「本当に出掛けてるのか?」
「用があるから少し空けるとは言ってた」
「よっし、探すぞ!!弱みっ」
机の上は白河によく似て綺麗だ。
白河がやらせたわけじゃないとすれば、白河が悪い奴じゃないといった意味が解る。
白河からすれば静かで部屋を散らかさなくていい後輩だろう。
「…あの、どうして俺まで…」
「樹も手伝え!!気になるでしょ!!?アイツのこと」
「いや…まぁ、なりますけど…」
机の上には2つの時計があってそれに手を伸ばす。
「…時間スゲェズレてるぞ」
「あ、それ…玖城の腕時計もそうだった!!樹聞いたんだろ!!?」
「あ、はい。なんか、それで間違ってないって言ってましたよ」
鳴は意味わかんない、と零して机の引き出しを開ける。
「うわ、空っぽ」
机の引き出しはほとんどが空で。
一番上にだけカロリーメイトがぎっしりと入っていた。
「なにこれ…」
「アイツの昼ごはん」
「はぁ!?」
鳴は引き出しを閉めて、机の下の段ボールを引きずり出して。
俺も綺麗に並べられた本棚に手を伸ばす。
「…これ、全部…」
「こっちも本ばっかり」
視線を落として段ボールを見ればそこにもぎっしりと本が並べられていて。
1冊の本に手を伸ばして、それを開けばそこにはぎっしり英語が並んでいた。
「英語…?」
「こっちの本も英語だ」
よく見れば教科書以外の本のタイトルは英語。
日本語はどこにもない。
教科書の横には授業用と思われるノートがたくさん並んでいて、それに手を伸ばそうとすれば樹の声が聞こえて視線をそちらに向ける。
「あれ、それだけ背表紙にタイトルがないですよ」
樹が指差したのは段ボールの中の本の1冊。
「あ、ホントだ」
それを引き出せばシャラと音がして。
「鍵かかってる、この本」
「鍵?」
その本には開かないように鍵がついていた。
表紙にもタイトルはなくて。
「ここに玖城の弱みが!!」
「鍵どうすんだよ」
「うっ」
…夜に見るものなんてAVだけかと思ってたけど。
どう考えてもこいつがそんなもの持ってるとは思えない。
隠してるのか、とも思ったけどどうもそうでもないみたいだ。
「カルロー鍵ない?」
「あるわけねぇだろ」
「だよねー…どっかにないかな…」
本を開けようと必死になる鳴。
樹はやめた方が良いんじゃとオロオロしている。
コイツも巻きこまれて可哀想に…
「あーもうっ鍵!!」
「ありますけど」
「え、マジで!!?貸して!!」
鳴の言葉に応えた声。
俺でも、白河でも樹でもないその声は俺達の後ろから聞こえた。
「早く、鍵!!!」
「ちょ、おい…鳴…」
「なんだよ!!いいから、早く!!」
鳴がバッと振り返って固まる。
「え……」
「鍵、どうするんですか?」
ドアの所に立つ玖城は溜息をつく。
「成宮さんと神谷さんはわかりますけど。多田野と白河さんまでこういうことする人だとは思いませんでしたよ」
玖城はそう吐き捨てて、持っていた袋を乱暴に机の上に放り投げる。
そして、鳴の持つ本の手を伸ばす。
「返してもらえますか?」
「これ、そんなに大事?」
「えぇ大事です」
ふぅんと鳴は本に視線を落として。
「じゃあ、返さない。玖城の大事なもの気になるじゃん」
玖城は何も言わずに、視線を鳴に向けた。
鳴は肩を揺らして目を見開く。
珍しく玖城が人と目を合わせた。
けどその目は酷く冷たくて嫌悪と殺気のようなものを含んでいるように見える。
「………な、なに?」
「返してください」
敬語は使っているけどどこか命令しているように聞こえた彼の声。
「……やだ」
鳴の返答に玖城は溜息をつく。
髪をかき上げて、舌打ちを一つ。
「すいません」
「え?」
「貴方が先輩だということはわかってますけど…」
玖城は1歩2歩と鳴に近づいて行く。
手を伸ばせば届く距離で玖城はしゃがみ込んで、鳴ともう1度視線を合わせた。
後ろからでも分かるくらいに玖城は怒っている。
玖城は鳴に手を伸ばして。
「ちょ、おい玖城?!」
その手は鳴の胸倉を掴んで、鳴を強引に自分の方に引き寄せた。
鼻と鼻が触れそうな距離。
鳴は目を丸くして、固まっていた。
「あんまり、人の詮索しないでもらえますか?」
胸倉を離して鳴の手から本を奪う。
そのときひらりと何かが落ちて、それに鳴が手を伸ばした。
「…写真?」
「あぁ…」
玖城はめんどくさそうに視線を写真に向けた。
「外人ばっか…」
鳴の写真を覗き込めば確かに外人ばかり写っていた。
「…真ん中、玖城じゃないのか」
白河が写真の真ん中を指差した。
そこには少しだけ幼い玖城が写っている。
玖城は何も言わずにそれを奪い取って、それを見つめた。
その視線はさっきとは打って変わって優しげで。
「…それ、誰」
鳴はそんな玖城を睨んで問いかける。
「誰でもいいでしょ」
口では冷たく言いながらも、その写真を見て玖城がふわりと微笑んだ。
それを見た鳴も俺もそこにいた4人全員が目を見開いた。
「笑った…」
「だから、普通に笑いますって」
その写真を本の隙間に入れて段ボールにしまっていく。
「今回は目、瞑りますけど」
「え?」
「次やったらどうなっても知りませんから」
玖城はそう言って段ボールを閉じる。
俺達に背を向けている玖城は小さく溜息をついた。
「…いつまでここにいるんですか?」
「決めてない!!」
鳴がそう言えば白河が眉を寄せた。
「そうですか…。じゃあ、自分はちょっと出てますね」
「え?」
「俺の物には触らないでくださいね。それじゃあごゆっくり」
玖城は俺達に背を向けたまま外に出ていく。
「……怒ってた、よな?」
俺の言葉に鳴は眉を寄せて。
「アイツの目…怖い」
「え?」
鳴の言葉に俺達は首を傾げた。
「前もそうだった。玖城は普段目、合わせないけど。合わせたときは背筋が凍る感じする」
「……お前が嫌われてるだけじゃないか?」
「ひどっ白河ひどい!!」
白河は溜息をついて。
「結局俺まで巻き添えじゃん」
「…ごめん」
「素直に仲良くなりたいって言えば?」
白河の言葉に鳴は固まって、顔をしかめる。
「はぁ!?俺がアイツと仲良く?うわ、ありえねぇ」
「鳴さん…」
「俺、アイツ嫌いだし」
そう言った鳴だったけど。
白河はなにかめんどくさそうに溜息をついて。
「……馬鹿みたい」
「は!!?」
白河はそれだけ言って口を閉ざした。
←→
戻る