夕食会(「
姉さんと呼ばれた人」続き)
夕食会
ある日の昼休み、俺は木兎さんを訪ねていた。
「じゃあ、お願いしますね、木兎さん」
「ああ、わかった。そういや赤葦、今日うちに夕飯食いに来いよ」
唐突な言葉に、俺は大いに断ろうとしたが、なにぶん木兎さんは人の話を聞かない人だということを忘れていた。
「ミオ姉ちゃんにはもう言ってあるから」
「は? 木兎さん俺行きませんから……」
そうは言ったものの、木兎さんには俺の言葉など届いていないようだった。
行くべきかさんざん悩んだけど、俺は意を決して木兎さんの家を訪ねた。
俺がなぜ躊躇したのかといえば、それは木兎さんの姉に当たる、ミオ先輩と顔を会わせるのが気まずいからだった。
「赤葦くん、いらっしゃい」
「お邪魔します……」
俺を迎えたエプロン姿のミオ先輩に、なぜだか異様に緊張してしまう。
「赤葦、こっち座れよ!」
俺の気も知らない木兎さんは、あっけらかんとした声で俺を呼ぶ。
俺は言われるままに木兎さんの隣の席に腰かける。
「さ、召し上がれ?」
向かいの席に座ったミオ先輩に促され、テーブルに並ぶ料理を食べ始める。
「赤葦くん、美味しい?」
「はい、美味しいです……」
小さく答えれば木兎さんが誇らしげに言う。
「ミオ姉ちゃんの料理うまいだろ?」
「はい、美味しいです」
確かにとてもうまいのだ。うちの母も料理はうまいが、また違った美味しさだと思う。
「赤葦くんって、菜の花からし和え好きなの?」
「え、あ。はい、好物です」
何気なく答えたら、ミオ先輩は顔を明るくする。
「やっぱり! さっきからたくさん食べてるもんね。実は私も菜の花からし和えが好きなんだけど、なかなかこの良さをわかる人がいなくてさ」
えへへ、と笑うミオ先輩に、何だか距離が縮まった気がした。
「そうですよね。まず菜の花が春しか手に入りませんし、独特の味ですからね」
「そうそう! それに今はからし和えとか手間がかかるから作る人が少なくなってて……」
気づけば俺とミオ先輩は菜の花からし和えの話で盛り上がり、木兎さんそっちのけで話し込んでいた。
「気を付けて帰れよ」
「はい。……木兎さん」
夕食会を終え、玄関まで木兎さんが見送りに来る。
ミオ先輩は洗いものがあるから見送りには来ていない。
「木兎さん、今日は"色々と"ありがとうございました」
「色々?」
木兎さんは分かっていなかったようだけど、俺は今日、夕食会に来てよかったと心底思った。
夕食会で、ミオ先輩と距離を縮めることができたから。
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千明さまリクエストです。
赤葦くんで「
姉さんと呼ばれた人」続きです。
期待に添えたかわかりませんが、精一杯書かせていただきました。
リクエストありがとうございました!
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