テストの次の日。
各教科で答案が返されて。
部活に行こうと準備をしていた俺の名前を呼んだのはここ最近、一緒にいることが増えた多田野。
「颯音!!テスト、今までで最高得点!!赤点もなしっ」
英語と数学の答案を俺に見せて彼は嬉しそうに笑う。
「お前、ホントにいつも元気だな」
「え、何で?」
「いや。まぁ、そうやって結果を出してくれると教えた甲斐があったよ」
鞄を肩にかけて、歩き出せば隣に多田野が並ぶ。
「颯音は、どうだった?俺に教えるので全然時間なかったよね…?」
「あぁ、別に…。いつも通りだったし」
「颯音のいつもがわかんない。あ、けど…一般でここに入ったってことは結構頭いいよね?」
そうなのか?と俺は首を傾げる。
「そうなのか?」
「うん。結構入試のレベルは高いよ、ここ」
「へぇ…まぁ、スポーツ推薦あるから全体の偏差は低く出るんだろうな」
まぁ、そうだね。と多田野は苦笑する。
あぁそうか。
多田野も推薦だった気がする。
「よっ玖城」
「…どうも」
「こんにちは」
神谷さんの後ろには白河さんもいて、こんにちはと告げればあぁとだけ言葉を返された。
「テスト、どうだった?」
「問題なかったです。多田野も赤点はないそうです」
「そう。俺はいつも通り。カルロスと鳴は知らない。馬鹿だから…」
ヤバいかもね、なんボソッと言った彼に苦笑する。
多田野に絡む彼を見ている限り赤点があったテンションではない気がするけど。
「そういえば…今日、背番号渡されるって」
「テスト明けてすぐなんですね」
「あぁ」
白河さんと話ながら部室に向かえば暗いオーラを背負った成宮さんがいて俺は首を傾げる。
「…もしかして」
「馬鹿だね、ホント。普段サボってるからこうなるんだよ」
「まぁ、そうですね」
落ち込む成宮さんに駆け寄った多田野と、からかう神谷さん。
それの横を通り過ぎて白河さんと部室に入ろうとすれば名前を呼ばれて。
「…ご愁傷様、玖城」
ポツリと呟いた白河さんは俺の目の前でドアを閉める。
「無視すんなっ!!」
「はい、何でしょう…?」
「相変わらずだな、鳴」
神谷さんはどこか楽しげに笑って、多田野は慌てている。
「お前、テストの結果は!!?」
「あー…普通、です」
「なんだよ、普通って!!」
自分が悪かったからって絡んでくるなよと内心思っていれば俺に詰め寄っていた成宮さんの襟を掴んだキャプテンが俺から引き剥がす。
「後輩に絡むな。自業自得だろ」
「わかってるけどっ!!」
「それに、玖城の成績が悪いと思うか?聞くだけお前の傷を抉るだけだ」
キャプテンの言葉に成宮さんは押し黙って、でもすぐに俺を見る。
「けどインテリ気取ってるだけかもしれないじゃん!!」
「……気取ったつもりはないんですが…」
「玖城。こいつ黙らせるために順位言ってやってくれ」
え、もしかしてキャプテン俺の順位知ってるの…?
俺がそう思って彼を見れば、考えていることが分かったのかさっき順位表見たと告げられた。
「あ、そういうことですか…えっと14位…ですけど」
「え、玖城そんなによかったの!!?」
「良い…のか、わかんないけど」
俺の言葉を聞いて固まっている成宮さん。
キャプテンはやっと静かになったと呟いて。
「追試はちゃんと受かれよ、鳴。受からなきゃ試合は出れねぇぞ」
「えぇ!!?俺、エースなのに!!?」
「関係ねェ」
キャプテンっていつも苦労してるな…
そんなことを思いながら部室に入れば白河さんが素知らぬ顔で着替えていて。
「お疲れ」
「…疲れるとわかっている場所に、俺を残すのってどうなんですか」
「俺は疲れないから楽」
酷いなぁ…
部室に入ってきた成宮さんは涙目で、キャプテンは不機嫌そのもの。
「雅さんが一番苦労してるな」
「…そうですね」
あんな人とバッテリーなんて、大変そうだ。
俺だったら試合中だろうと喧嘩になる自信がある。
「キャプテンってすごいっすね」
「あぁ、そうだな」
▽
「今から背番号を渡す。呼ばれた者から受け取りに来い」
練習後のミーティング。
監督やコートが前に並び、その前に1軍が並ぶ。
そしてその後ろに2軍の人や1年が並んでいた。
「背番号1成宮」
「はいっ」
へへんっと胸を張る成宮さんが番号を受け取る。
「追試で落ちたら、それは返上しろ」
「えっ!!?そ、それはっ!!」
「次、2番。原田」
監督に詰め寄る成宮さんを無視してどんどん配られていく番号。
「次、14番。玖城」
前に出てそれを受け取って、それを眺める。
こういうの貰うんだ…
「てか、また14番目…」
自分の位置の戻って小さく呟いて、その番号を見つめる。
「不服か?」
隣にいた神谷さんが俺にそう問いかける。
「いえ、別に。嫌いじゃないですよ、14番目は」
「は?」
それを裏返して首を傾げる。
「これ、ユニフォームに縫い付けるんですか?」
「あぁ」
「……面倒なことするんですね」
その番号を見つめながらそう言えばまた「は?」と神谷さんが言った。
全員に配り終えて、監督が一言二言、激励のような言葉を言ってミーティングは解散となった。
「俺、1番だからっ!!」
俺の前に1、という数字を掲げた成宮さん。
その後ろでキャプテンが溜息をついているのが見えた。
「……返上にならないように…頑張ってください」
「なっ!!?」
「まぁ、正論だな。玖城のいうこと」
神谷さんは笑いながらそう言って、成宮さんの頭を数回叩いた。
「カルロ、ムカつく!!なんでお前、赤点ないわけ!!?」
「運がよかったんだよ」
目の前で口論を繰り返す彼らを見て溜息をつく。
キャプテンを捕まえて投球練習をしよう、なんて考えていればキャプテンが成宮さんの後ろで手招きをして部室の方へ歩いて行く。
それを追いかけて行けば部室の前にキャプテンがいた。
「悪いな」
「いえ、助かりました。絡まれそうだったので」
まだ聞こえる口論にキャプテンは溜息をつく。
「今日の練習は多分無理だろう」
「…そうですか、わかりました」
部屋にこの番号を置いて自主練をしようと寮に歩いて行けばさっきまで口論をしていたはずの神谷さんに呼び止められた。
「途中で俺に押し付けんなよ」
「そんなつもりは…なくはないですが、なかったです」
「どっちだよ!!」
神谷さんは溜息をついてから、俺の名前を呼んだ。
「よかったのか、背番号受け取って」
神谷さんの言葉の意味が初め分からなかった。
「お前は…認めたのか?」
続けられた彼の言葉に俺はそういうことかと理解して。
「俺がこれを受け取ったことが答えじゃダメですか」
「嫌々受け取ったんじゃねぇならいい」
「……まぁ、番号を貰ったところで信頼関係がないことには変わらないですけどね」
俺の言葉に神谷さんは、溜息をついて。
「ほとんどの奴はお前のこと信頼してんじゃねェの?お前の練習してる姿はみんな見てるし。練習試合でも結果残してんだろ」
「成宮さんは、少なからずしてないです。彼には実力さえも、認められてないので」
努力が足りないんですね、きっとと告げれば「お前なんかめんどくせぇよな」と彼が言った。
「失礼ですね」
「だって、認められたいわけじゃねぇ。けど、信頼はされたいんだろ?」
「俺を信頼しろとは言いませんよ。俺の力だけでも信頼してもらわないと…」
俺は背番号の布をぎゅっと握りしめる。
「信頼関係がないのは、チームじゃなく集団だ」
「は?」
「……ただの人の集まりが…野球をできると思いますか?」
握りしめていた手の力を抜いて息を吐き出す。
「野球ってどうやったって個人技にはならない」
「そりゃそうだな」
「誰にも打たれない投手がいても点を稼ぐ人がいなければいけない。必ずホームランを打てる打者がいても、守備をしてくれる人がいなければ点は入れられる。捕手がいなければ投手は投げられないし。投手がいなければ捕手はボールを捕れない」
そうだな、と言葉を返した神谷さん。
「…集団じゃ、そんな当たり前のことも見えなくなる」
「そうか?野球やってりゃそんなことくらいわかるんじゃね?」
「わからなくなるんですよ。俺はそんなところにいたんですから」
は?と固まった神谷さんに俺は帽子をぐっと深く被って、視線を落とす。
「当たり前のことが当たり前にわからなくなった集団ほど常軌を逸している」
「玖城…?」
「そんな所じゃバットもボールもスパイクも…凶器になる」
それじゃあ、失礼しますと彼の横を通り過ぎて寮に歩いて行く。
「どういう意味だよ、それ!?」
神谷さんの言葉に俺は答えずに歩いて行った。
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