4回。
成宮さんはクリーンナップを確実に抑えていた。
結城さんのときだけ、三振狙って投げてる。
本当に注意してんだな…

4回の裏。

「さーて、どこまでもつかな?その全力投球」
「悪い顔してますよ」
「性格悪いお前よりはマシっ!!」

何球投げた?と聞かれ俺は首を傾げる。

「60は越えましたよ」
「60球全力投球ねぇ…」

フォアボールで神谷さんは宣言通り1塁に出た。
それに続いて、白河さんがバントで神谷さんを2塁に送る。
アウトになったが白河さんは口元を緩め、吉沢さんも打席でにやりと笑った。

「どうでした?」
「確かに球威は落ちてた。あれなら、イケる」

吉沢さんは初球から打ちに行ったが増子さんに取られる。

「ツーアウトで…」
「雅さんだね」

打席にキャプテンが入る。

「配球変えてきましたね」

1球目に投げられたスプリット。
立て続けにインコースに投げ込まれたストレート。

「どう思う?」
「んー…どんな配球かはわからないですけど。キャプテンが打たないってことはないですね」
「…それは同感」

真ん中にスプリットが投げ込まれ、体制を崩しながらも打った。
三遊間をボールが抜けて、神谷さんがホームに戻ってくる。

「本当に、打った」
「さすが4番」

キャプテンであり、捕手であり、4番であり…
あの重圧の中打てるあの人って本当にすごい。

「神谷さん、ナイスラン」
「任せとけっつったろ?」

帽子の上から頭を撫でられて、俺はその手を払う。
次の打者の成宮さんもファールで粘りライト頭上へ。

すかさずキャプテンが戻って来て。
欲張った成宮さんは3塁でアウト。

「2塁で止まればいいのに」
「玖城、それ言ったら喧嘩になるから黙っとけ」
「わかってます」


そして迎えた5回。
眼鏡の人はファールで粘っていて。
まぁ、あの全力疾走の後のあれは辛いだろうなぁなんて思いながら成宮さんの背中を眺めていた。

「あれ、結局三振しちゃってんじゃん」

眼鏡の人、えっと御幸さんは成宮さんが言うとおり走者がいないと打撃はピンとこないようだ。
次の打者の降谷の打球は左中間を抜ける。

ウザいところに打ちやがって…
ボールを投げ返すもツーベース。

「もう打たなくていいよ、あの1年」
「激しく同感です」

神谷さんとそんなことを話して、守備位置に戻る。

取られた点は自分で取り返す、みたいな?
早く交代してくれればいいのに。


バントをされて2アウトランナー3塁になったが次の打者は白河さんのファインプレーでアウト。

そして5回裏。
出てきたのはエース番号を背負った丹波さんだった。

成宮さんはガッツポーズをして勝ったぁと嬉しそうに笑う。

「出て来たね」
「そうですね」

白河さんの隣でマウンドを見つめる。
打席には長打のある山岡さん。

「……狙い目は、ここでしょ?」
「そうですね。表情は硬いし…。何よりあの甘く入ってくるストレート」
「狙いやすい」

俺と白河さんの会話を聞いていたのか神谷さんが苦笑して俺達を見た。

「お前ら2人セットってなんか怖ぇよ」
「黙れ、カルロ」

甘く入ったストレートを山岡さんが綺麗に打ち抜き。

「っしゃーー!!ホームラン!!」
「ナイス山岡―!!」

盛り上がるベンチ陣。

「2点リードですね」
「まだ、稼いできなよ」

白河さんにバットを渡されて、努力しますとベンチを出る。
監督には指示は先程と変わらずと言われた。

平井さんはフォアボールで塁に出た。
右打席に入って、メットを深く被りバットを構える。

「調子悪いみたいですね、丹波さん」

ポツリと呟けば眼鏡の人は眉を寄せる。

成宮さんが言うほど丹波さんは悪い選手じゃない。
戦列を離れることは間違いなく彼を強くしただろう。
けど、彼より優れたエースを俺は知ってる。
俺のすぐそばにいる彼には、遠く及ばない。

先程同様ファールで粘っていれば、インコースに入ってきたボール。
避けようとしたけどよけきれず左腕に当たる。

「デッドボール!!」

審判の声にもっと粘るつもりだったのにと小さく呟いて1塁に向かう。

ノーアウト1、2塁。
バントで送ろうとしたが眼鏡の人のフィールディングで3塁アウト。

1アウト1、2塁。
打席には神谷さん。
2塁を守る小湊さんの足元に視線を向ける。

微かに足が震えていて、やっぱりと内心呟く。

「足の怪我、平気ですか?」

彼にだけ聞こえるような声でそう言えば小湊さんの肩が微かに震えた。

初球はボール。
2球目で走り出すが惜しくもファール。

「お前が倉持のお気に入りの玖城?」
「気に入られてるとは知りませんでした」

3球目インコースのストレートを打ち上げ2アウト1,2塁。

もうちょいで走れたんだけどな…

「余計なお世話だよ。怪我してたとしても俺達は負けない」
「…そういうの、俺好きですよ。けど、勝つのは稲実なんで」

白河さんがファールで粘りフォアボール。
3塁に進むとき、小湊さんがこちらを見た。
ニコニコ笑ってるくせに、凄い闘志。

「やっぱり、面白いチームだな…」

2アウト、満塁。
打席には吉沢さん。

走れそうだったら、無理やりにでも突っ込む。

いつもより多めにリードを取った。

初球カーブで空振り。
2球目インコースでストライク。

あの眼鏡の人、攻めてくるな…

3球目インコースでボール。
そして、4球目バットが回って3アウト。

ベンチに戻れば成宮さんがしぶといなぁと呟く。

「もっと崩れると思ったのに」
「当然だろ。努力し成長してるのは俺達だけじゃねーからな…」
「次の回チェンジアップを多く使うぞ。終盤にかけてヤツらがこの球をより意識するようにな」

キャプテンもよく考えた配球するよね。
成宮さんは嬉しそうに笑っていた。

「ちゃんと考えてくれてんだ!悪い顔して」
「るせぇよ!!」

逆転するぞ!!と円陣を組んだ青道。

「ヤツらの努力さえも打ち砕く。それぐらいの気持ちがねーとあの舞台には立てねーぞ!」
「邪魔する奴はぶっつぶすだけだね!!」

行くぞ、と神谷さんに言われベンチを出る。

「成宮さんって、落ち込むことないんですか?いつも大きなことばっか言って」
「あれでも去年ひどかったぜ。甲子園、鳴が相手のスクイズ読んでたのに大暴投。それが決勝点になって…3回戦敗退。その後アイツ泣きまくって10日くらい引き籠ってさ」
「へぇ…」

フォームも崩れて、大きなことも言わなくなった。
けど、ここまで復活したんだと神谷さんは笑いながら言った。

「今の姿見ても想像できねぇだろ?」
「はい」
「今も、たまに思い出すみたいだぜ?そういうときは寝れなくなって…今朝みたいに欠伸ばっかりしてる」

…あぁ、そういえば欠伸ばっかりしてるってキャプテンに言われてた。

「ま、それは今度鳴に直接聞いてみろよ」
「それ確実に傷口抉りますよね」
「まぁな」

絶対本人には聞かないでおこう。
面倒になることがわかりきってる。



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