どうして君を

(「頑張る君が」続き)



どうして君を



噂がたった。霜月が及川さんをフッたという噂が。そして、及川さんをフッた霜月が、俺と付き合っている噂も。
確かにそれは、当の俺からしても不可思議でならなかった。そう、未だに実感できずにいた。

そうだ、俺なんかなんの魅力もないし実際気が利かないし面白味もない平凡な男だ。

卑屈になった俺が行き着いたのは、

「霜月……無理して俺と付き合わなくていいから」

「え、なに急に……」

「別に。俺なんかと付き合う理由が分からないだけだよ」

心にもない言葉は霜月を傷つけたらしく、部活後の自主練に付き合っていてくれた霜月は体育館から走り出していた。

「何やってんだろ」

だけど、霜月を追いかける気持ちにはなれなかった。やっぱり霜月と俺は釣り合わないのだ。

「はぁ」

「ため息つくくらいなら追いかければいいのに」

「っ! お、及川さん!」

誰もいないのをいいことに盛大にため息をついたはずだったのに、神出鬼没なこの元主将に聞かれてしまっていたのだった。
というか、誰のせいで悩んでいると思っているのだろうか。少しだけ恨めしい気持ちを込めて及川さんを見る。

「ミオちゃんが好きなのは矢巾だよ。だけど矢巾がミオちゃんを傷つけるなら、諦めないけど」

「……!」

挑発しているように見えて、これは後押しをしているんだと感じた。

「……俺、霜月が好きなんで。及川さんでも渡しませんから」

あえて及川さんの挑発に乗り、俺は霜月を探して体育館をあとにした。


部室に霜月の姿を見つける。

「霜月!」

「っ! 矢巾……」

泣いていたのだろう、まつげが濡れていた。どきりと心臓が痛くなる。

「俺、霜月が好きだから」

「本当に?」

「ああ」

「私、矢巾だから好きになったんだよ……私……」

わかってる、そんなこと初めから。
愛しさが込み上げて、俺は霜月を抱き締めていた。そしてそのまま霜月が俺を見上げて目を閉じた。

「好き……」

唇が触れる刹那に紡がれた言葉は俺の耳にこだまする。俺もだ、そう返事をする代わりにそっと唇を重ねあった。



――――――――
柚希さまリクエストです。
矢巾くんで「頑張る君が」続きです。
期待に添えたかわかりませんが、精一杯書かせていただきました。
リクエストありがとうございました!



170710