「ツーベースの次はソロホームランかよ」
「べ、別に俺も打てるし!!」
「鳴、お前一回黙れ」

雅さんが鳴の頭を叩いて、鳴は不機嫌そうに頬を膨らます。

「樹、玖城に抱き着いてんじゃん」
「は?」

俺がそう言えば鳴は視線を玖城に向けて、

「……笑ってる」
「玖城があんな風に笑うの…初めて見たな」

白河もそう言って、物珍しそうに彼を見つめる。
鳴はどこか煮え切らない顔をしていて。

「……仲良くなりてぇなら、そう言えばいいだろ」

雅さんの言葉に鳴は凄い勢いで雅さんを見た。

「ありえない!!俺、アイツ嫌いなんだってば!!」
「……あっそ。…めんどくせぇな」

雅さんは眉を寄せて溜息をつく。
けど、すぐに視線をグラウンドに向けた。

「白河も同じこと言ってたよな」
「…別に。見てれば、そう思わない?」
「まぁ…わからなくもねぇけど…」

嫌いって言葉が嘘にも思えないのも事実で。
眉を寄せて玖城を見ている鳴を見て、首を傾げた。


玖城のあとは続かなくて、その回は終わる。
5回6回は出塁はするも点は取れなくて。
7回やっと2点を返して同点になる。


3‐3で迎えた8回。


「うわぁぁ、8回ついに稲実打線が火を噴いたぁ」
「しかも、ノーアウト満塁で。次の打者!!」

先頭打者から3人が出塁して。
ノーアウト満塁でバッターボックスに立ったのは玖城。

グラウンドの歓声は大きくなっていく。

「あの1年じゃねぇか!!」

玖城はバッドを構える。

メットを深く被って隠した目元。
けど、口元だけはニヤリと弧を描いていて。


初球から当てにいって、ファールという審判の声が響いて。
2球目もファール。
その後もファールばかり打って。


5球を打って、玖城はやっとメットで隠した目元を相手に向けた。
バットのヘッドで2回ベースを叩いてバットを構える。


6球目。
カッキーンといい音を響かせて、ボールはフェンス越えた。

「ホームランだ!!!」
「マジ、かよ!!?」
「満塁ホームランかよ、あの1年」

走者が順番にホームに入ってきて。
最後の玖城がホームに戻れば、みんなに囲まれる。

「スゲェな、お前!!」
「ナイス!!」

もみくちゃにされる玖城はどこか困ったように笑っていた。





4点を入れて。
俺のあとも続いて、出塁した。
5点を入れたときに相手の捕手がタイムを出して投手に近づく。

それをぼんやりと眺めていれば突然股間をもみだして、俺は眉を寄せた。

「……気持ち悪い」
「颯音!!?それ、多分言っちゃダメ!!」
「あれ、何の意味あるの?」

多田野にそう聞かばさぁ、と首を傾げる。

「……あれ、普通にやることなの?」
「やんないよ!!」
「あぁ、そう。よかった」

結局その後投手は持ち直した。

「あれで持ち直せるんだ…」
「……みたいだね」

9回は点を入れられなかった。
けど、結果は稲実の勝ち。

「勝ったな、颯音」

ちょっと嬉しそうな多田野から視線を前に向けて。
見えたのは俺を睨み付ける成宮さんと白河さん達だった。

「次、あの人たちの試合?」
「あぁ、そうだよ」
「見るの初めてだよね?」

あぁ、と答えてグラウンドから出た。

「颯音、満塁ホームラン打ったのにあんまり嬉しそうな顔しなかったよな」
「え?あぁ…自分の結果よりチームの勝敗の方が大事だし」
「え?」

足を止めた多田野に俺も足を止める。

「どれだけ打てたところで、勝てなきゃ意味がない。あの場面では喜べないだろ」
「……颯音ってなんかずるいよな」
「はぁ?」

多田野は歩き出して、俺より数歩前に進んで足を止める。

「顔カッコいいし、プレーもカッコいいし。言ってることまでカッコいいとか…ずるくない?」
「…どっかに頭ぶつけたか?」
「ちょ、ひどくない!!?」

ガーンって効果音がつきそうなほど落ち込む彼に俺は笑って。

「冗談だから、早く行くぞ」
「絶対違うだろ!!?」

ねぇ!?と詰め寄る彼を無視して歩く。
けど笑うのは我慢できなくて。

「あ、そうだ」
「何?」
「お疲れ」

俺の言葉にえ?と固まったがすぐに彼も笑う。

「お疲れ、颯音」



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