お庭の花よ、永遠なれ
第一章 祝福の春風吹いて
ガルグ=マク大修道院に初めて足を踏み入れる者にはまず、活気あふれる市場の人々から温かな洗礼が浴びせられる。そこで彼らが口を揃えて言うのは、「ガルグ=マク大修道院がこんなに賑やかな場所だとは思わなかった」というものだ。
前に一度述べたように、ガルグ=マク大修道院はフォドラの中心に、まるで支配者のように堂々と君臨している。故に、セイロス教徒が大半を占めるフォドラの地において、ここほど商売繁盛する場所は他にない。武器や防具は騎士団に、食料や日用品は修道院に暮らす人々に需要があるため、商品の売れ行きが怪しいという状況は発生し得ないし、ガルグ=マクを訪ねた教徒たちが故郷への土産にと、色々なものを買っていくからである。こうして自然と栄えていった市場が、存在感を大にして来訪者を驚かせるのだ。
人語の飛び交う市場を抜けて階段を上ると、いよいよ大修道院らしい建造物が視界にどどんと飛び込んでくる――玄関ホールだ。外観から内装に至るまでシンメトリーで統一されていて、まるでどこぞの城のような印象を与える立派な石造りのその建物は、初めて訪れた人々に必ずといっていいほど感慨を起こさせる。ただの玄関口というには納得のいかないその場所からは、清らかで神秘的な何かが漂っているのだ。
けれどもここは、やはり玄関という役割が与えられただけあって、とにかく多くの人が出入りし行き交う、案外賑やかな場所でもある。「ああ、本当にガルグ=マク大修道院に来たのだな」と感慨に耽る来訪者たちは勿論のこと、士官学校の生徒たちやセイロス騎士団の面々、大修道院に暮らす教徒たち、行商人、とにかく色んな肩書きを持った人の姿が見られるので、私はこの無駄に広い(なんて口は絶対に彼女には利けないけれど)空間が結構気に入っている。ホール内を流れる水の音を背景に人々の様子を観察するのが、最近の日課になるくらいには。
ただ、今日はある行事のために、特定の人間しかホール内に立ち入れないことになっていた。そのある行事とは、そう、士官学校の入学式である。
入学式の会場である大広間を先ほど覗いたところ、既に新入生用の席を除く全ての席が保護者や来賓でいっぱいになっていて、あとは新入生を待つのみといった状態だった。では肝心の新入生が今どこで何をしているのかというと、大広間に入場する前の待機場所として使われることになったこの無駄に天井の高い玄関ホールで、学級ごとに集まろうとしているところだ――三つの学級。
士官学校には全部で三つの学級が、奇しくもフォドラの地を分かつ三つの勢力――アドラステア帝国とファーガス神聖王国とレスター諸侯同盟――にそれぞれ対応する形で設けられている。その対応具合は「各学級が各勢力に因んだ名前を持っていて、かつ各勢力に属する生徒で編成されている」という、完璧なものだ。つまり、アドラステア帝国のシンボルである双頭の鷲と、過去に帝国兵が纏っていたといわれる黒の鎧を元に名付けられた「
そして、そんな奇跡の学校の新入生たちは、どうやら私が学級について語っているうちに集合を終えてしまったらしい。元ミッテルフランク劇場の歌姫・マヌエラの周りには
ゲオルクくんが本来立つべき場所に突然現れた私という存在に疑問を抱いているのだろう、
久しく緊張する機会がなかったため気付くのに時間がかかってしまったが、どうやら私は市場や玄関ホールのことであーだこーだ語って現実逃避を図ろうとしてしまうほど、緊張してしまっていたらしい。彼女の顔を見たのも、無意識に落ち着こうとしたからのようだ。
まあ、千年生きてきて初めて新入生の引率役を経験するとなれば、こうなるのも無理はないだろう。いやしかし、彼女の頼みを受けたのは私自身なのだから、緊張しようがしまいが、私は彼女から与えられた役割を全うしなければならないのだ。それこそ、この玄関ホールのように。
マヌエラのように上手くできるかは分からないが、折角の機会なのだから楽しもう、と気合を入れて、漸く私は自分の元に集まってくれている新入生たちに目を向けた。そして、不自然に感じられない程度に笑みを湛え、口を開く。