「樹ー」
多田野に数学を教えていれば、聞き慣れた声が教室に響いて。
「鳴さん?どうしたんですか?神谷さんと白河さんも…」
「トーナメント表出たって!!」
教室に入ってきた成宮さんは多田野にトーナメント表を渡して。
何か話している3人に小さく溜息をつく。
「玖城も見る?」
白河さんがそう問いかけて、俺は首を横に振った。
「見てもどこが強いかとか分からないんでいいです」
「そう」
「珍しいですね、白河さんまで来るの」
白河さんは無理矢理連れてこられたと眉を寄せる。
「お疲れ様です」
「…考査の勉強?」
「はい」
ノートを覗き込んだ白河さんは、問題はお前じゃなくてアイツらだろと小さく言葉を漏らす。
視線の先にはわーわーと騒ぐ3人。
「…多田野は、大丈夫だと…思いますけど」
「問題は残る2人か」
「まぁ…何とかなるんじゃないですか?俺はよく知りませんけど」
解きかけだった問題を解こうとシャーペンを持てば、白河さんがねぇ、と俺に声をかける。
「はい?」
「……投球練習、いつからしてるの?」
俺の方を見ずに問いかけた白河さんに俺は目を瞬かせて。
でもすぐに視線を伏せて口を開く。
「寮に入ってすぐです」
「何で隠れて」
「…このチームに投手である俺は必要ない。だから、誰かに見せる必要はないと思って」
今度は白河さんが目を瞬かせてこちらを見た。
そしてすぐに首を傾げる。
「…なんだかんだ言って、鳴のこと認めてる?」
「認めてますよ。このチームのエースは間違いなくあの人です」
「……そう」
シャーペンをくるりと回して、騒いでる彼を見つめる。
「……投球練習…どうして知ったんですか?」
「忘れ物して戻った時見えただけ。他の奴はきっと知らない。わざわざみんなが自主練を終えてからやるとはね」
「成宮さんには絶対にバレたくないので」
俺の言葉に白河さんは苦笑して、そういうところは変わってないと呟いた。
「別に他も変わってないです」
「そうでもない、と思う」
予鈴が鳴って成宮さんはこちらを振り返る。
「白河、帰ろ」
「何で俺を連れて来たんだよ…」
不機嫌そうに言って白河さんは成宮さん達と帰っていく。
「颯音、ごめん。教えて貰ってる途中だったのに」
「いいよ、別に」
「また部活後いい?」
多田野の言葉に昨日と同じくらいの時間に部屋に行くと言えば嬉しそうに笑った。
「サンキュ!!」
自分の席に戻る彼を見ながら首を傾げる。
俺は、変わったのか?
俺自身じゃわからない。
もし変わっていたのだとしたらアイツらが気づくだろう。
▽
それから数日後、考査が行われた。
「颯音、部活行こ」
「あぁ」
「テスト、案外できたかも」
ちょっと自信ある、と言う多田野によかったなと言葉を返して。
俺も多田野の勉強に付き合っていたおかげかすらすらと解けた。
「そろそろだよな」
「何が?」
「背番号貰うの」
背番号…
俺が首を傾げれば多田野も首を傾げる。
「颯音?」
「背番号貰うってどういうこと?」
俺の言葉に多田野が目を丸くする。
「中学とかであったじゃん。番号のゼッケン貰ってユニフォームにつけるんだよ」
「へぇ…」
「へぇって知らなかったの!!?」
驚く彼に頷けば、彼は「えぇ!!?」と驚きの声を上げる。
「樹、大声出してどうしたの?」
「鳴さん!!」
いつの間にか成宮さんが後ろにいて、首を傾げる。
「あ、あの颯音が背番号貰うってこと知らなくて」
「は?知らないってどういうこと?貰ったことないの?数字書かれたゼッケンみたいなの」
「貰ったことないです」
成宮さんも「はぁ!!?」と目を丸くして。
「今までどうやって試合出てたわけ!?出てないとか言わないよね?」
「試合は出てましたけど。背番号はユニフォームに書かれてたんで」
俺の言葉に2人は顔を見合わせる。
「颯音…それって…名前も書かれてたり?」
「あぁ、名前と背番号と。チーム名書かれてたけど…」
「て、ことはオーダーメイドってこと?」
成宮さんの問いかけにそんな大層な物じゃないと思いますけどと答える。
「番号変わったりとか…しなかったの?」
「あぁ…しない。けど成長期だから頻繁にサイズは変えてたりはした…かも」
多田野は目を丸くして固まって成宮さんは眉を寄せて、お前ってなんなのと尋ねてきて。
「何って言われると困るんですけど…」
「今どきオーダーメイドって…あり得なくない?」
「え、あー…そう、なんですか?」
よくわからない。
首を傾げれば成宮さんはあからさまに溜息をつく。
「やっぱお前意味わかんねェ!!」
そう一方的に俺に叫んで、彼は俺達を追い抜いて部室に歩いて行く。
「……アンタの方が意味わかんねェよ」
「ちょ、颯音!!?怖いよ!?」
「あぁ、悪い、つい本音が」
そう言われてみれば他のチームの背番号は縫い付けられていた気がする。
俺達のチームがおかしかったのか?
「いや、まぁ…普通ではなかったけど…」
「颯音?」
「あ、いや…なんでもない」
首を傾げた多田野に俺達も行こう、と言って止めていた足を動かす。
「颯音って少し、変だよね」
「何、急に。お前、失礼だな」
「いや、そうじゃなくて!!普通に知ってることを知らないって言うか…甲子園も知らないって言ってた…って聞いたし」
いや、まぁ確かに知らないけど。
名前だけは知ってる。
「まぁ…異文化だし」
「え?」
目を丸くした多田野になんでもないよ、と言って。
苦労するだろうとは思っていたけど。
こんな所で違いがあるとは思わなかったな…
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