●
きらみく
輝嵐くん:ボスゴドラ♂
⇒基本的に呼ばず、「美紅」
美紅
:キュウコン♀
⇒「貴方」、「輝嵐」
関連作品
夕闇に光る指輪
裏社会を生き残る破壊魔×神様に育てられた愛娘
Mistyは裏社会で名の知れた犯罪組織。暴力による強さも狡猾に立ち回る思考も篭絡する魅力も。誰かしらが何かを備え、多様な犯罪に組織であった。そこに属する輝嵐くんは高い攻撃力と防御力を備え、破壊魔の名に相応しいボスゴドラである。無愛想な輝嵐くんは他人とあまり馴れ合うことをせず、諸悪の根源である紗霧さんに逆らうことをせずに任務を遂行している。もっとも、輝嵐くんが面倒臭がりではなかったとしても余程の理由がなければ紗霧さんに逆らうことをしないだろうが……。馴れ合わず逆らわずなのは死が身近にある裏社会で生き延び、面倒事を避けるための処世術なのかもしれない。
紅の森の主として森の最奥に住まう美紅は火の神と信仰される緋王の寵愛を一身に受けているキュウコンである。元より神秘に包まれた種族であるが、緋王の寵愛を受けることで神性を身につけた。緋王の愛娘であるため他の神々との交流もあり、ある意味神の世界で生きているとも言える美紅。緋王に拾われるまではどこにでもいる野生のロコンとして暮らしていたため、人の世に無知というわけではない。だが、150余年の大半を緋王のもとで育った美紅は箱入り娘も同然。年相応に落ち着きがあり、思考も達観しているわりにどこか純粋で無防備なのは緋王の寵愛を受けすぎているせいかもしれない。
決して交わることのない世界で生きている2匹が出会い、時間を共有するようになったのは運命の悪戯なのかもしれない。などと、言われれば。輝嵐くんは冷えた目をしてあほらしいと言いかねないし、美紅は「運命の悪戯って神様の気紛れなんですよね。あの人たちがこんな可愛らしいことするわけないかと」なんて夢も希望もないことを言うだろう。だが、住む世界が全く違う2匹の出会いが偶然や運命によるものではないというのであれば、出会うべくして出会った必然的なものとなる。それこそ、前世から繋がる深い縁に手繰り寄せられたかのような。誰よりも現実的に物事を捉えながら、誰よりもロマンチックな2匹なのもこの縁の深さ故なのかもしれない。
特別扱いしない特別な相手
緋王の加護を受けた美紅は通常のキュウコンに比べて強すぎる神通力を有している。その力を用いて紅の森を作り、あらゆる事情を抱えて人間たちに怯えているポケモンたちを保護している。美紅様と慕われることは嬉しいのだが、神様のように扱われているために若干距離を感じなくもないことに少し寂しさを感じている美紅。だからこそ、輝嵐が他の子たちに対する態度と変わらずぶっきらぼうで雑に接してくれることが新鮮で、物珍しさから興味を抱いて絡み始めたという。2匹が出会ってから早い段階で美紅の方が輝嵐にべたべた触ることがあったのは、朱彦以外で距離をおかずに接してくれる子に出会ったのは初めてだからだ。距離感が掴めず、朱彦に対してと同じように接していたのだ。
口煩い美紅の信者……特に福とかは輝嵐の態度を膨れっ面で口煩く咎めることをしたが、どこ吹く風と聞き流す。別に美紅に対して特別意識があったからとかそういうわけでなく、自分がいたい場所にいようと思っただけで。そこが1番静かな場所が美紅のいる森の最奥だったからだ。まあ、森の最奥にいる美紅が絡んでくることはあるが基本的には静かだし、上質なキュウコンの尾を枕に昼寝できることを考えれば然程気にする問題ではなかっただろう。
緋王からも他のポケモンたちからも特別扱いをされ続けてきた美紅にとって輝嵐くんは特別扱いをしてこない特別な存在へとなっていた。特別扱いしていないというが、神様の加護があり経験の差的にも不利な相手の前で眠るという無防備な行動をとる輝嵐くん。眠りが浅いことを考えれば敵意でも向けられればすぐに起きるだろうが……だとしても、すぐ傍に他人がいるにも関わらず睡眠をとるのは輝嵐くんらしくない行動だろう。そう考えれば、美紅の尻尾を枕に寝るようになった時点で皆と違う形で特別扱いをしているような気もするが。この近すぎず遠すぎず曖昧な関係でありながら、自分たちなりに分かりにくい特別扱いしているところがこの2匹の尊いところだ。
一世紀を超える年の差
年齢不詳。カネの塔が健在している頃に幼少期を過ごしたという話から推定150歳以上とされる美紅。裏社会に生きることから同世代と比べたら圧倒的に濃密な人生を歩み、経験豊富であろうがそれでも22歳と若々しい輝嵐くん。年の差が一回りだとか倍近くあるとか、そんなものが可愛く見えるくらい2匹の間には差があった。
話が噛み合わない。ジェネレーションギャップが胸を抉る。こんな年上を相手にさせてよいのだろうか。子ども扱いされて悔しい。その他もろもろ。年の差についてまわる不安要素は……この2匹に限っては壁としてぶつかることはあまりなかった。100歳以上の差、つまり1世紀分。途方もない数字ゆえに実感が持てず1周回って気にすることができないのか。美紅たちの「10年で1歳年取るようなものだから」という時間感覚が狂いに狂った主張のせいか。それとも輝嵐くんが細かなことを気にして不安を抱くようか繊細な質ではなく、何しても変わらないものを悩むとか面倒くせえと一蹴するタイプだからか。2匹の関係が穏やかで安定したものなのは年の差を気にして拗らせることがなかったからだろう。
1世紀はとうに生きた美紅であるが、そのわりには子どもっぽいを通り越して幼いときがある。美しい見た目で誤魔化せているが、輝嵐くんと祭りに行けばはしゃぎ、あれこれ目移りしてるうちにはぐれていそうなところなど幼子の振る舞いと言わずしてなんとしようか。幼少の頃に緋王に拾われて愛娘と寵愛を受けるようになってから、世間に触れることが少なく誰かと一緒の遊んだ記憶が薄いせいだろう。輝嵐くんの前だと気を張らずに好きなように振る舞ってもよいと安心しての行動。要するに甘えているのだ。そんな美紅を見て呆れることはあれど、面倒と思うこともあれど、なんだかんだで付き合ってくれるのだから輝嵐は実はとても理想的な彼氏なのではなかろうか……。
言葉より行動による愛情表現
2匹の間で改まった告白はなかった。共にいるようになってからも好きだの愛してるだの恋人に囁くような甘い言葉を口にすることもない。そんな2匹の関係を恋人と称する決定打はなかったし、もしかしたら2匹にお互いがどういう存在なのか聞いても恋人とかそんな回答は返ってこないかもしれない。そもそも、その質問に対しての反応は鼻を鳴らして無視するか、笑顔で流すかのような気がする。自分たちの関係は自分たちだけが知っていればいいし、他人に語るようなものでもないというやつなのだろう。
長い年月を生きた美紅にとって輝嵐くんといれる時間はほんの一時のこと。瞬く間に別れの時が来ることだろう。それは誰よりも理解していることであり、だからこそ美紅は今まで同じように長寿の朱彦たちとしか長い付き合いをするような関係を築かず、紅の森で保護しているポケモンたちはいずれ外の世界に旅立てるように育てているのだ。そんな美紅が輝嵐くんと共にいることを、彼の時間を自分が貰うことを受け入れたのは意外とすごいことなのだ。輝嵐くんからすればあげたつもりもなければ自分が居たい場所にいるだけだと言いそうなのだが、美紅からすれば僅かしかない尊い時間を自分の傍で消費していることは輝嵐嵐くんからかけがえのないものを貰っているのと同義なのだ。それはとても幸せなことで、胸いっぱいになって時折好意を口にすることはある。そして、身を委ねるようにもたれてみたり、触れてみたり、甘えてみたりと。普通の女の子のような行動をとることが増えてきている。輝嵐くんが長期間傍を離れたときには顔に出すことなく平静を装っているが、2匹でいるときに拗ねたようにみせることからも美紅が輝嵐くんを恋しく思っていることは明白だ。
対する輝嵐くんといえば美紅以上に言葉が少ない。というか、美紅の記憶を遡る限りだと1度たりとも愛や恋を表す言葉を伝えられたことないし、輝嵐くんの性格上生涯をかけても聞くことはないかもしれないとすら思っている。だが、それに不満があるわけではない。言葉がない代わりに分かりやすく行動で特別扱いされているというのにどうして不満を抱こうかと言えるくらい輝嵐くんの行動は分かりやすいのだ。彼はとても面倒臭がりでぶっきらぼうだ。会話を弾ませようとせず、一言返事で途切れさせることもする。絡まれてもスルーするし引っ付かれようものなら引き剥がすだろう。他人に興味がないのもあるし、パーソナルスペースが広い方だと思われる。けれど、美紅に対しては会話を弾ませることまではせずとも律儀に相槌を返してくれる。珍しいことだがべたべたと引っ付かれたときには暑いと文句を言うことをしても剥がすことせず放置をし、美紅の9本の尾を枕にして眠ることだってするのだからスキンシップという面ではむしろ輝嵐くんからの方が多いくらいだ。なんて可愛らしい。
そもそも、輝嵐くんは美紅が住まう紅の森に身を置くために長年身を置いていた組織を抜けてきている。その際に目を背けたくなるような酷い制裁を受けること知っていながら、そのけじめをつけて共にいることを選んでくれているのだ。愛の言葉の有無なんて些細なもので、美紅からすればそうまでして自分のところに来てくれたことが1番の愛情表現だと捉えている。誰にも語らず、表情にも出さず。もし伝えるにしても輝嵐くん本人だけにしようと思っているが。そんなことされてしまえばときめかないわけがない。それ以前より愛おしさを抱いていたが、それとは別に1匹の女の子として輝嵐くんに恋心を芽生えさせたのはこのときだったという。
哀しきかな寿命の差
1000年を生きると言われるキュウコンに対して今も昔も身を置く環境こそ特殊であれど種族としては寿命に関することで特筆することのないボスゴドラの寿命は短いものである。
きっと輝嵐くんの中には死ぬ時は共にというロマンチックなものはないだろう。ただ、自分が死ぬことで美紅が悲しみ立ち直れなくなるというのであればこの手でその命を摘むことを選ぶであろう。そして、もしも美紅が何の使命を持たず誰かの命を背負うことも無い1匹だけの命であったら輝嵐の手をとっていたことだろう。残念ながら現実は願い通りいかないもの。美紅自身以外にも真昼と夜子の命を背負っているし、紅の森に住まうポケモンたちを守るという使命があるため受け入れるわけにはいかなかった。輝嵐くんの前では気を張ることをせず、素直に甘えるようになったとしてもそこばかりは曲げるわけにいかなかったという。
何十年後かの話。輝嵐くんに寿命が訪れ、死別をすることになる。目を覚ます日は二度と来ず、声も聞けぬのだと美紅は深い悲しみに襲われることだろう。何日と泣き続け、きっとぽっかりと空いた心の穴は埋まることはない。覚悟していたこととはいえ、どうして自分はこんなにも寿命が長い種族なのだろうと恨めしく思う日も来ることだろう。何百年生きようと愛しい者との別れは耐え難いものだ。けれど、輝嵐くんの手を取らないことを選んだのは自分なのだから悔いることだけはしたくない。人知れず涙することはあれど、それ以外のときはいつもの穏やかな笑顔を皆を見守る日常へ戻った。
輝嵐くんはというと、どれだけ時間がかかるか。少なくとも100年が可愛く見えるくらい長い時間になることは分かりきってる。それでも一足先に三途の川を渡るのではなく、美紅が来るまで待とうとしてくれているらしい。面倒臭くなったとか飽きたとか言って気を変えてしまわないかと不安になりそうだが、なんだかんだて待っていてくれるのだろうという信頼がある。再会した日、美紅は子どものように泣きじゃくって輝嵐くんに抱き着くことだろうが……それこそずっと遠い未来、2匹にしか知らない話である。
●
ひと花ひと花
花菱さん:ゼブライカ♂
⇒「ひとひら様」→「ひとひらさん」
ひとひら
:エンペルト♂
⇒遊女時代呼ばず→「花菱くん」
初恋は遊郭に落ちていた
まもなく四十路となるひとひら。彼は今だ初恋すらしたことなく、当然男女の営みもしたことはない。ひとひらがあまりにもピュアすぎるので性欲旺盛の友人たちもその手の話題を振ることができなかった。そんなピュア路線まっしぐらなひとひらが初恋に落ちた相手は遊女。誰もが驚いた展開である。
そもそも、性風俗に無縁なひとひらが遊郭に足を入れることが予想外であった。紅の森に住み始めて何十年と森の外に出ていなかったひとひらなのだから当然のこと。遊郭に連れていかれる初日なんて泣きながら嫌がったという。しかし、恩人であり神様のように信仰している美紅に頼み込まれたら断ることもできず。神々が利用する遊郭で振る舞われる酒を目的に訪れようとする朱彦の世話係として付き添うことになった。このとき、普段は朱彦が怖くて隠れがちなひとひらは「なんでお酒に強いのに溺れるほど飲もうとするんですか!」と。声をあげて朱彦を怒ったという。なお、怒られた本人は「強いからこそ食前酒から寝酒まで一度に味わえるんじゃないか」と。悪びれもなく返されている。こうして、毎度酔って寝落ちするまで酒を飲もうとする朱彦の世話係もとい回収係として遊郭に連れてこられたひとひら。初めて見る景色は眩しすぎて目が潰れるかと思ったし、華やかな遊女たちに圧倒された。場違いすぎて食事も酒も喉を通らず、隅の席に座って縮こまって時間を過ごそうとするのは自然の流れであった。しかし、遊女からしたら一般人とはいえ、朱彦の付き人として来たひとひらも客に違いなく。放置するわけにもいかずお相手をしようとしてくれたのだ。だが、その心遣いに対して臆病なひとひらは涙目で困惑することに。その様子を見かねて声をかけてくれたのが花菱さんである。
最初は助け舟を出してくれた花菱さんに対してもあうあうと狼狽えていたのだが、そんなひとひらに対しても笑顔を絶やさず。つまみやすそうな食事をよそってくれたのである。jこう見えても根っこから野生育ちのひとひら。調理された食事は物珍しく、その美味しさに幸せそうな顔をして頬張っていたという。これである程度の緊張が和らいだというのだからなんてちょろい。食事を満喫するひとひらを確認した後、花菱さんはひとひらにつきっきりでいるわけでもなく朱彦のお酌に戻ろうとする。この適度な距離感と細やかな気遣い、そして何より困っているときに助けてくれたというシチュエーションにひとひらはあっという間に花菱さんに落ちたのだ。四十路間近でした初恋のきっかけはとてもちょろかった。
ピュアな恋と淫らな行為
一目惚れ同然であった。けれど、恋愛と無縁であったひとひらがそれを自覚するには少しの時間を要した。朱彦に連れられて遊郭に訪れ、恐る恐ると花菱さんを指名したのも最初は程よい距離感を保ちつつ、美味しい料理をよそってくれる。安心できる人だからという理由。そして、数度通って花菱さんに恋心を抱いていることを自覚する。園児のように幼いところがあるひとひらにしては早い自覚、しかも誰にも指摘されていないというのに。間近で見ていた朱彦は意外そうな顔をした後、「自分の気持ちが分からず困惑すると思っていたんだけどな。つまらん」と。ひとひらの様子を酒の肴にしていたようなことを言う。それに対してひとひらは「確かにこれが初恋になるくらい僕には無縁なものだったけど。さすがにそこまで子どもじゃないですよ」と。苦笑した。
さて、初恋を自覚したところでひとひらを悩ませたのは相手が遊女であること。遊郭とは芸を楽しめる場であると同時に色と恋な惑わせて夢を見る場でもある。いくらピュアなひとひらでも理解していた。その中で本気で恋に落ちた客が現れたら困らせてしまう。遊女として長いなら、そういう客がいたこともあって上手いように流したこともあるかもしれない。けど、きっとそれはとても気力を削がれることだろうから、できれば避けたい。悩み、思いついたのは相手の提示するルールに従い、土俵に立つことである。この場合、花菱さんが属する遊郭のルールに従い、時間を共にするためには指名して報酬を支払う。そして真っ直ぐに花菱さんを見つめ、誠実かつ素直に接することであった。もっとも、ひとひらは嘘が壊滅的に下手なので意識せずとも素直なのだが。花菱さんを困らせないために抱いている恋情を隠し通すことを決意したが、口にしないだけで表情や雰囲気から好意がだだ漏れである。本人は隠し通せているつもりだが、察している人の方が多かっただろう。
花菱さんを指名して食事を共にするという穏やかな一時を過ごすが、ここは遊郭。先客がいることも、その客とまぐわうこともある。理解しているつもりであったが、実際に遭遇すると心抉られるものがある。最初の頃は代わりの者を指名することなく、朱彦を置いて1匹紅の森へ帰宅した。お店の人に迷惑をかけてはいけないという一心で堪えていた涙も紅の森に戻ったところで溢れだす。人知れず泣き、しばらくの間は遊郭に足を運ぶことができず。日を置いて、落ち着きを取り戻した頃に再び訪れるようになった。
ピュアな恋心で健気に思いを寄せても、通い続けていれば遊郭の空気に呑まれることもある。意外にも酒に強いひとひらは酔いに身を委ねて……ということはなく。ほろ酔いでふわふわと夢見心地ではあるものの、理性はしっかり残っている。そのような状態で花菱さんの髪や頬に触れ、手をなぞって指を絡め。いつの間にか部屋を移動し、2匹だけの密な空気ができていた。恋情を孕んだ熱っぽい瞳と花菱さんを求める切ない表情。初めての行為に緊張して敏感に反応する身体。あまりにも初々しく、恥じらう姿にくすぐられるものがあれば。丁寧に行いたいと思うのも男心。当然、最初はひとひらが抱かれる側であった。これが原因で花菱さんは見誤ることとなった。無垢ゆえに一度仕込んだことはまるまる全て覚え、花菱さんにも気持ち良くなってもらいたいという思いから同じことを行おうとする。恐るべき学習能力。そして、花菱さんを震撼させたのは何度か達しても疲弊を見せぬ絶倫の様。散々抱かれておいてから自分も抱く側に回れる余裕。普段のほわほわとした幼さはどこへ行ったのだと頬を引き攣らせたくなるほど。初夜で痛い目を見た花菱さんは以降、ひとひらを少しでも疲れさせられるようにたっぷりと前戯を行うようになった。
遊女と客は終わりを告げる
どれだけ親交を重ねても、遊女と客の関係であることに変わりはなく。遊女である花菱さんの年季が明けるか、借金を返しきるか、身請けをされるか。いずれかの条件を満たせば店からいなくなることになる。今はひとひらが遊郭に足を運ぶことで花菱さんと会えるが、花菱さんが店を辞めれば唯一の術すら失ってしまう。花菱さんに会えなくなることが恐ろしく、考えないようにしていた。濃密な甘い時間を共に過ごして、花菱さんの寝顔を眺めて夢見心地になり。苦手な眠れない夜の時間は好きな人と過ごす一時に変わり。終わりがあることを考えなければ幸せであった。いつまでも続いてほしいと願うひとひらに反し、花菱さんは遊郭から出ることを夢見て勤めていた。花菱さんの努力が実ることはひとひらの願いが散ることになるとはなんともまあ悲しいことか。
花菱さんが遊女を辞め、遊郭から旅立つことが決まる。花菱さんを気に入っていた客はもちろんのこと、彼に世話を焼かれて懐いている遊女たちからも惜しむ声をあげられていた。その光景にひとひらは混ざることはできず。自分よりも花菱さんに貢いでいる大切な客が花菱さんと最後の時間を過ごすのだろう。そして、大切な友人たちとの別れの時間も必要だろう。……という思いを建前に、花菱さんとのお別れを受け入れられずにいるひとひらは会いにいけずにいた。けれど、花菱さんはそんなひとひらが再び訪れるのを待っていた。朱彦に引きずられる形で久し振りに遊郭に訪れたら、花菱さんが迎えてくれるのだからどれだけ驚いたことか。「一緒に食事して、最後までいてくれない?」と。お願いされたことがどれだけ嬉しかったことか。
最後の日の夜。2匹は食事を共にした。そして床についた。終わりが近づくことに寂しくなるのだが、同時に花菱さんが楽しませてくれようとしていることが伝わって頑張って笑おうとするひとひら。そんなひとひらを押し倒し、花菱さんは「最後に愛させて……?」と。花菱さんの色っぽさと好きな人から言われる愛させてほしいというその言葉。どれだけ嬉しかったことか。けれど、ここで愛してほしいという言葉を返すのは心からの願いを口にしてしまうのと同じこと。だからひとひらは「いっぱい、好きなようにして?」と。そう返し、身を委ねることしかできなかった。
お互い、胸の内にくすぶらせている思いはたくさんあった。しかし、遊女と客という関係では口にすることを躊躇った。だから、どちらからも口にすることができず。相手の温もりを忘れないように触れ合い、夜明けとともに別れた。
途切れた縁は再び結ばれる
花菱さんと別れ、幾年か。ぽっかり空いた胸の穴が埋まることなく、ぼんやりと過ごしていた。一方、花菱さんは遊郭から去った後、故郷へ帰った。家族も友ももういないであろうと思いつつ、それでも故郷を確認をして心の整理をつけたい。さすが花菱さん。失ったものを確かめ、前を向こうとする強さは若さゆえか。それとも遊郭でたくさんのものと触れ合って学んだことがあるからか。はたまた両方あってのことなのか。故郷に姉と兄を置いて逃げ、もしかしたら生きているかもしれないという可能性に気付きながらも確かめにいけなかったひとひらにはない強さである。過去との向き合い方が正反対な2匹だからか、遊郭で最後の時間を過ごした後の引きずり方にも差がある。
花菱さんが1匹で過去と向き合っている間、ひとひらはというと再び紅の森に引きこもっていた。朱彦が外に出すために遊郭に連れて行ったというのに悪化してるのだから頭の痛くなる話。「四十路手前でする初恋だから拗らせたのでしょう。しばらくそっとしておいてあげましょう」と。美紅が温かく見守ることを提案するため、花菱さんとの仲を見てきた朱彦も夜子も何も言えなくなる。が、夜子としてはようやく寝かしつけれたひとひらが魘される悪夢の内容が増えてしまっているので早急にどうにかしたいところ。打ち手なしと周囲は頭を抱えていた。月日の流れに身を委ね、呆然と過ごしていたある日。紅の森に見慣れぬ人影が迷い込む。その足取りは助けを求めてるものでも急いでいるものでもなく、迷い人と認識したひとひらは森の案内人として出口まで連れて行くために声をかける。距離を縮め、人影を明確に捉えて動揺する。揺れるポニーテールがなかったからか。それとも、想像にもしていなかった人物だったからか。混乱するひとひらの変わらぬ姿に笑いながら久し振りと口にする花菱さん。その声で視覚情報と認識が一致させたひとひらは花菱さんが紅の森に、自分の目の前にいることを理解する。思わぬ再会に喜び以上に驚きが勝ったひとひらはぎこちない動きで逃走した。
逃げるひとひらを終始微笑ましそうにしながらゆっくりとした足取りで追いかける花菱さん。ひとひらは逃げた先にいた夜子の背に隠れて心を落ち着けようとする。ようやく口にできた再会の挨拶。そのまま続く、どうしてなんでの言葉。花菱さんは笑いながら「ひとひらさんと会うためには俺から行くしかないでしょう」と。まるで僕に会うためだけに紅の森に来たみたいだ。住民以外の者が意図してここに来ようとしたらとても難しいことなのに。不思議そうに首を傾げていると花菱さんはひとひらのことが好きだからだと言う。そして、「お店にいた頃からひとひらさんに好かれていると思っていたけれど違う?」と。気持ちがばれていたことに動揺する。そしてその話を掘り返して言われた好きという言葉は自分と同じことなのではないかと期待して顔を真っ赤にする。2つの恋が結びついた祝うべきできごと。ひとひらの隠れ蓑にされた夜子は遠い目をしながら思う。そういう話は私を間に挟まずに2匹っきりでやってほしい。
余談だが、遊郭の客であるときからひとひらが花菱さんに思いを寄せていることは察していた。だが、花菱さんに対して好意を表す言葉は口にせず。名を呼ぶことすらせず。そのわりに懐いた他の遊女の名は呼び、好きなものは好きと言葉にする。もしかしたら自分の思い違いかもしれないと確信を得れずにいたという。だから、最後の夜に思いを告げることをしなかったという。ちなみにひとひらは源氏名である花菱さんの名を呼ぶと遊女と客の関係を再認識させられるのが辛くて呼べなかっただけである。恋人の関係になってからは照れが勝り、呼ぶまでに時間を要していた。
あたたかいごはんは幸せの味
野生のポケモンとして生まれ育ったひとひらにとって食事とは採取や狩猟で得たものを生のまま齧るか焚き火で焼いたものを摂取することである。飢えに困らず、食べ物があるというだけで贅沢なこと。それに瑞々しい果実は糖度が高くて甘いし、脂の乗った魚は噛みごたえがあって美味しい。故に、食生活に何の不満も抱いていなかった。が、それとこれは別の話。ふんだんに味付けがされた華やかな盛り付けをした遊郭の料理は一口食むだけで頬が緩んだ。どれもこれも美味しい。そして何より、人が手間をかけて作ってくれた温かな料理は幸せな気持ちでいっぱいに満たしてくれた。時々濃い味付けのものにびっくりし、目を瞑って舌を出すという驚きの表情を浮かべて固まることもあったがそれすら楽しい食事であった。料理1つでここまで百面相する客というのも珍しいだろう。毎度料理をよそっていた花菱さんは幸せそうに料理を頬張るひとひらの姿を見て、もっとたくさんの温かい料理を食べさせてあげたいと思うように。もともと遊郭を出たらちょっとしたお客さんと話せる小料理屋を開きたいと思っていた花菱さん。ひとひらの美味しそうに食べる顔をきっかけに本格的に店を開くことを決意した。
花菱さんが遊郭から出るまで。そして、素人が店を出すまで。年月を要することになる。そんな花菱さんの努力と苦労を傍で見ているひとひらができることは振る舞われる料理を「美味しい」と言いながら頬張ること。けれど、それはお世辞でも何でもなく本心からの言葉だからこそ花菱さんの支えとなったのかもしれない。ひとひらにとっては遊郭の料理はプロが作るだけあって美味しいことこの上なかった。極上の味に舌が肥えそうになって困ったくらい。けれど、それ以上に大好きな人が自分のために作ってくれた温かい料理というのは幸せな味がした。だから本気で「毎日食べたいくらいだよ!」と。プロポーズに使われる言い回しだとも知らず、口にした。他意がないことを察した花菱さんは話を掘り下げることなく、ひとひらの胃袋を掴み続けた。
小料理屋を開き、同棲を始めた2匹。花菱さんの手料理を毎日食べられる贅沢な日々。ひとひらは少しでも花菱さんの力になりたくて、手探りながらも小料理屋のお手伝いをしている。とはいえ、カップラーメンの作り方も知らず差し出されると湯を注ぐことをせず粉末をまぶしてそのまま齧ろうとするほど料理ができないので厨房に立つことはせず。接客を率先してやろうとしている。日替わり定食の解説や本日のおすすめを聞かれると話に花が咲かせすぎてしまう。
抗争が広がる街に生まれたひとひら。神隠しにあい、遊郭に売られた花菱さん。波乱万丈な道を歩んできた2匹はこうして平穏で幸せな日々を共にするようになるぞ。
●
松天
松
:クリムガン♂
⇒「天威」
天威さん:ガブリアス♂
⇒「松」
死にたがりの標的に
退屈と寂しさを紛らわすことができるのなら、相手なんて誰でもよかった。そういう理由で最初手を出した黒陽さんは鬼灯と結ばれたので、自分がシたいと思ったときに更に言うと鬼灯がいない場で手を出せなくなった。鬼灯と禊萩誘い、4Pは変わらずするが……その話はまた別のところで。そうして周囲の人間関係の変化にあたり、松は新たな相手を探すことにした。威勢が良くて、何度ヤっても飽きないような。あわよくば殺意を強く抱いて激しい抵抗の末殺してくれるような。黒陽さんは死にたがりの松にとって理想的な相手だったのだが、当時から黒陽さんに思いを寄せていることを知っていたので鬼灯と性欲の塊である禊萩を誘ったせいで抵抗されても押さえ込めたから命の危険はなかったし今回は自分だけでヤろう。そんな死にたがりの暗い思考をぐつぐつと煮込みながら標的を探し始め、哀れにも選ばれたのは若い頃の黒陽さんに負けず劣らず暴れ回る天威くんであった。
ガブリアスという獰猛な種族の天威くんは人の姿をしていても凶悪な力をしていた。それこそ好きなときに火事場の馬鹿力を発揮できるような。それであっさりと殺されるのも松としては困らないのだが、できれば長年お世話になって愛しい友人たちが守った散華の名が落ちない死に方をしたい。だから天威くんを誘い込んで手を出そうとした時点で殺されるのは避けるべく、計画を練ることにした。これまで親しくしていたわけでもないおじさんに声をかけられて簡単についてくるような子ではないのも承知のこと。屍姦という特殊な性癖を抱えている天威くんなので、拷問の果てに出来上がった死体の処分に困ってるから欲しければ取りにおいで。そんな言葉で誘うことは簡単だろう。問題はどう捕らえるか。思考の末、雪柳の協力を得て大人しくしなければ拷問部屋ごと氷漬けにしていくという脅迫をすることにした。なお、性的なものが生理的に受け入れられず軽蔑すらしている雪柳に協力を依頼したときはそれはもう冷え切った目で断られた。だが、「あの手のタイプは苦痛や恐怖で吐くことをしないだろう。そういう奴を落とす方法を探るために快楽で殺す実験をしていきたいんだ」と。もっともらしい言葉で丸め込んだという。最初、そういうことをするにしても他組織のポケモンを実験台にするのはいかがなものかと躊躇った雪柳。だが、散華側は梅が影臣さんに好き勝手されている時期があったことからお互い様として承諾を得られるだろうと納得してしまったのだ。
見事、死体を餌に連れ込まれた天威くん。最初は当然ふざけるなクソジジイと怒鳴り、大暴れした。が、その度に氷漬けとなった拷問部屋に閉じ込められて放置するドラゴンタイプの地獄に落とされる。寒さに弱まる身体を縛り付け、嬲るように愛撫する。ただでさえ体温を感じることが気持ち悪くて屍姦を好む天威くんなのだから、冷えきった身体に感じる体温はさぞかし気持ち悪いことだろう。けれど、松はそんなのお構いなしにと手を出し続ける。時には玩具を用いて。時には薬物を利用して。研究所で散々な目に遭ってきた天威くんにとって薬物ほど嫌なものはなく、薬を盛られるとなったときはそれはもう酷い抵抗であった。拒絶をするわりに媚薬を盛られたときの反応は良好であることから、松は抵抗するのであれば氷漬けの他に媚薬を使うという脅迫材料を増やした。嫌悪感しか抱けないのに身体の開発は進められ、快楽を感じる場所を増やされたときの屈辱といえばもう語ることすらできない。それでも天威くんは心を折ることなく、クソジジイの喉笛を噛み千切ってやると殺意を増していく。だが、死にたがりの松にとってそれはもう心地良いものであった。「いつか殺せるといいな」と。煽るくらいには天威くんに期待したという。
こうして松の新たな遊び相手として手を出されるようになった天威くん。犯される度に松への殺意と警戒心を強めるくせに、毎度死体に釣られてやってくるところが可愛らしいと思うようになる。が、天威くんとしては今回こそは手を出されたら殺してやるの勢いだったのだろう。力技なら天威くんの方が圧倒的に上なので可能性がないわけでもない。だが、そこを上手く丸め込むのが年の功。月日が経つにつれ、天威くんに愛着を抱いた松は氷漬けとか薬物はできるだけ避けてあげようという考えを抱くようになる。代わりに拘束道具を拷問室にある鎖や手錠ではなく、天威くんが身に着けている衣服やベルトでするようになった。簡単に引きちぎれるけれど、そうすると後ほど自分が困ることになるからできないと悔しがる顔がまたたまらない。言葉にも表情にも態度にも出さず、最初に手を出したときから接し方を変えることをしなかったので、松の気持ちの変化に気付く者はほとんどいなかったのだが……身体を重ねる回数が増え、天威くんが嫌がるくせに快楽で腰を揺らすようになる頃には手放すには惜しいと気に入っていた。そして、天威くんが戦闘の熱に浮かされながら松のもとに訪れ、何も言わず押し倒してきた日。吐息を零しながら松の名を呼び、蕩けた目で求めてくる。素直に欲しがる姿は普段とのギャップがあり、どっぷりとはまった瞬間となった。その日以来、天威くんへの愛撫がよりねちっこくなった松。これら全部無自覚であったので質が悪い。
←
ALICE+