昼休み、本を読みながら昼食を食べていれば俺の前にガタッと音をたてて誰かが座った。
前の席の人が戻ってきたのか、と視線を本に向けたままにしていれば本を奪われて視線を上げる。

「………返してくれますか」
「やだ。先輩無視するとか何様!?てか、一人飯?」

どこか馬鹿にするように言った彼から視線を逸らして、カロリーメイトを齧る。

「だったらなんですか」
「友達いないの?」
「いないと思いますよ」

彼の手から本を奪い返して溜息をつく。

「どうせ、卒業したら会わなくなるでしょう?親しくなるだけ無駄かと」
「うわ、さみしっ!!てか、同窓会とかあんじゃん」
「……来れないと思いますよ」

ぱらっと本を捲れば成宮さんは眉をしかめる。

「……ねぇ」
「はい?」
「昼食、それだけとか言わないよね」

それ、と言って指差されたのは手に持っていたカロリーメイト。

「そうですけど」
「は?嘘…」
「嘘じゃないですよ。これ、俺の昼食です」

最後の一口を口に入れて、ぱさぱさとする口に紅茶を流し込む。

「…それで、足りんの?」
「え?足りますけど。朝夜あれだけ食べて昼を食べようとは思いません。それにもともと食べないほうなので」

キュッとペットボトルのキャップを閉めて、本を閉じる。

「で、何か用ですか?」
「お前になんか用ないし」
「だったら何でここにいるんですか」

成宮さんは教室を見渡す。

「樹に用があったのにいないから。どこにいるか聞きたいだけ」
「樹?」
「……樹のことも知らないとか言わないよね?」

まさか、と言う顔で俺を見た成宮さんに知りませんけどと答えればはぁ!!?と大声で彼は言う。

「同じクラスで、同じ野球部で、お前と同じ1年の1軍なのに!!?1軍なのお前と樹だけだよ!?」
「……そうなんですか。興味なかったので、知りませんでした」

成宮さんは眉を寄せて溜息をつく。

「…ありえない」
「ありえないって言われても。喋ったことないですし」
「……あるけど」

聞こえてきたのは成宮さんじゃない人の声。

「あ、樹」
「……あぁ…君が、樹ね」

声の主は俺が走っていたときに声をかけてきた人だった。
同じクラスだったんだ…

「…本気で知らなかったの?」
「え?うん。知らないけど」

樹と呼ばれた人は肩を落として、成宮さんは楽しげに笑う。

「…名前、教えてくれたら一応覚えるけど」
「多田野樹。捕手だよ」
「多田野、ね。俺は…て、言う必要ない?」

多田野は知ってるよと答える。
なら、いいかと俺は口を閉ざした。

「てか、鳴さんなんでここに…」
「暇だから樹からかいに来たのに樹がいなかったから、玖城に絡んでた」
「………迷惑なんでやめてください」

俺は溜息をついて、本を開こうとすれば引き出しの中の携帯が震える。

「…電話、鳴ってるけど」

携帯に映し出された名前は予想通りのものだった。
けど珍しい時間だと思って俺は腕時計に視線を落とす。

「…玖城?」
「いえ。電話出てきますんで失礼します」





携帯を片手に出て行った玖城から視線を鳴さんに向ける。

「ねぇ、樹」
「はい?」
「今、玖城の時計見た?」

鳴さんはじっと玖城が出て行った方を見ていた。

「時間、全然違かった」
「え?」
「さっきの腕時計。11時くらいだった」

え、と俺が零せば鳴さんはガタッと立ち上がる。

「鳴さん?」
「教室戻るから。玖城に時計のこと聞いといて」
「あ、はい。…はい!!?」

鳴さんが出て行って少しして、玖城が教室に戻ってくる。

「あ、のさ…」
「…なに?」
「えっと…時計、時間ズレてない?」

恐る恐る腕時計を指差して言えば玖城は視線を時計に落とす。

「これであってるよ」
「え?けど…」
「これで、間違ってない。今は確かに10時50分」

玖城はそう言って、違う時を刻む時計を見てほんの少しだけ微笑んだ。

「…なぁ、玖城」
「今度はなに?」
「颯音って呼んでいい?」

玖城は首を傾げて、好きにすればとめんどくさそうに答えた。

「俺は多田野って呼ぶけど」
「樹でいいよ」
「名前まで憶えるのめんどくさい」

颯音はそう言って、本を開く。

「……まだ、なにかある?」

視線は本に向けたまま、颯音はそう俺に言って。

「…また、声かけてもいい?」
「……わざわざ確認する必要ないでしょ」
「え?」

颯音は溜息をついてページを捲る。

「どれだけ面倒でも無視してないでしょ。成宮さんとか」
「…たまにしてるよね」
「…うざい時は仕方ないだろ。普通の会話なら無視しない」

颯音はそう言ってまたページを捲る。
やっぱり、颯音は悪い奴じゃない気がする。

「あ、ありがと」
「……どういたしまして」



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