最近、移動手段に限界を感じている。
バスは運賃が高く、
徒歩では遠くまで行けない
電車は駅まで歩くロスタイムがある
もっと気軽に移動出来る手段はないか?
そんな悩みを康一くんに打ち明けたのが先週のいつぞやかのお昼休み。
由花子さんに睨まれたからあまり深く聞けなかったが、
「それなら自転車はどうかな?
僕も入学祝いに新しい自転車を買ってもらったんだけど、通学が凄く楽だし、たのしいよ!」
と話してくれた。
しかも今は拘らなければ2万もせず買えてしまうらしい。
ふと思い出したやりとりに私は自転車を見に行くことにした。
杜王駅近くの商店街を抜けた先にあるオートショップ。
数は少ないが手頃な価格のものが取り揃えられている。
オートショップまで歩く道も自転車を買ってしまえば
楽になるな〜などと思いながら商店街を抜けていく。
お店の看板が見えた所で、ふと見慣れた人物が視界に入る。
その人物が誰なのかを認識したと同時に向こうがこちらを振り向いた。
「おっ」
ドキリと胸が高まり、声が上擦る。
「あ、こんにちは…東方君…。」
決して故意ではない。
恋でもはない。
「西園寺サンじゃあないっすか!」
人懐こい笑顔を浮かべ、右腕を大げさに振りながら挨拶をしてくる
同級生、東方仗助。
彼は女の子からの人気も高く、裏表のない人の良さから友人が多いみたいだ
(あの康一くんですら仲いいみたいだしね)
しかしその反面、ヤンキーと喧嘩しているところも
たびたび目にするため、どうしても怖さがぬぐい切れない
(この前も吹っ飛ぶほどの殴り合いしていたし)
自転車を見に来たとは言えすぐに買う気もなかったため
挨拶だけしてそそくさと通り過ぎることにした
(自転車を見に来た、ってまだ言っていないから大丈夫よね)
「じゃあ、」
またね、と言おうとした私より先に仗助が口を開く。
「西園寺サンもバイク見に来たんスか?」
「えっ…。」
ヤバい、これはマズいぞ、西園寺 薔薇子。
彼はバイクを見に来たらしいが(現にバイクの前に居る)
どうやら私もバイクを見に来たと思われているらしい。
「私は、別に…、」
「俺もカッチョイイバイク欲しいなあなんて思って
下見に来たんスよ。
やっぱ大型が良いっすねぇ〜〜。
この前、露伴っつー知り合いのバイクに乗ったときに」
部品レベルまでバラバラにしたバイクを直して…
などと訳の分からないことを語っている東方仗助。
「あの、東方君」
声をかけるとふと我に返ったのかこちらを向く。
「大型二輪は18歳にならないと取れないよ。」
「えっ!」
「いま、知り合いのバイクに乗ったって……?」
まさか無免許か?やはり不良なのか
「いや!あれはその緊急事態っつーか、
あのゼファーは400CCだったし…多分…」
「えっと…意味が分からないよ…」
ゼファー?400?
バイクに無関心な私にはよく理解できなかったが
とにかく痛いところを突かれて焦っていることは感じた
「ま、まあ下見ッスから!」
「あ…、はぁ…」
それからしばらくどの車種にするか、どの色にするか、
バイクかったら何処にいこうか、など延々夢語りをきかされた。
(早く話を切り上げて帰りたい…。
もう自転車なんてどうでもイイよ…。)
意識が遠のき始めた時、ふと東方仗助が声を上げる。
「西園寺サン、このあと暇っすか?」
思いもよらない質問に良からぬ考えがよぎる。
(ど、どういう意味だろう…。)
「えっと、予定はないけど…、」
予定があると言ってしまえばさっさと帰れたものの
嘘をつくことに後ろめたさを感じ正直に告げてしまう。
そんな私を見てぱっと人懐こい笑顔をこちらに向ける東方仗助。
「それならよォ〜〜〜、
イタリア料理、食べに行かねーっスか?」
「い、いたりありょうり!?」
突然の誘いにもはやオウム返しするほかなかった。
「霊園の先にある小さいレストランがあるんすよ。
トニオさんっつー人がひとりでやってるんすけど、
普通に食ってもすげーウマイんすよ。」
普通にくっても?
東方仗助は天然さんなのか?
彼の言葉のチョイスが逐一気になる。
「俺今日なんも食べてないんすよね」
話す前の印象とはだいぶ変わった彼を何となく、
もっと知ってみたいと淡く感じた私は無意識に誘いにうなずいていた。
「じゃあ、行こうぜ!」
名字で呼ぶのかったるいから薔薇子と呼んでいいか
などと聞いてくる彼に私は
よろしくね、仗助君
と答えた。
彼が人に親しまれる理由がちょっと分かった気がして
得した気分でイタリアンレストランに向かうのであった
end...
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