「キャプテン」
「どうした?」
「少しお願いがあって」

練習前に成宮さんがいないのを確認してキャプテンに声をかける。

「投球練習についてなんですけど」
「投球練習?」
「はい。練習が終わってからにして欲しいんですけど」

キャプテンは首を傾げて。

「残って、ってことでいいのか?」
「はい。投球練習、成宮さんに見られるのは嫌なので」
「は?」

俺はグラウンドに入ってくる成宮さんの方に視線を向ける。

「別に敵対視してるとかじゃないですよ?ただ…」
「ただ?」

俺とキャプテンが話しているのに気づいた成宮さんがこちらに走ってくる。

俺の吐いた言葉は成宮さんの声にかき消されて。
それがわかっていながら俺は頭を下げる。

「……失礼します」
「ちょ、おい。玖城」

帽子を深く被って、野手の練習に向かえば神谷さんが楽しげに笑っていて。

「本当に大変そうだな」
「……そうですね」

視線を戻せば成宮さんがキャプテンに詰め寄っているのが見えた。

「お前は知らねェけど鳴もちゃんとスゲェ投手なんだぜ?普段はあんなだけど」
「凄いってことはわかってますよ」
「は?」

帽子のつばで神谷さんの顔は見えないけど、きっと驚いているんだろう。

「凄いか凄くないかくらい俺は判断できますよ。このチームの人があの人を信頼してることも分かってます」
「だったらお前なんでいつもそんな態度なんだよ」
「…俺はいつだってこんな態度ですよ。仲間じゃない人に気を許す必要ないでしょ」

神谷さんが動きを止めた。

「それ、鳴だけじゃなくて俺らにも言ってるよな」
「えぇ、そうですよ。俺は…自分がこのチームの人間だとは思ってないんで」
「一緒に練習してるのにか?」

迷うことなく俺ははい、と答えた。

「なんで」
「愚問ですね。俺を信頼してる人なんて、そういないでしょ。ね、神谷さん?」

口角を吊り上げて微笑めば彼は目を丸くして。

「信頼関係のないチームなんてそれこそFuckでしょ」
「…確かに信頼はしてねぇけど。されようとも思ってねぇだろ」

彼の言葉に俺は視線を彼に向ける。
交わった視線にまた彼はまた目を丸くして。

「俺はまだ、このチームの力量をりませんから。自分のいるべき場所か量れてない」
「自分に見合う場所じゃねぇかもってことか」
「えぇ、簡単に言えばそうですね。生意気なのは重々承知ですが…」

交わっていた視線を逸らす。

「甲子園出場…ってのは聞きましたけど。俺甲子園が何か知らないんで、それじゃあわからないんですよ」
「は?知らないってお前…野球やってんのに知らねェの!!?」
「え?はい。野球の大きな大会ってことはわかりますけど。どれくらいのレベルの人が集まってるのかとかは全く」

神谷さんが何かを言おうとしたとき、始まりの声が聞こえて。

「この話はもう終わりでいいですか?」
「は?」
「聞いてていい話じゃないですよね?ただの悪口みたいで俺もあんまり言ってていい気分じゃない」

だから、終わりですと言って練習に戻った。





「玖城がどんな奴か?」
「同室だろ?なんかねぇの」

練習中の彼の言葉が頭から離れなかった。

「俺も気になる!!」

俺と白河の会話に入ってきたのは鳴。

「アイツの弱点とか!!なんかないの?」
「はぁ?……玖城は悪い奴じゃない」

白河の言った言葉に俺と鳴は顔を見合わせる。

「お前らみたくうるさくない」
「「おいっ!!」」
「部屋では基本的に本読んでるか課題をしてる」

白河はめんどくさそうにそう言って首にかけたヘッドホンから流れる曲を止めた。

「それ以外はパソコンで何かしてる」
「何かって?」
「さぁ?…それから頻繁に電話がかかってくる」

その言葉に鳴があっと声を上げて。

「寮に入った次の日も電話で遅刻ギリギリだった」
「へぇ」
「彼女?って聞いたら違うけど大事な人って言って笑ってた!!アイツが笑ったんだよ!!?」

どこか興奮気味な鳴を落ち着かせて。
そういやアイツが笑うのも見たことないか。
人を馬鹿にするように口元が弧を描くことはあったけど、きっとそれとは違う笑顔だったんだろう。

「他には?」
「…カルロス、お前何考えてる?」
「いや、ちょっとな」

怪訝そうな白河の視線から視線を逸らす。

アイツはあれだけ、野球が出来て甲子園を知らない。
このチームが自分のいるべき場所かわからない。
そう、玖城は言った。
じゃあ…アイツのいるべき場所って、どこなんだ?

「…寮に入った日、夜更かしの癖があるって言ってたが」
「夜更かし?」
「あぁ。けど、夜更かしじゃなくて、夜2時過ぎくらいに起きて、パソコンし始める」

皆が寝た後の深夜にパソコン?

「…AVとか?」
「それはお前だけだ」
「いや、健全な高校男子なら普通あるだろ!!?」

鳴が珍しく黙って、ニヤリと悪戯を思いついた顔。

「調べよう」
「は?」
「白河の部屋だし、入れないってことはないでしょ?調べて弱みを握る!!」

へへん、と胸を張った鳴に白河は溜息をつく。

「俺を巻き込むなよ」
「わかってるよ。部屋にいてくれればいいから。やるよね、カルロス?」
「あー、おう」

多少、悪いとは思ったけど。
気になることは間違いない。

「白河!!アイツがいない日、調べておいて」
「…巻き込まないんじゃなかったのか?」
「それだけだから!!」

白河は溜息をついて、ヘッドホンで耳を塞いだ。

…アイツのいるべき場所って、どこなんだ?



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