「あの、すみません」
「玖城?どうした?」
偵察部隊の3年の人に声をかければ凄く不思議そうな顔でこちらをみた。
「Dブロックの試合の偵察。俺も行ってもいいですか?」
「は?1軍は試合だろ」
「俺は出られないので」
3年の人はあぁ、そうかと眉を寄せた。
「監督がいいって言えば俺達は別に構わないけど」
「わかりました」
監督の所に行けば成宮さんとキャプテンの姿があった。
まぁ明日の試合の話をしていたんだろう。
「どうした、玖城?」
「監督。明日、俺試合行かなくてもいいですか?」
「はぁ!?」
成宮さんは声を荒げて、監督は眉を寄せる。
「理由は?」
「Dブロックの試合、見たいんですけど」
「……わかった。偵察部隊と一緒に行け」
ありがとうございますと、頭を下げてそこから離れようとすれば成宮さんが俺の腕を掴む。
「俺の勇姿見ないってこと!!?」
「え?あぁ…そうですね」
「ありえないんだけど!!」
キャプテンが溜息をついたのを視界の端で捉えて、俺も内心ため息を吐く。
「明日俺先発なんだけど」
「知ってますけど…」
「あーぁ、勿体無い。エースの投球見ないなんて」
わざとらしい彼の口調に俺は苦笑して。
監督も眉を寄せて溜息をついた。
「本当に見ないの?」
「はい」
「いいの?本当に?ほんとーに、いいの?」
…しつこい。
てか、嫌いな人がベンチにいるよりはマシだと思うんだけどな。
なんで俺止められてるんだろう?
捕まれたままの腕を振り払うに振り払えず帽子を深く被る。
「成宮さんの投球なんて、何度も見てますけど」
「そ、うだけど!!」
「それに嫌いな奴がベンチにいない方が、よくないですか?」
俺の言葉に成宮さんが黙り込んで。
あーぁ、とキャプテンが言った。
「玖城のわからずやっ!!」
乱暴に俺の手を離した成宮さんは怒ってどこかに走って行ってしまって。
「…あの、今の俺が悪いんですか?」
「鳴が素直じゃないのも悪いけど、お前が鈍感なのも悪いな」
よくわからない。
俺は首を傾げる。
キャプテンは気にしなくていいと言って溜息をついた。
「玖城」
「はい?」
「ちゃんと見て来い。アイツらを少しでも楽させてやれるように」
監督はそれだけ言ってキャプテンとの話を再開させる。
頭を下げて、グラウンドに戻れば白河さんがこちらに歩いてきた。
「お前、鳴になんかした?」
「いえ、なんかキレられました」
「あーぁ、やっぱり。鳴、超ウザい」
白河さんは鬱陶しそうに眉を寄せた。
「なんか、すみません」
「別に」
多田野に絡んでいる成宮さんを見ながら白河さんは舌打ちをした。
「白河さんって割と感情の起伏ありますよね。表情も」
「……お前がなさすぎる。笑ってるところなんて、両手で数えるくらいしか見てない」
「え、そうですか?」
気付いてないのかよって、白河さんが溜息をついた。
「颯音!!」
「多田野。何?」
「暇?暇なら投げて」
多田野は俺の手をブルペンの方に引っ張る。
「ちょ、おい…」
「あ、玖城」
「白河さん?なんですか?」
打席立ってもいい?と白河さんが首を傾げた。
「え、まぁいいですけど」
「前から打ちたいと思ってた」
「多田野、ブルペンじゃなくてグラウンドな」
多田野はわかったと頷いて、グラウンドに走って行く。
「本気で投げて」
「え、嫌です。次の試合相手の投手を真似て投げます」
「……まぁ、今回はそれでいいや」
結局途中から神谷さんとか成宮さんも乱入してきて。
試合の時に世話になった3年生まで入ってきた。
「……なんでこんなことになってんだろう…」
まだ試合には出られない身なんだけど。
…まぁいいや。
▽
第4試合。
颯音はベンチにいない。
ムスッとした鳴さんに雅さんは呆れたように溜息をつく。
「いつまでふてくされてんだ」
「だって。玖城ホントに来てないんだよ!!?意味わかんなくない!?」
「お前が意味わかんねェよ」
嫌いなんだろって、雅さんが言えば鳴さんは口を閉ざす。
「べ、つに…嫌いじゃ…ない」
鳴さんが視線を逸らしながらそう言えば俺達みんな黙り込んで。
「な、なんだよ!!」
「ツンデレ?」
「あれだろ、ほら。好きな奴には意地悪する小学生」
翼さんと吉沢さんが顔を見合わせて笑った。
「坊やじゃん」
「…確かに」
「白河、カルロス!!」
顔が真っ赤に染まった鳴さんにみんな笑って。
「だったらそれを玖城に言え」
雅さんは額に手を当てて、溜息をついた。
「そ、れは…嫌だ」
「何で?アイツ、お前に嫌われてるって思ってるぞ?誤解は解いとけよ」
「……嫌いじゃないだけで、好きじゃない」
そっぽを向いてそう言った鳴さんに皆呆れたような表情をした。
「やっぱりめんどくせぇな、お前」
「雅さん酷い!!」
「大人になれよ、大人に」
鳴さんはうるさいっ!!と怒鳴ってグローブを持ってベンチから出る。
「雅さんキャッチボール!!」
「ハイハイ」
ベンチから2人が出ていって、神谷さん達は笑った。
「一歩前進、か?」
「……さっさと素直になって仲良くなれよ。めんどくさい」
「仲良くなるねェ…それ、玖城の負担増えそうだな」
吉沢さんはそう言って、苦労してるねって翼さんも笑った。
▽
第4試合。
無事に稲実が勝ったらしい。
偵察を終えて戻れば成宮さんは酷く不機嫌そうで。
「…なんかあった?」
俺の問いかけに多田野が苦笑する。
「7回まで1安打で調子よかったんだけど。途中交代で」
「…あぁ、また?」
「うん。それに、颯音がいなかったから」
俺は多田野の言葉に首を傾げた。
「成宮さんにも言ったけど別に俺がいなくても関係なくない?嫌いな奴ってベンチにいない方が嬉しくない?」
俺は少し考えを巡らせて、あぁそうかと納得する。
「何?」
「俺に対する嫌がらせなのかなって。自分まで嫌な思いするのによくやるよね」
「……颯音ってさ、結構…鈍感?」
多田野が呆れたように俺を見ていて。
「どうだろう?変なとこ鈍感って昔言われてたけど」
「あぁ、うん。変なとこ鈍感だね。颯音は」
「そう?そんな自覚ないんだけどな…」
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