食事は大切

審神者としての初仕事は新たな刀剣男士を顕現させることだった。
一部隊六振りで形成できるため、最低でもあと五振りは迎え入れたかった。
資源とレシピ表とをにらめっこし、手伝い札を使い鍛刀を終わらせる。

「どんな子が来るか楽しみだね」
「そうだな」

山姥切と並んで鍛錬所の扉を開ける。

「よお大将。俺っち、薬研藤四郎だ。兄弟ともども、よろしく頼むぜ」

桜の花びらを身にまとい、目の前にはサラサラな黒髪が印象的な小柄な刀剣男士が現れた。
短刀に関してはきっと粟田口の誰かが顕現されるのではないかと思っていたが、その中でもしっかり者の彼が来てくれたことは実に有り難かった。

「初めまして、この本丸の審神者です。まだまだ未熟者ですが、どうぞ貴方のお力をお貸しください」
「これはこれは丁寧な自己紹介だな。俺は戦場育ちでな。戦場じゃ頼りにしてくれていいぜ。ま、なかよくやろうや大将」

大将と呼ばれるのは少しこそばゆかったが、その言葉の意味を噛みしめた。

その後も鍛刀を繰り返し、前田藤四郎、骨喰藤四郎、宗三左文字を顕現させることができた。
こんのすけ曰く、初陣となる函館は敵の力も弱いため六振り揃わなくても大丈夫とのこと。
本丸内の転移装置まで彼らを送り出し、私はこんのすけを連れて再び鍛錬所に戻った。

「まだ鍛刀を続けられるのですか?」
「うん。やっぱりもう一振り欲しいしね」
「そんな一度に鍛刀されなくても…審神者様のお身体が心配です」
「昨日は久しぶりによく寝れたから調子が良いんだ」

ふかふかのお布団で八時間も眠れたのだ。しかし体内時計は正確らしく、六時前に飛び起きた。二度寝を決め込もうとしたが、全く寝付けず朝から洗濯や部屋の掃除などをしてしまった。どうやら私の体はまだこのホワイトさに慣れていないらしい。

再び鍛錬所の戻ってきた私は、先ほどよりも多めに資材を入れた。狙いは太刀だ。大太刀ではまだ上手く育成もできなさそうだし、全体的に能力も高めで安定感がある太刀はぜひ早くに迎え入れたい。
鍛刀時間を見ると三時間という文字が表示された。同じように手伝い札を使い鍛刀を終わらせる。

「僕は、燭台切光忠。青銅の燭台だって切れるんだよ。……うーん、やっぱり格好つかないな」

右目を眼帯で隠した大柄の男が現れる。
燭台切光忠は太刀のなかでも比較的手に入りやすい部類だから、彼の資料にはよく目を通していたものだが、いざ目の前にすると思った以上に大きい。これで太刀だとすると大太刀だとどうなるのだろうか。本丸の鴨居の高さが心配になった。

「初めまして、この本丸の審神者です。まだまだ未熟者ですが、どうぞ貴方のお力をお貸しください」

気を取り直し今日何度目かの言葉を言えば「よろしくね」と微笑まれた。
人の体を得たばかりというのに女を落とすのに手馴れてる感があるな、と失礼な感想が頭に浮かんだ。

「さて、僕は何をすればいいのかな?」

そんな事を考えていた私を彼は真っすぐに見下ろしてそう言った。
さて、時刻を見るとすでに十七時を過ぎていた。
午前は新たに顕現させる刀剣たちの用の部屋を掃除し、昼からは刀装作りをしていたため意外にも時間が経っていたのだ。ちなみに山姥切は刀装十個中、三つ消し炭を作った。

「じゃあ夕飯作るのを手伝ってもらってもいいかな」
「オーケー、任せてよ」

本丸内を簡単に案内しながら厨房へと向かう。
燭台切光忠は料理好きの個体が多いということが他本丸の報告書に記載されていた。これから刀剣が増えることを考えると私一人では手が足りない。他の刀剣がどのくらい料理ができるかは分からないが、一先ず燭台切に覚えてもらおう。

「ここだよ」
「わお!結構広いね」

物珍しそうに辺りを見回す。彼らの時代にはなかった電化製品をひとつひとつ教える。使い方に関してはあとで取扱説明書に目を通してもらうとして、今日は私の指示で料理を開始することにする。

「審神者様、今日は何を作られるのですか?」
「ハンバーグにしようと思って」
「あ、例のあれですか!?」
「はんばーぐ…?」

目が点の燭台切とは裏腹に、私達と共に着いてきたこんのすけは尻尾を振り目を輝かせた。

それは三日間の監禁生活という名の研修中の事、五十時間を超えたあたりで料理本を取り出し「ここを出たら何が食べたいか」をこんのすけと話したことがあった。
虚ろな目をしながら見ていた中でこんのすけが“大きな肉団子”の写真に目を奪われたときがあった。

「この巨大な肉の塊は何ですか?」
「ハンバーグって言うんだよ、口の中でお肉の肉汁が広がって美味しいんだよ」
「そうなのですか。一度どんなものか食べてみたいですね」

頭の中で一口大に切ったハンバーグを想像した。そして口に運び肉汁が溢れるという妄想をしてカロリーメ○トを食べたが粉っぽい味しかしなかった。

「お肉をこねて焼いたものだよ」
「へぇ。それは僕も食べてみたいな」

今日こそは食べてやると意気込み、まずは玉ねぎをみじん切りにするところから始める。燭台切に手本を見せて教えると、こうかな?といって慣れた手つきで刻んでいった。

「そうそう!上手いね」
「主の教え方が上手いんだよ」
「そんな気を遣わなくていいよ」
「ほんとだよ」

社交辞令まで言えるとは中々にできる男である。現世にいたら上司にも好かれ、スピード出世できるタイプだな。そこから内勤の女子たちが騒ぎ出し、内々に醜い争いが行われるところまで容易に想像ができた。
その後はサラダを作ったり、肉をこねたり、焼くところまでは一緒に作業をしていった。

「それ焼いてもらってもいい?もうすぐ皆帰ってくると思うから」
「わかったよ。主が作っているそれはなに?」
「食後のおやつだよ。プリンって言うのを作ってる。短刀もいるから甘いものはどうかと思って」

疲れているときは甘いものだろう。今日、新たに政府から届いた追加の荷物からは日用品の他に、卵や牛乳など消費期限が短い物も届いたのだ。
刀剣男士の食の好みまでは資料には書いていなかった。個体差というものもあるし、それを知るためにも色々な事を試してみたかった。

「主はすごいね。料理を作るのが好きなの?」
「ずっと一人暮らしをしていたからね。最近は時間がなかったけど、好きな方かな」

それこそ初めの方は職場にお弁当を持って行っていた。しかし食べる時間もなくなれば、作る気力も失せていきコンビニに頼ることが多くなっていった。

「僕も料理作るの楽しいと思う。主は忙しいかもしれないけど、料理の事これからも教えてね」
「もちろん」

暫くすると、転移装置が作動した音が聞こえ出陣部隊が戻ってきたことが分かった。
誰一人怪我もなく、戦場で見つけたという短刀を一振り持って帰ってきた。

その後は七人と一匹で食事を取ることになるのだが、その時久しぶりに食事を楽しいと感じた。
今までは生きるために食べていた。昨日は疲れていて美味しさなどあまり感じられなかった。賑やかな輪の中で食べる食事は楽しくて、なんだか泣きそうになった

そして食後のプリンに一番感動をしていたのは燭台切であり、昨日の山姥切よりも多い桜を巻き散らしていた。見かけで判断してはいけないことを学んだ二日目であった。

ちなみに初のドロップは秋田藤四郎であり、この日は粟田口の四振りで仲良く寝たのだそうだ。