Long StoryShort StoryAnecdote

傾いた家


贖罪のハンカチーフ


A……12

「あし、……あしくんだろ?」
「え……」
 誰、と問う前に手を握られて、篤は目を丸くした。
「やっぱり! はは、変わってねーなぁ!」
 入学式を終え、体育館から花道を通って退場という時──列を割って篤を引き留めたのは、茶色い髪の少年だった。真っ黒な新入生の中でそれだけでも目立つというのに、少年は頭ひとつ背が高く、声までもよく通る。
「あ、あのっ……誰、」
「俺だよ、卓也(たくや)!」
「たく……あ、たっくん……?」
 特徴的なえくぼを見て、幼い少年の面影がよみがえる。幼稚園の頃親しくしていた男の子──「たっくん」は、まだ篤が母親と一緒に暮らしていた頃によく遊んでいた。舌が回らなかった当時の卓也は「つ」がうまく発音できず、篤のことを「あしくん」と呼んだ。
「よかった、思い出してくれた」
 卓也はニッコリと笑い、そのまま篤を抱き締めそうな勢いだったが、教師の注意の声が飛ぶと篤から手を離した。
「悪い、俺のせいで怒られたな。また後でな!」
 列に戻るのを見るに、卓也は隣のクラスらしい。圧倒された篤だったが、まわりの注視に気づくと慌てて列に戻り早足になった。入学式から悪目立ちは困る。列席者の方に目を向けると、父親がじっとこちらを見ていて篤は慌てて目線を落とした。

 一瞬の注目を集めた篤だったが、式が終わり教室に戻ると、取り立てて気にすることのない模範的な生徒と目されたらしい。
 担任の教師から今後の案内があり、その日はすぐに解散となった。
 教室を出た廊下で、卓也は待っていた。
「よっ! 一緒に帰ろうぜ」
 6年間のブランクを少しも感じさせない卓也に篤は戸惑う。彼のことは覚えているが、ずいぶん背が伸びて大人びて見えた。気のせいかもしれないが、普段自分に向けられることのない女子生徒の視線も多く感じる。
「いいけど……あの、親とかは?」
「この後、保護者説明会があるってうちの担任は言ってたぜ」
「そうなんだ」
「そっちだって説明あっただろ? ボーッとしてんなよ。最初なんだ、ちゃんと聞いとけ」
 笑いながらトン、と額を指で突かれて篤も苦笑する。
 こんな親しげな態度を取る友人は篤にはいない。小学校ではいじめられるようなこともなかったけれど、息を潜めるように生活していたから同級生の印象にはあまり残っていないだろう。家庭科実習や掃除の時間にあてにされるくらいで、放課後は家事をするためあまり遊ぶことができなかった。
 だからこんなやりとりは本当に幼少期以来のことで、篤は気恥ずかしくも嬉しかった。
「なぁ、あしくんて呼ぶのもなんかガキっぽくて照れ臭いし、呼び捨てにしてもいいか?」
「うん」
「俺のことも卓也って呼んで」
「……卓也、」
 卓也は満足そうにニンマリと笑うと、うん、と深く頷いた。
「クラスは違うけど、体育とかは2クラス合同らしいぜ。よろしくな、篤」
「うん。よろしく……卓也」
 こんな温かい気持ちになるのはいつぶりだろう。卓也との帰り道が重なるのは学校から5分程度の距離だったけれど、卓也は別れを惜しんで近くの駐車場に篤を誘うとそこでしばらく話をした。
 卓也は引っ越しをしたわけでもなく昔と同じところに住んでいて、小学校が同じ地域内の隣の学校だったことがわかった。篤の母親がいなくなってしまったことで、互いに連絡先がわからなくなっていたのだ。
 その話をすると、卓也の家も母親がいなくなったと聞いて驚いた。といってもこちらは正式な手続きを踏んで、卓也の兄が高校を卒業し就職したのをきっかけにした、つい昨年のことだという。
「卓也も大変だったんだね」
「いや、全然! 俺は歳の離れた兄貴がいるし、お前に比べたら……小2から家のことやって、弟の面倒見てたなんてめちゃくちゃ偉いよ。尊敬する」
「そんな……」
 褒められて嬉しいというよりも、何か切ない気持ちが込み上げて鼻の奥がツンとした。父親もよく篤の家事を褒めてくれたけれど、今は素直に喜べない。ただ真っ直ぐに労ってくれるのが嬉しくて、知らずに傷ついていた心が慰められる気がした。
「なぁ、今度篤の家遊びに行っていいか? ひろにも会いたいし」
 篤の弟の弘も、一緒に遊んだことがあっただろうか。篤自身ははっきりとは覚えていなかったが、卓也は物覚えがいい。
 それよりも、篤は父親のことが気にかかった。今まで家に家族以外の人を上げたことがない。篤が友達を連れて帰ったら、どう思うだろう?
「うちは……どうかな、何もないし」
「まぁ、無理にとは言わねーけどさ。うちにも来いよ、な」
 卓也の手が篤の手をギュッと握る。もう一方の手で励ますように肩を叩かれた時、聞き慣れた声に名前を呼ばれて篤は飛び上がった。
「お──お父さん」
「篤、こんなところで何をしてるんだ?」
 口元は笑っているが、目にはどこか険しいものがある。怒っている──そう感じた篤は咄嗟に卓也の手を払い除けた。
「とっくに家に帰っていると思ったのに……下校中の寄り道は校則違反じゃないのか? 感心しないぞ」
「ご、ごめんなさい」
「君は……」
「はじめまして! 篤くんとは幼稚園が一緒でした、」
 卓也が名前を名乗ってお辞儀をすると、父は値踏みするようにそのつむじを見下ろす。
「それじゃあ久しぶりの再会というわけだね。これからも篤と仲よくしてやってください」
「は、はい! もちろんです!」
 人懐っこい笑顔をパッと輝かせると、卓也は篤に目配せしたが、篤は青白い顔を伏せると早口に言った。
「俺帰るね」
 父親の腕を強引に引くようにして、篤は卓也に背中を向けた。



「篤、誰だい? あの子は」
 帰宅するまで終始無言だった父親は、家に入るなりそう言って篤の腕を掴んだ。
「さっき名前を言ってたでしょ……幼稚園が一緒だったんだよ」
「どういう仲なんだ?」
「どういうって、」
 男は父親の顔を脱ぎ捨てるようにして、篤の身体を引き寄せると突然唇を塞いだ。驚き身動ぐ息子の身体を玄関に押し倒し、そのまま覆い被さる。
「ちょっ……!? 何して、」
「篤、入学早々いけない子だな。お父さんの目の前であんな振る舞いをするなんて」
「え……?」
 篤が顔を顰める間もなく、男は学ラン姿の篤に馬乗りになった。
「あいつのお前を見る目、見ただろう? いやらしい目で……手で、お前に触れて」
「何を言って……そんなわけないだろ!? 卓也は、」
「卓也? 下の名前で呼び合う仲なのか」
「そんなの、普通だよ!」
 半ば叫ぶように訴えるが、父の奇妙な嫉妬心は収まらない。篤の手首を床に押さえつけると詰め襟のホックを開き、首筋に顔を埋めた。
「いやっ! やだ、お願いやめて! こんなところで……、」
 玄関の磨りガラスは人通りがあればその色を透かし、車やバイクの走行音も近い。今にも誰かがインターホンを押すとも、弘が帰って来るとも限らない無防備さが、篤にいつも以上の焦りを与える。
「ベッドでゆっくり脱がせて愛してあげようと思っていたけど」
 男は自分のネクタイを解くと、篤の手首を拘束し階段の柱に結びつけた。
「お前が悪いんだぞ、篤。貞淑な妻でなくちゃ……お前を愛してやれないよ」
 父親は立ち上がるとドアに鍵とチェーンをかけた。
「お父さんやめて、はずしてよ!」
 しかし男の手は止まらない。篤の制服のボタンを上から順にはずし、中のシャツを引きちぎるようにして開く。ボタンが弾け飛び篤は思わず悲鳴をあげたが、男は大きな手でその口を塞いだ。
「これ以上、お父さんを怒らせるな」
 冷たく言い放つと、胸ポケットに入れていたハンカチを篤の口の中に突っ込んだ。
 これまでも何度も無理矢理犯されてきたが、こんなに恐怖を感じたことはない。篤は父親の怒気に怯えて声も出せなくなった。
 小学校を卒業した日も、篤は父親に激しく犯された。自分と父の関係はもう変わらないのだと諦めたはずだった。
 それでも新しい制服に腕を通して桜咲く校門をくぐり、まだ耳に馴染まない校歌を聞いて、懐かしい友人に温かい笑顔を向けられたら──少なからず新しい生活への期待に胸を膨らませてしまった。
「ふっ──」
 父親の熱い舌が乳首に触れて、篤の目が潤んだ。下半身に押しつけられた熱の塊がどんどん熱く、硬くなっていくのがわかる。それは篤の身体も同じだった。
「ふうっ……ん、ふぎっ……!」
 いつもなら舌先と唇で優しくされる愛撫が暴力性を孕んで、尖りはじめた先端を噛まれた篤は鋭い悲鳴をあげる。
 怒っている──何故? あんな振る舞い、と言っただろうか。篤は旧友との再会を喜んでいただけなのに。
 父の手は篤のズボンのベルトをはずし、下着ごと引きずり下ろすと遠くに放り投げた。剥き出しの下半身は白いソックスだけで、股間はかろうじてシャツで隠れるばかり。
「篤、お父さんを裏切るなんて許さないよ」
 篤はフルフルと首を横に振った。父は篤の性器に手を伸ばす。乳首を刺激されただけで緩く勃ち上がっているのを指摘されて、篤は羞恥心からまた新たな涙を浮かべる。握られ、扱かれて、篤は泣きながら快感を押し込めようと堪えた。
「ふうっ……うう、んむっ……」
「篤……イきたいんだろ? イかせて、っておねだりしてごらん」
 篤は、また首を横に振る。
「今日は虐めたくなるようなことばかりするね」
 言うと、父は篤の口からハンカチを抜き取った。唾液でぐしょりと濡れたそれで篤の性器を包むと、布の上からさらに扱く。
「ひあぁっ! アッ──やめ、てっ」
 快楽を感じて分泌した篤の唾液は粘り気があり、それはローションのように篤の性器にまとわりつく。トロリとした体液を介した薄布が剥き出しにされた亀頭部にこすれると、手で扱かれるのとは違ったビリビリとした快感が襲ってくる。
「はっ! ……ヒッ!!」
 必要以上にビクつく息子の反応に、男はニヤリと薄暗い笑みを浮かべた。
「そうだ、今日はあれをしてあげよう」
 言って、篤の視界から姿を消す。宅配便や新聞配達が来たら、あるいは弘が帰って来たらどうしよう──篤が気が気でない時間を過ごしていると、やがて父は自室からローションのボトルを手に戻って来た。もう一方の手には白いレースのハンカチが握られている──母の置いていったものだ。
「刺激が強過ぎると聞いて躊躇っていたんだけど……でも、今日はお仕置きだからね」
「な……何……、」
 父は戸惑う篤の足を真っ直ぐに伸ばさせ、先走りに濡れている幼い性器を隠すように股に挟ませる。下腹と太腿の付け根にできたVゾーンに、畳まれたレースのハンカチを置いた。
「しっかり足を閉じていなさい。制服が汚れてしまうよ」
「ひゃ、アッ……!? つめた……っ!」
 篤の身体の窪みを器のようにして、ハンカチにローションを垂らす。いつも使っているものと違うのかやや粘度が高いそれは、三角形の窪みをすぐいっぱいにしてしまう。溢れそうになるローションをハンカチでうまく掬いながら満遍なく濡らすと、薄手の白い布は隈なくドロドロになった。
「ひ、あっ……、」
 ヌルつく液体を股間にかけられて、それだけでいやらしい気持ちが湧き上がってしまう。篤は自身の欲望を否定するようにきつく目を閉じ唇を噛んだ。
「はは、おちんちんを股に挟んだら本当に女の子みたいだね……でも、今日は篤の男の子の部分をたっぷり可愛がってあげるからね」
 父はドロドロに仕上がったレースのハンカチを広げるとまるで手品でも披露するかのように篤の前に翳した。
「足を開いてごらん」
 篤は張り詰めた性器を閉じこめておくのもつらく、素直に従う。抑え込まれていた性器は緩く頭を跨げたまま、その先端にはプクリとカウパーが滲んでいる。
「なに、するの……?」
 怯えながら篤は問う。父は手にしたハンカチを広げると、その中央に篤の性器の先端がくるように被せた。篤の耳元で低く囁く。
「……女の子みたいに鳴いてしまうくらい、気持ちの好いこと」
 ヌル、と先端部がこすられた瞬間、篤は全身をビクンッ、と跳ねさせた。
「ッ──〜〜!?」
 味わったことのない強い刺激に目も口も大きく開けるが、あまりの衝撃に声も出せない。
 なに──一体なにが、起きて?
 濡れたハンカチが左右に引かれ、亀頭部分を一往復撫でられただけで篤はガクガクと膝を震わせた。
「ッ──〜〜!? ……くぅ、ン"くぅンンンッ……!!」
 なに──なに、これ──ッ!?
 篤の心の問いに答えるがごとく、男は歌うように言った。
「ローションガーゼっていうんだよ。手でするのとは全然感覚が違うんだろう?」
 悪戯っぽく嗤いながら、父はまたハンカチを左右に動かす。
「は、ひぃっ……!! ひうぅン"ンンッ……!」
 布は粘度の高いローションでヒタヒタに濡れていて、篤の性器との摩擦はあまり大きくないはずだ。こすり方もごくゆっくりとしたもので、力強くもない。それなのに、まるで剥き出しにされた性感の核を紙やすりでやすられるような──感じたことのない、ほとんど痛みにも思える強烈な快感に篤は絶頂した……はずだった。
「あ、あぇ……っ、あっ……!? はぁぁあン……!」
 恐怖に襲われた篤は涙で濡れた顔を上げると震える自分の下肢を見た。こんなにも強い快感を味わっているのに──篤の性器は完全に勃起してはいなかった。
「な、んれ……? なん、ふあ"っ、ぁア"ぁぁぁあン"ンンッ……!!」
 シュル、と音がして、再びゆっくりと布が引かれる。
 ズリ……ズリ……コス、コス、
「ひぃン"ンンッ……!! くぅ、んく、ン"ンン……っ!!」
 篤は自ら大股を拡げてガクガクと内腿を痙攣させた。自由の利かない拳を爪が食いこむほど強く握り締め、足の爪先にも力が入り、触れられていない乳首までもがピンと勃っているというのに、むごたらしい刺激を受けている性器だけが半勃ちのまま。
「くひっ……、ひんっ……ひ、イ"ッ……!!」
「ああ、すごいねぇ……気持ち好いかい、篤?」
 気持ち好い、なんて生易しい感覚ではない。男性器がなくなるのではないか、あり得ない想像がよぎるほどに篤は快感でパニックになるが、男は少年の反応に生唾を飲みながらじっとりと視姦して愉しむ。
「くひぃんン"ンン……っ、んくぅぅぅん……っ」
 篤は子犬のように鼻で鳴きながら、くねくねと腰を捩る。その姿を見て父親の股間もすでに硬くなっていたが、息子が強いられている我慢に比べれば大したことではないだろう。
 ズリィ……コス、ズリィ……コス、
「ひいぃっ……!! ンはぁぁあ"ぁぁぅ……っ!!」
「可愛い……可愛いよ、篤……。可愛い声で鳴いて、ダラダラ涎を垂らして……ワンちゃんみたい」
 篤の唇から溢れた粘度の高い唾液はあごから糸を引いて垂れ落ち、彼の新品の首輪──詰襟のカラーを濡らす。
「ひぎっ、ひうぅう……!! ん、んひ、ヒィぃいンッ…….!!」
 イきたいのにイけない──手で扱かれればじょじょにそこに血が集まって、精液が頂点を目指して駆け上がり排出されるイメージが浮かんだが、この刺激ではまったくそれがない。果てがないのではないかという恐怖──終わりのない快楽責めは、まるで拷問だ。
「や、めぇ……ッ!! やめでッ……おどぅさ、もうやめでぇえッ……!!」
 篤は顔を真っ赤にして泣き喘いだ。初めての時よりも、最奥に精液を出された時よりも必死だった。
 後孔を性玩具のように扱われるのはもちろん耐え難いことだったけれど、それでも何度か繰り返されるうちに篤にも少なからず慣れがあったのだと思い知らされた。
 これは、篤にとって新しい恐怖だ。男である部分を、まるでクリトリスを責め抜くかのように虐められ、泣き喘がされて、完全に去勢されてしまうような。
「だめだよ、篤。今日はお前が浮気しようとしたから、これはその罰なんだよ」
 シュル、シュル……コス、コス、
「ヒや"ぁあぁぁあ"……ッ!! ン"はぁあぁン……!!」
「ふふ、篤……すごい声だね。篤のやらしい声、外に聞こえちゃうよ?」
 篤にはもう、ここが玄関であることも意識できなくなっていた。声を抑えるなどできそうにない。今まで出したことのないような嬌声が喉から迸る。
「ンひぃい"……っ!! ひ、ヒいぃあぁァ、ア"ッ……!!」
 腰がガクガクと揺れ、篤は背を浮かせて仰け反る。ネクタイに締めつけられた手首は身悶えたためにこすれて赤紫になっていたが、当人はその痛みにすら気づかない。
「ア"ァッ、ア"はぁァッ……!!」
 こわい、こわい、こわい──!!
 どうして、こんなにも感じているのに射精できないのか。結腸を突かれて中イキしたことはあったが、その時の感覚とも違う。
 やめて……っ、やめてやめてやめて、こわいこわい、こわいぃいっ……!!
 声を上げたいのに、言葉にならない。
「怯えた顔も可愛い」
 男は激しく身悶える息子の絶叫を浴びながら、ファスナーを下ろし股間を寛げる。篤の後孔はローションや先走りが漏れ伝い、すでに濡れている。男はそこに自身の性器を擦りつける。
「可愛いけどちょっと声が大き過ぎるね」
 男はクスクスと笑いながら、篤の唾液と先走りに湿ったハンカチを拾うと、再び篤の口の中に押しこんだ。
「ふ、ぐっ……ンぅ、」
 手首を縛られ逃げることもできず、轡までされた篤は快楽と絶望とに瞳を濁らせながらも、なけなしの理性を手繰り寄せて首を横に振る。
 今すぐ両手で扱いて射精したい。自分を慰めることしか頭にないのに、それが叶わないことで気が狂いそうだ。息苦しいのに、腹の奥には甘い、甘い痺れが渦巻いている……。
「今、篤の中にお父さんのおちんちん挿れたら……篤はどうなっちゃうのかなぁ」
 父親はペロリと唇を舐めると、ヒクつく息子の窄まりに剛直を突き立てた。
「ンう"ゥゥウぐウゥ──〜〜ッ!!」
 亀頭を嬲られながらの挿入に、篤は喉を震わせ絶叫したが、その声は強引に咬まされたハンカチに吸い込まれてしまう。
「今日は篤にもう1度はっきりわからせないといけないみたいだからね」
「グゥ……ンッ、ング……フ、ゥ」
 男は挿入したものをゆっくりと押し進め、さも幸福そうに深く息をつく。
「これ、あんまりやり過ぎると勃起しにくくなったり、射精しづらくなったりするんだって。でも篤のおちんちんはもう男の子として使わないからいいよね。篤はおちんちんも女の子にしてあげる」
「ッ──」
 グリ、と中に挿れられたものの先端が篤の前立腺を押し潰す。内側からの直接的な刺激を受けて半ば強制的なドライオーガズムを迎える。
「──〜〜ッ!! ヒッ──!! グンゥッ……!!」
 腹の奥で達している感覚は初めてではなかったが、いまだ亀頭部はドロドロに濡れたハンカチに覆われている。狙い澄ましたようにまたシュルリと先端を撫でられて、篤は嗚咽した。
「ウウッ──、ウッ、ウゥ、フゥッ──!! フ、ゥ、ウゥゥウッ──……!!」
 獣のように叫び痙攣する篤の下腹に、男の熱い手が伸びる。
「メスイキしてる……おちんちんの先っぽ、女の子のクリみたいに虐められて、お腹の奥でイッてるんだよ。はじめての時はまだ篤は精通してなかったけど、覚えてるかな?」
 確かに、ドライオーガズム自体ははじめての経験ではない。しかし射精の快感を知ってから、それを果たせないまま迎えるこの絶頂の強烈な苦痛と快感は筆舌に尽くし難い。
「ここに、お父さんの種を植えつけてあげられたらいいのにね」
「フ、ウゥッ……!!」
 ゾッとするようなことを言われているのに、それにすら篤の身体は敏感に反応してしまう。女のような快感を覚えさせられて、まるでそこに子宮があるみたいに撫でられて。
「篤……愛してるよ。だからお父さんを裏切らないでくれ」
 口の中のハンカチを取り除くと、篤の唇に唇を合わせる。篤の口内は分泌された唾液でドロドロになっていた。男はそれを舌で掬うように啜り、飲みこみ、むしゃぶりつく。
 男はひとしきりその甘い蜜を味わうと名残惜しみながら解放した。両手で包みこんだ少年の小さな顔は汗と涙と唾液に濡れ光り、上気して蕩けきっている。
「は……ぁ、……ア、」
 篤は半開きになった口から吐息とも喘ぎともつかない小さな声をあげた。
「篤のお母さんは……女達は子供ができるとお父さんを邪険にする」
 父親は篤の瞳をじっと見つめながら、呪詛のように低く呟く。息子の顔を見ながら、その目には篤が映っていないかのような──遠い過去に意識を飛ばしているような仄暗さに、篤は飲みこまれそうな闇を見た気がして背筋を震わせる。
「篤はお父さんを独りにしないよな……? お父さん以外の誰かを、愛したりしないよな……?」
 言いながら、男は縋るように少年を抱き締めた。
「好きだよ、愛してる……ずっと、ずっと一緒にいてくれ……」
「ふあっ! あっ、あ"んっ、あヒィ……!!」
 突然再開した激しい突き上げに、篤は再び快楽の井戸に沈められる。手を伸ばしても光が見えない、深い深い、暗い水の底……。
 激しい抽挿を繰り返され、前も後ろも雌の快楽に溺れる。極め続ける少年の媚肉に、男もまた頂へと昇りつめた。
「く、あっ出る、イく、イくよ篤……っ!!」
「ああっ、あっ! や、あ、あ、あ、ア"ッ……!!」
 極限の我慢を強いておきながら、父親は遠慮なく愛息の腹の奥で射精を果たす。直腸内が大量の精液に浸されるのを感じながら、篤も何度目かわからない絶頂に雄膣を震わせた。
 その時、ガタンッ、と音がして、2人は同時にビクンと身体を竦ませる。
 新聞配達がドアポストに新聞を突っ込んだらしい。次を急ぐためか、家の中の様子にはいちいち気をさかないのだろう。篤の甘い声はドア近くまで来れば微かに聞こえただろうが聞き咎められなかったようだ。しかし、篤を現実に引き戻すには十分だった。
「ぉ、父さ……お願い、お風呂に連れて行って……。も、これ以上無理です……、」
 篤は乱れた呼吸を整えながらなんとかそれだけ言うと、涙を流し哀願する。息子の体内で吐精を終えた父親は乱れた髪を後ろに撫でつけると、篤の拘束を解いた。手首の鬱血はひどく、微かに血も滲んでいる。
「……ちょっとひどくし過ぎたね」
 言って男は少年を抱き上げ、幼な子をあやすように学生服の背中をトントンと撫でた。篤の目に新たな涙がこみ上げる。
「ひっ……ひぐ、う……っ」
「すまない」
「か、さんの……ハンカチ、もう、しないで……。お父さんのこと、裏切らないから……だから、お願い……します、もう許して、」
 言い終えるとワァと泣き出す息子を宥め、男は軽い身体を抱き上げてバスルームへと連れて行った。
 唾液がついたくらいで難を逃れた学生服をハンガーにかけ、精液が付着したハンカチやシャツはバスルームの湯桶に入れる。
 未だかつてない痴虐に篤は疲れきって、自分の足で立つこともできなかった。半勃ちのまま極め続けていた性器は軽く扱かれるとすぐにプシャアッ、と音を立てて飛沫をあげる。無色透明で匂いもないそれは、しかし射精ではありえない量で、止まらずにジョロジョロと溢れる。止まらない、止められない──。
「ああ、篤……潮吹きできたね」
 篤は朦朧としながら、自分の性器が雌にされたのを理解した。全身から力が抜ける。もう、指1本動かすこともできそうにない……。



「おはよ、篤! 入学早々風邪か?」
 その翌日、学校を休んだ篤は月曜日に登校した。教室にやって来た卓也に愛想笑いを浮かべると、すぐに目を逸らす。
「うん、ちょっと……」
「まだ少し肌寒いもんな。気をつけろよ」
 目を合わせない篤に違和感を抱いただろうか。沈黙に篤が不安になった時、急に手首を掴まれた。
「これ、どうした?」
「ッ──!!」
 思わず、バシ、と卓也の手を振り払う。篤はそそくさと制服の袖を伸ばした。
「弟と……ふざけてたら、ちょっと。あとさ、」
 篤は息を飲むと、意を決して言った。
「あんまり、……な、なれなれしくしないで」
 ──その声は、震えてはいなかっただろうか?
 自分の言葉が卓也の心を傷つける以上に、自身の胸が深く抉られるのを自覚しながら、篤は赤く腫れた手首をきつく握り締めた。

2021/05/26


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