声と唾液を溢れさせる。
 直腸、そしてその奥の深いところまで熱く硬いもので堀られながら、口腔内までも舐られて腰から頭まで快楽に支配される。まるで、2人で1つの輪になったみたいだ。
「んふ、ふっ……ん、んぷっ……」
 ちゅぶ、ちゅば、と音を立てて交わされる深い口づけに、時折感じ入ったように篤の身体が跳ねた。
「ああ、愛してるよ篤……」
 唇を離すと男は篤の顎を舐め、それから細い首筋を伝う汗を舐めた。
 まだ主張もない中性的な喉元は、男の手にかかれば簡単に締めあげることもできてしまうだろう。自分の種から生まれた華奢な造作の子供に、男はますます支配欲を燃え上がらせていく。
 鎖骨に溜まった汗を吸うように唇を窄めると、上目遣いに篤を見た。
「篤、シャツをあげてごらん」
「え……?」
「ほら、早く」
 渋々と篤がそれに従うと、男は露わになった白い胸にむしゃぶりつくように顔を寄せた。
「や、あっ!」
 驚いた篤はシャツを離してしまい、すっぽりと布をかぶるような形になった父親の頭が、篤の視界の下でもぞもぞと奇怪に蠢く。
「あ、ぁ……! ひ、あっ、やだっ……!」
 男は篤の両手首をそれぞれ掴み、宙空に縫い止めるように拘束すると、自身もそれでバランスを取った。
 ピチャピチャと乳首を舌で舐る音、感覚。そちらに注力したために律動は少し止んで、それで楽になるかといえばむしろ逆だった。ずっとリズミカルな突き上げで快楽の虜にされていた篤の下腹、殊に前立腺は、突然蔑ろにされたために狂ったようにキュンキュンと男のものを希求する。
「ひ、うぅ……! ひん、ひっ……」
 焦らされるような感覚に、篤は切ない呻きを漏らす。
「は、あっ、おねが……、もうやめて……っ」
 空気が薄い。換気扇は回っているが、2人の吐き出す二酸化炭素量に追いつかないのか、篤は酸欠を感じながら腰を捩る。言葉では父親の行為を咎めながらも、雄を受け入れた場所は続きをねだってしまうことに篤は半ば混乱する。
 本当はこんなことしたくないのに。けれど、身体はどんどん行為に慣らされていく。それどころか、もっと激しい責めを要求するほどに乱れていく。
 ──普通の男の子はこんな風にはならないよ。でも篤はもうお母さんになったんだ。
 父親は何度も言い聞かせるようにそう言った。最初のうち、幼かった篤はよくわからないながらも言いくるめられたような気持ちにもなった。
 それでこの家庭の崩壊が止められるなら、弟の弘へ伸ばされる魔の手を食い止めることができるのなら、それでいいのかもしれない、と。
 しかし学校で性教育も受け、まわりの同級生達も邪な話題に聡くなっていく。もう何もわからない年ではない。
 学校にいても、篤は猥談を交わす少年達の輪から離れて、耳を塞いだ。彼らが話すアダルト雑誌やら映像やらの内容は、そのまま篤が家で父親にされていることと変わらなかったからだ。
 ──ほら、篤も勃起してる。射精もしただろう? お父さんとのセックスで気持ち好くなってる証拠だよ。
 授業で習った身体の生理的な反応を、父親との行為の中に見出した篤は改めてショックを受けた。父親はそれを承知の上で、言葉でも巧みに篤の心を辱めた。
 ──お前の身体はとてもいやらしいね。お父さんのおちんちんをお尻に入れられて、腰を振って悦んで。
 ──恥ずかしいね。人に知られたらとっても恥ずかしいことをしてるんだよ。でも、それで気持ち好くなっちゃうんだろう?
 ──篤みたいな子を淫乱、て言うんだよ。ふしだらな、お母さん……。
 同時に、家庭での虐待やいじめの相談窓口について説明を受ける機会もあったが、それらはおおよそ女児のことを例に解説がされており、男の自分が実の父親にされていることが恥ずかしく、受け入れ難く、篤はなおのこと誰にも知られたくないという気持ちを強くした。
 もともと性に疎かった篤は、異性との妄想に身を委ねるよりも前に父親に純潔を奪われてしまった。自慰も知らないままに父親に暴かれた己の痴態をひどく汚らわしく感じて、篤は父親の求めに応じながらもその罪悪感に苛まれた。
 自責から逃れられるのは、情欲の渦中に揉まれている間だけだ。そのぶん、身体は素直に父親を求めてしまう。
「篤、」
 父親はシャツの下から頭を出すと、困惑の涙でぐちゃぐちゃになった篤の顔をじっと見つめた。
「どうして欲しいか言ってごらん?」
「は、ぁ……、」
 篤の顔が苦しげに歪む。
 言いたくない。聞きたくもない。もう何も。でも、言わないとこれが終わらないこともわかっている。
「おと、さ……もっと、突いて……っ」
「どこを、何で、どんな風に突いて欲しいんだい?」
 篤の心が羞恥に震えることをわかっていて、男は意地悪にそんな言い方をする。篤は唇を噛んだ。ぽたぽたと頬を涙が滑り落ちる。
「お、れの……おなか、の奥… …っ、お父さんの、おちんちんでぐちゃぐちゃにしてっ……」
 膣にされた肉襞がひときわ強く剛直を締めつけた瞬間、男は諾と答える代わりに深い突き上げを篤に見舞った。
「──〜〜ッ‼」
 篤の首がガクン、と後ろに仰け反る。深く突き刺さった父親の性器は、きつい締めつけにも抗って力強く少年の結腸口をぶち抜いた。
「が、ひ──〜〜ッ!!」
「く、っ篤!」
 その後の篤の激しい絶頂、さらなる締めつけに加えて脳天まで痺れるような腸壁の痙攣に、男も奥歯をきつく噛み合わせる。そのまま射精してしまいそうになるのをなんとか堪えると、一拍置いてゴツゴツと突き上げ始めた。
「あっ! あ"ーッ! あ、あ、あん、はぁンッ!」
「ああ、こんなに全身でおちんちんを欲しがって、本当にいけない子だ、篤!」
「あ"ーっ、あっん、あふっ!」
 突き上げられる度に、視界に星が弾けるかのようだ。ビクビク、と中で痙攣が起きると、父親も感じ入ったように喘ぐ。
「篤すごい、すごいイッてる……!」
「ひっー! ひん! ひっ! あっ、あ"うっ、あ"──〜〜ッ!!」
 篤は自ら下腹を父親の腹にこすりつけるように弓なりに背を反らした。もう声を抑えることもできない。
 篤の胸元が近づいたのをいいことに、男はシャツの上からもそれとわかる突起に噛みついた。
「ひゃあぁんっ! あっ! あ"ーっ!」
 シャツの布地を幾重か巻き込んでいるために乳首がひどく傷つけられることはなかったが、はっきりと歯で噛まれている恐怖感と、それが与えてくるぞわぞわとした快感に篤は頭が真っ白になる。
「あ、や、いたっ……こわい、胸、噛まないで……っ」
 律動に合わせてガジガジとやられると、篤の中もそれに合わせるようにきゅん、きゅん、と悦ぶような反応をしてしまう。
「はうっん! あっ! ああっ、だめ、イく、イッてるのっ……にぃ、」
 射精と排尿とを我慢させられている篤の尿道は痛みすら訴えていたが、勃起し、じんじんと張り詰めた性器は震えながらも必死にそれを堪えていた。
「あ、あ、あ、だめ、だめぇっ、出ちゃう、くる、おしっこ出る……!」
 篤にはもう、自分の身体の中で何が起きているのかわからない。競り上がってくるものが何なのか──それが快感であることには違いないのだが。
「このままじゃ汚してしまうね」
「あっ!?」
 男は突然立ち上がると、篤の身体を離し便器の方に向き合わせた。ちょうど便座を「おまる」のようにして篤を座らせると、尻を突き出させて再び後ろからいきり立った性器を挿入する。
「ふ、ぐぅ──っ‼」
 入口から奥まで一気に突き上げられて、篤は前のめりに押し出された。咄嗟に水洗タンクに抱きつく。
 ガツンガツンと全身を揺さぶる激しい突き上げに、タンクの蓋やら便座やらがガタガタと不平を訴える。
「さぁ篤、そのまま出していいよ!」
「んひっぃ! ひっ! ひぎっ! ひぃンッ」
 幼い性器がビクビクと震える。蓄えられた精液が尿道付近の筋肉によって堰き止められながらも、身体の内側からそこを激しく突き上げられるのだから、もうずっと絶頂の波を繰り返しているかのような状態だった。
「……う、ぐっ〜〜‼」
 篤は大きく跳ねるように痙攣した。その後、プシャ、と音がしたと思うとシャバシャバと水音が個室内に小さく響く。
「ああ、潮吹きしたんだね篤。気持ち好いだろう……?」
 篤は声もなくしばらくガクガクと痙攣し、それが止むと肩で大きく息をした。
 ぐったりとタンクに凭れ掛かる身体を、男は後ろから優しく抱き留める。
「こういう時はまだまだ気持ち好くなれるんだよ」
 言って、篤の性器に熱い手を伸ばす。
「い、やだっ……触らないで……ひっ!」
 射精したばかりで敏感になっている亀頭部を親指の腹でグチりと弄られて、篤の性器の尿道は再び射精の快感を強いられてしまう。
「は、あっ……!? だ、めまだ……! い、今触っちゃ……あ、あっ……!?」
 再び篤の性器から精液がしぶいた。止まらない──味わったことのない深い絶頂に、何も考えられない。
「は、ひぃッ──!! んんっ──!! ッ、き、ぃッ──!!」
「篤のおちんちんも女の子にしてあげるからね」
 うなじを舐められ、吸われる。首まわりや胸には後で鬱血痕が浮かんでくることだろう。
「や、らやら、もうやらぁっ……! あ、ああ"──〜〜ッ!!」
「ああすごい、びしょびしょだね……お父さんの指がふやけてきちゃうよ」
 それからしばらくの間、篤は玩具のように何度も射精させられ、文字通りイき狂わされた。
「……は、……はぁ、……はぁ、」
 前後左右もわからなくなったような心地だった。ふわふわとした頭で、色欲に冒された脳と早鐘を打つ心臓、精液を垂れ流す性器だけの木偶にでもなったかのようだ。
「篤ばっかり気持ち好くなってずるいじゃないか。お父さんも愉しませてくれよ」
「え……?」
 男がニタリと笑んだその時、「ただいまー」という声とバタンと扉の開閉する音が聞こえた。
 足音が近づくと同時に、ランドセル特有のカタカタという音がする。
「兄ちゃん? いるんでしょ? ただいまー」
 改めてそう声を張ったのは篤の弟の弘だ。小学校から帰って来たのだ。
 すっかり情欲にのぼせていた篤だったが、弟の帰宅に顔色を変えた。弘はまだ、自分の兄が父親にされていることを知らない。知られてはいけないのだ。
「お父さ……!」
 慌てて父親の身体を引き剥がそうともがく篤だったが、射精し果てた余韻で身体に力が入らない。逆に後ろから腹を抱えるように抱き締められると、繋がったままぐるんとトイレのドアに向き合うように立たされた。
 さっ、と血の気が引く。
「な、──」
 ドン、とドアに両手をつく。大きな熱い手で口を覆われたと思うと、後孔から少し引き抜かれたものが再び深く入ってくる。
「兄ちゃん? トイレにいるの?」
「──ッ!!」
 立った状態で後ろから挿入され、篤の膝がガクガクと震えた。立っているのも精一杯だというのに、父親は篤の身体を乱暴に押さえつけることで無理矢理その体位での行為を成立させていた。
「……初めての時を思い出すね」
 初めて──バスルームで犯された時のことだ。入浴中をいきなり襲われ、背後から立ったまま犯された。篤はまだ小学生だった。
 その時のことを思い出した篤はざっ、と全身の血が引くのを感じた。いや、沸騰したのだろうか?
 篤が額を押しつけたドアが、コンコン、とノックされる。
「兄ちゃん?」
 心配そうな弘の声がすぐ近くでする。
 父親の形に中を拡げられながら、篤はぐっと息を飲んだ。
 父親が、篤の耳元で「しーっ」と唇を窄める。それからそっと手を離した。
「……お、かえり……ひろ、」
 努めて明るい声を作りながら、篤は振り絞るように言う。
 その間も父親の剛直がゆっくりと、追い詰めるように篤の直腸をミチミチと埋めていく。はぁ、はぁ、と浅い呼吸が耳裏に当たって、父親もこの状況に興奮しているのが感じられた。
「えらいぞ、篤。声を我慢して……緊張するね。いつもより締めつけがキツいようだよ」
 荒い息を吐きながヒソヒソとそう言って、男はゆっくりと抽挿を開始した。
「ふっ……ン!」
 直腸の入口から奥までゆっくりと擦りあげる長いストロークに、篤の薄い下腹がビクビクと波打つ。
「お兄ちゃんは我慢強いね」
「──ッ!!」
 ズン、とひと突きされ、篤は息を飲んだ。
「はは、また中イキした」
「はぅ……ッ──!!」
 剛直の先端は、再び篤の結腸口を抉じ開けていた。衝撃に、篤は背中をしならせるが、ぎゅっと唇を噛み締めて声を殺す。
「兄ちゃん? ……泣いてるの?」
 弘の声がした瞬間、またひと突き。篤はガクガクと震える膝を何とか励ましながら、必死に快感をやり過ごす。
 でも──。
「んひっ──!」
 やはり的確に前立腺や結腸を責められては堪らない。
「ひ、ひんっ! ひっ、は……っ!」
「大丈夫? どうしたの? 兄ちゃん……?」
「だ、じょぶ……だから、あ、あっち……い、イッ……!」
 ビクビク、ビクンッ!
「──イッちゃったね……」
 クスクス、と耳をくすぐる潜めた声に鳥肌が立つ。篤は爪先立ちになりながら、はぁはぁと荒い呼吸をした。
「篤は深いところをトントンされるのも好きだもんな。弘の前で、内緒で可愛がってあげるからね」
 ヒソヒソと囁かれて、それにすら感じてしまう己の身体が呪わしい。
「も、……だめ、」
「はぁ、篤……、篤の中、ビクビク震えてる……!」
 薄い壁を1枚隔てたすぐそこに、弟がいる。きっとトイレの中の物音に、訝しげに耳を欹てていることだろう。
「……兄ちゃん? どうし、」
「っ──お、おなかっ」
 ズン、と深く突かれた瞬間、出そうになった喘ぎ声をかろうじて言葉に変える。
「──おなか、ぃ、痛くて……っ、」
 嘘は言っていない。篤の腹の中は父親の剛直にさんざん責められてぐすぐずに蕩けながら、もうずっと甘い苦鳴をあげている。
「え、大丈夫? お腹の薬探して来ようか?」
「に、2階の……お父さんの、部屋に……あったかも……」
 篤はそこに救急箱などないことを知りながら、ここから1番離れた場所を口走った。
「お父さんの部屋? 入って、後で怒られないかな」
「だいじょぶ、……だいじょ、ぶだから早く、イッて……!」
 わかった、と声がして、トントンと足音が上へと上がっていく。
「お腹、痛いんじゃなくて気持ち好いんだよね、篤は。嘘つきはいけないよ……!」
「んアッ! は、はぁっ、んンッ! ぁ、あ、もうイッて、終わりにしないとひろが……ひろ、にぃ……っ!」
 来年には弘も中学生になる。難しい年頃だが篤によく懐き、慕ってくれているのがわかっていた。大事な弟に嫌われたくない。
 篤はその一心で必死に腰を振り、父親の射精を促す。
「奥に出すよ篤、受け止めてくれ、篤……!」
 律動が激しく、速くなった。ズン、ズン、と激しい突き上げに襲われて、声が漏れてしまう。
「あ、あっ!あぁっ、ん! ぃ、イッて、早く中に出してっ……お父さん、お父さん……っ!」
 篤も思わずそうせがんでいた。緊張で強張っていた腸壁も弛緩したかのように、狂おしく痙攣しながら男の性器をぎゅうぎゅうと締めつける。
 きゅん、きゅん、きゅうぅ……っ
「く、うっ、うおッ――!!」
 男の呻きが篤の鼓膜を震わせた次の瞬間、篤の体内に彼と同じ遺伝子の精液が流れこんできた。
 ビュルッ、ビュププ……ドプッ、ドプッ!
「ふっ、んんっ──!!」
 熱く勢いのあるそれは結腸の奥までビュクビュクと届き、篤は声もなく極めていたが、もう射精はしなかった。
 ひどく責められぐずぐずにほぐされたところは、男の出した精液でドロドロになっていることだろう。自分の腹の中に作られた乳白の沼を想像し、篤はそこに自分の身体が沈んでいく幻を見た。
「は……、はっ……ん、」
 男は篤の顎を取ると強引に振り向かせ口づける。まるで恋人同士のような甘い、深い口づけ。
 その時、トントン、と再びトイレのドアがノックされ、篤の身体がギクン、と緊張した。
「あ……、」
「兄ちゃん? 薬なかったんだけど」
「ご、ごめん……ダイニングの……引き出しだった、」
「いつもの場所だよね? 見て来るよ」
 弘が再びドアの前を離れると、父親は篤を便器に座らせ簡単に涙や濡れた下肢をトイレットペーパーで拭い、下着を履かせた。
「また、夜にね」
 そう言ってそそくさと自分だけトイレを出て行く。
 弘とうまくすれ違うようにして自室へと退がる足音をぼんやりと意識しながら、篤はフラフラと立ち上がった。
 軽く身支度を整えてトイレを出た篤の火照った身体に、トイレの外の空気はエアコンでもついているのではと錯覚するほど清涼だった。
「あ、兄ちゃん大丈夫? 薬持ってきたよ……って、うわ! すごい汗じゃん」
「ありがとう、だいじょ……、」
 その時、篤は膝からガクンと崩れ落ちた。もう、立っていられなかった。目の前に立つ弟の腰に抱き縋ることで、なんとか身体を支える。
「に、兄ちゃん──?」
「ごめん……少しだけ、こうさせて……」
 弘は少しどぎまぎしながら兄の肩に触れる。
「あ、あのさ……今日、マラソン大会だったんでしょ?」
「うん──」
「汗でぐちゃぐちゃだよ。全身真っ赤だし、日焼けしたのかな。シャワー浴びておいでよ」
「そう、だね……ありがとう」
 答えながら、ぐちゃぐちゃなのは身体の中の方だ、と篤は思った。熱く硬いものが何度も出し挿れされた後孔の縁はじんじんと熱を持ち、中はまだあの質量に拡げられた感覚がはっきりと残っている。
 鈍く、甘く疼く下腹をおさえると、ドクン、とそこが熱くなった。
「……ぁ、」
 父親が篤の中に出した精液が、秘部からじわりと滲み出る。奥の奥に出された汚液が、トロトロと腸壁を伝い落ちてきているのだ。
 篤のうなじに冷たい汗が流れた。
「兄ちゃん、立てる?」
「だ、だいじょぶ、だからっ……いっぱい走ったから、膝が笑っちゃって」
 乾いた笑いをこぼす時、さすがに篤は弘の顔を見ることはできなかった。
 内股を伝い落ちる情欲の残滓を隠すよう、篤は体操着の裾を引っ張った。

2020/07/14


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