ごちそうさま

ごちそうさま



ホワイトデーとはいかなるイベントなのだろうか。
そんな不毛な考えをかき消して、俺はとあるアクセサリー店に来ていた。

「彼女さんにプレゼントですか?」

「あ、いや」

「こちらなんか人気ですよ?」

アクセサリー店には初めて来たが、先程から入れ替わり立ち替わり店員が俺に話しかけてくるから、ゆっくり選べない。それに、恥ずかしい。
周りの客は女の子ばかりだし、男がいてもカップルだ。

早く立ち去りたい気持ちをおさえ、俺は念入りに店内を見て回った。
高すぎず安すぎず、それでいてミオが喜びそうなものを悩みに悩んだ末、ネックレスを買って帰った。



そうしていざ、ホワイトデー。
普段俺は無表情とか冷静とか言われるけど、さすがの今日は緊張していた。自分らしくない。

「あ、京治。お待たせ」

「うん、帰ろうか」

結局部活が終わるまでそれは渡せず、俺はいよいよ焦っていた。

「ねえ、京治。今日はなんの日でしょう?」

「……ホワイトデー」

「あれ、知ってた?」

「そりゃあ、大切な日だからね」

ミオは意外だと言わんばかりに俺を見ている。
俺だって一応、そういうイベントをないがしろにはしない人間なんだけど。
話題をふられたついでだ、俺は鞄に忍ばせていたそれを取りだし、ミオに押し付けるように渡していた。

「えっ京治?」

「チョコ、もらったからね。お返し」

「わー、ありがとう。京治、私からもあるんだけど」

「え?」

ミオを見れば、照れ臭そうに笑いながら、鞄からラッピングされた箱を取り出した。

「ほら、京治さ、私が作ったブラウニー食べたいって言ってくれたじゃない」

「あ。あー」

バレンタインを思い出す。確かに言った。
ミオはバレンタインに手作りではなく買ったチョコをくれた。
だけどミオが友人に、ブラウニーを作ると話していたのを俺は聞いていた。
つまりはブラウニーは失敗してしまったのだ。

「ミオ、ありがとう。食べていい?」

「え、恥ずかしいよ」

「そう。でも食べるね」

俺は包みを開けてブラウニーを口にいれた。
甘くて苦い、あたたかい味。

「わ、ネックレス!」

俺がブラウニーを食べる傍らで、ミオは俺からのプレゼントを開けていた。

「ねえ、これ京治が選んだの?」

「他に誰がいるの」

「一人でお店に行ったの?」

ミオはネックレスを街頭の光に翳しながら俺を見ないで問う。
相当喜んでいるのは明らかだ。
恥ずかしいのを我慢して買いにいった甲斐があった。

「ありがとう。ネックレスを選ぶ京治を想像したら笑っちゃうけど」

「失礼だな」

「ごめんって」

ミオはにしし、笑いながら俺を見る。
こんな笑顔が見られるなら、まんざらホワイトデーも悪くない。
それから。

「ミオ、ごちそうさま」

君の気持ちを食べられたのが、何よりも嬉しかったから。


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食べたい」と対のお話です。



170310