うちの子達は全員可愛い。
短刀に限らず、太刀も大太刀も、髭が生えていても筋骨隆々でも、うちの子は兎に角可愛いと思うのが審神者として普通のことだと思う。
その中でもストレートに言葉で好意を示してくれる子は、尚更可愛いと思うのだ。
「主、清光、お八つ持ってきたよ!今日は僕が作ったんだ」
もふもふのポニーテールを揺らし、青い羽織を着た少年が執務室に駆け込んできた。
加州が近侍を務めるときは、決まって大和守安定がお八つを持って来てくれる。逆もまた然り、安定が近侍の時は加州が持って来てくれる。
「おっ可愛い〜。安定にしてはよく出来てるじゃん」
「花だけだとつまらないから動物も作ってみたんだ!主も見てよ」
仕事の区切りをつけ、安定が持ってきてくれた盆を除く。
そこには三つの湯呑みと、練り切りが用意されていた。彼が言う通り、練り切りは菊や椿の他にも兎や小鳥といった珍しい形のものがあった。
「安定すごいね!可愛くて食べられないよ」
「えへへ。歌仙に教えてもらって頑張ったんだ」
さすがは歌仙兼定。最近、料理の盛り付けや彩りが華やかになったのは彼のおかげだったのか。
「さ、食べよ!主には一番の自信作をあげるね」
そう言って、兎と桜の形をした練り切りを敷き紙に乗せて私の前に差し出した。彼の言う通り、色の付け方から、細かな切込みなどが丁寧になされていて可愛かった。味も勿論美味しくて、また作って欲しいなぁと言えば笑顔で頷いた。
「じゃあ次は主の顔を作るね!とびっきり可愛く作るから楽しみにしてて」
そう、これがうちの大和守安定という刀剣である。
優しい言葉遣い、白い肌にポッと落ちる桃色の頬っぺた、前の主である沖田総司の事を「沖田くん」と呼び親しげに話す姿も可愛らしい。
もちろん、可愛いからといって彼ばかり特別扱いをしているわけではない。神に誓って、贔屓もしていない。
それでも顔のにやけが自覚できるくらいには、彼の事を溺愛しているのだ。
◇
今日の演練では、部隊長に安定を任命した。
演練とは他所の本丸の刀剣男士と仮想空間で戦闘が行える鍛練の場である。仮想空間の為、刀剣破壊の心配もなく刀装も失わないため、戦場に送り出す前に隊の編成を試すにはうってつけの場だ。
安定を隊長に、長曽祢、蜻蛉切、加州、堀川、太郎太刀を連れてきた。安定は今日が初の部隊長で、しかも初の演練でもあるけれど戦場への出陣回数は充分にあったので思い切って任せてみた。
「僕が隊長か…出世したもんだ」
「期待してるよ、安定」
安定と共に演練の受付を済ませると、彼は口を堅く結んで大きく頷いた。
彼が気負いしすぎないようにと加州や堀川を連れてきたが、そんな心配は無用だったようだ。真っすぐと前を見る安定の横顔は勇ましかった。写真でしか見たことがないけど、きっと彼の前の主である沖田総司も敵を前にした時はこんな眼差しだったのではないだろうか。
受付で貰った番号札が呼ばれる。いよいようちの本丸の番が回ってきた。
「皆の武運を祈っています。いってらっしゃい」
「「はっ!」」
六振りの刀剣男士は声を張り上げ返事をした。
彼等を率いて羽織を翻し演練場へと足を踏み入れた安定の背中は、宛ら新選組のそれだ。
演練開始の笛が鳴り、一気にその場の空気が張り詰めたものになる。
「実力を見てあげるよ」
言うが早いが相手の刀剣に切りかかる。彼の一声に他の五振りもそれに続く。本丸でどんなにのんびり過ごしていようとも、戦闘中の顔つきは獲物を狙う獣と同じだ。
演練に来て、いざ刀剣男士達が戦う姿を見ると気が引き締まる。本丸に居るだけでは実感しにくいが、彼等は命懸けで戦っているのだ。だから、私は演練の度に彼等の雄姿を目に焼き付ける。
さぁ、うちの安定はどんな表情でどのように戦うのだろうか。
改めて彼の姿を探すと、大きく土煙を巻き上げる場所が目に付いた。
「オラオラオラァ!」
これは安定の声?
いやいや、うちの可愛い安定がこんなオラオラ系男士なわけがないだろう。これはきっと蜻蛉切だろう。見かけ的にアリだ。まだ彼とは一緒に過ごした日も浅いし、知られざる一面があったとしても不思議ではない。蜻蛉切は穏やかな物腰で紳士的だが、どの刀剣にも亜種は存在する。うちの本丸にも変わった性格の刀剣男士がたくさんいるのだ。“個体差”とはなんて便利な言葉なのだろう。
「沖田譲りの…冴えた一撃!」
浅葱色のだんだら模様が視界に映った。安定の羽織だ。
いやいや、うちの可愛い安定がこんなドスの利いた声を出すわけがないじゃないか。これはきっと加州だろう。沖田総司の刀であった彼ならセリフと合うじゃないか。おっと、安定も沖田の刀であったという話は聞き入れないぞ。
「一騎打ちなら勝てると思うかぁ?」
青い瞳をした刀剣男士が相手の一振りと向かい合っている。安定の瞳と同じ色だ。
いやいや、うちの可愛い安定があんな獣のような鋭い目をするわけがないじゃないか。これはきっと堀川だろう。うちの堀川は普段は気の利く可愛い子だが、和泉守兼定のことになると目の色が変わる。今も尚、和泉守を呼び出せない私を時折冷たい目で見ていることに私は気付いているんだから。泣いてない、決して泣いてはいないけども。
「おお、殺してやるよ!子猫ちゃん!」
黒くしなやかな髪が揺れる。安定と同じ髪色だ。
いやいや、うちの可愛い安定がこんな特殊な台詞を発するわけがないじゃないか。これはきっと太郎太刀だろう。ほら、うちの太郎太刀はボキャブラリーが豊富だからな。昔の流行語からネットスラングまで、彼自身が歩く辞書だ。私の意図しない知識まで彼は身に着けてしまったが、太郎太刀が楽しそうだからいいじゃないか。うん、そう信じたい。
「ふっはははっ!…お前が大将か」
真っ白な歯を見せて豪快に笑った。安定のような綺麗な歯並びだ。
いやいや、うちの可愛い安定がいくら戦闘中とはいえこんな言葉遣いになるわけないじゃないか。これはきっと長曽祢だろう。お酒が入ると豪快に笑うようになるし、その時と声が似ているような気がしなくもない気がするような気がする。ここで私の日本語がおかしくなっている事は気にしないでいただきたい。
「首落ちて死ね!」
………あれ、安定じゃね?
もう私の目は誤魔化せない。
高笑いをし、浅葱色の羽織をなびかせ、獣のような鋭い眼光で、黒髪を揺らし、覗いた白い歯は血を欲しているようにも見える。
もう一度言おう。
あれ、安定じゃね?
いや、安定じゃん。
「見てみて主!僕誉取ったよ!嬉しい!」
見事うちの本丸が勝利し、演練場から戻ってきた安定が花びらをまとって帰ってきた。
いつも通りの表情で駆け寄ってきた安定。
うちの可愛い安定。
スッと隣に蜻蛉切が現れる。
「主、顔色が悪いですぞ?」
ぽんっと肩に長曽祢の手が乗せられる。
「主、こいつに夢見過ぎだぜ」
ぎゅっと堀川が腕を掴んだ。
「見かけに騙されちゃダメですって、主さん」
あははと加州が苦笑いをする。
「安定はこんな奴だけど、よろしくね主」
こくり、と無言で太郎太刀が頷いた。
「今日は演練だったけど、僕が部隊長として戦場に出陣した時には大将の首持って帰ってくるね!そしたら僕の事もっと褒めてくれる?」
もふもふの髪を尻尾の様に揺らし、大きな瞳でじっと見られる。
うちの可愛い可愛い安定が、あんな言葉遣いで、あんな怖い顔で、あんな高笑いで戦うなんて……
「うちの安定がこんなに怖いわけがない!」
「タイトル回収乙」
長曽祢は笑い転げ、崩れ落ち掛けた身体を蜻蛉切が支え、堀川が私を励まし、加州は飽きれてため息を付いた。そしてオチを太郎太刀がかっさらっていったこの日を、私は一生忘れないだろう。