転生者

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 どの世界にも理不尽はある。

 数ある差別用語の中に、『黒持ち』という言葉があった。
 黒持ちとは、体の一部に『黒』を持つ人間のことを指す。
 何故なぜ、それが差別用語になるのか。その理由は、常人より高い魔力を持つあかしだから。

 魔力を持つ者は出世しやすいけれど、強すぎると制御が難しく、人々に恐怖を与えてしまう。


 私――シーナは、その差別用語に当てまる一人だった。
 とはいえ、私は魔力の制御を難しいと感じたことがない。魔力を暴走させて、人を傷つけたことはない。

 それでも世界は無情だ。黒持ちということだけで、私は村人達に嫌われている。
 さらに言うと、私はヘテロクロミア。左右で異なる色を瞳に宿している。
 虹彩異色症こうさいいしょくしょうとも呼ばれているヘテロクロミアに差別用語はないけど、他人に気味悪がられて嫌われる対象になりやすい。
 黒持ちでヘテロクロミア。そのせいで十五歳になっても、村には居場所がない。


 ――何故、『この世界』という表現を使うのか。
 それは、私が異世界から転生した人間だからだ。

 私の前世は地球と呼ばれる、魔法の概念はあるけど実在しない世界。自然が激減する代わりに科学が発展し、文明の利器が多く生み出された。
 それに比べて、この世界は緑豊かだ。魔法があるおかげで発展しすぎないし、綺麗な環境を保てている。

 あと、地球と違うところは、人間が国を統治しているのではない。
 数ある大陸の大元おおもと――始原の大陸≠ナは、竜人が掌握しょうあくしているのだ。

 唯一神マカリオスの御使いである竜神が生み出した竜人――竜帝と、彼を頂点にあおぐ四人の竜王によって、大陸の国々は統治されている。

 その昔、始原の大陸で大戦争が勃発ぼっぱつし、それを鎮めたのが竜帝だった。
 偉大な竜帝による健全な統治制度が完成し、今では平和な暮らしができている。

 ちょうどいい時代に生まれて安心した。じゃないと戦争の道具にされ兼ねないから。

 現代は平穏。けれど、私はあまり平穏無事に過ごせていない。
 村人達に嫌われ、何度も石を投げられたり嫌がらせを受けたりしているから。
 八歳に家族をうしなって天涯孤独になり、さらに居場所がなくなった。
 それでも過酷な生活環境のおかげで精神面が鍛えられ、今ではしたたかに生きられた。



『シーナ、今日は何をするんだい?』

 ある秋の朝、友達であり家族である青年が、食事の間に現れた。
 端整な顔は中性的だが、凛々しさと美しさのバランスが良くとれた凄艶せいえんな美貌。人間ではないため、耳の先はエルフのようにとがっている。服装は、金や銀のアクセントを入れた紫色のマントに、白金色の布地に金や銀のアクセントがある、まるで王族が着るような高貴な礼服。
 綺麗な白金色の髪プラチナブロンドに凛々しい金目銀目が美しい青年は、人間ではない。

 彼は精霊王だ。

 この世界には自然界の力をつかさどる各精霊の頂点に立つ大精霊が存在する。中でも彼は、唯一神マカリオスの分身体とわれ、全属性を司る精霊王。
 何故だか知らないけど、私を気に入って契約を持ちかけた。
 精霊との主な契約方法は、名前を望まれるか、元ある名前を教えられるか。
 私は彼を『コスモ』と名付け、今では家族のように普通に接している。
 本来ならあがめられる存在と『普通』に接するなんて無理だけどね。

「今日は森に行くよ。そろそろ食べ物を調達しないと」
『それはちょうどいい。今、林檎が実っているから、案内しようと思っていたんだ』
「本当!? ありがとう!」

 この世界でお菓子を見たことがない私にとって、果物がご馳走ちそうだった。
 瞳を輝かせてはにかめば、コスモは「どういたしまして」と穏やかに微笑んだ。

 簡単な朝食が終わるとかごを持って森に入る。コスモの案内を受けて深いところまで行くと、大きな林檎の木があった。
 ここの林檎は毎年楽しみにしているほど美味しい。他の場所には野生の桃や洋梨の形をした果物がある。

 木に登って採りたいけど、この数年で髪が腰まで伸びたから枝に絡まりやすい。髪が抜けるのは勘弁したいから、地魔法で重力を操り、浮き上がって採る。それを繰り返していると、籠にたくさんの林檎が山のように積み上がった。
 せっかくだから採り立ての林檎を皮ごと食べる。瑞々しくて爽やかな味わいが美味しい。

「ん〜、美味しい〜! コスモ、ありがとう」
『喜んでくれて嬉しいよ』

 誰も彼も魅了するほどの美貌が無邪気な笑みを浮かべる。
 私は免疫がついたから平気だけど、見慣れない人は魂が抜けるほど見惚れるだろう。

 林檎のお礼に魔力をあげて、重力操作で軽減させた籠を持って村の近くに戻った。

「魔女さま!」

 昼過ぎになって家に入ろうとしたら、村の方角から子供の声が聞こえた。

 魔女。これは私の蔑称べっしょう
 黒髪でヘテロクロミアだから、大人と同年代の子供達からさげすんで呼ばれる。
 けれど、彼等より幼い子供達からは敬称として使われている。
 子供達から「魔女さま」と呼ばれるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。

 声がした方に振り向くと、三人の男の子や女の子が集まってきた。

「どうしたの?」
「遊びに来たの!」

 嫌われ者のはずの私は子供達にしたわれている。
 それは、私が三人の中の女の子を助けたことがきっかけだった。
 私から逃げようとしたけど転んでしまい、膝を擦り剥いてしまった。凄く痛そうだったから治してあげるとなついたのだ。

 あれから二年。子供達は十歳になっても、親の目を盗んで遊びに来ている。
 この世界の子供の遊びを知らない私は、前世の古い遊びを教えている。

 あやとり。お手玉。縄跳び。かごめ。花一匁はないちもんめ
 紙飛行機も教えたいけど、紙は一般では流通していないから断念。
 全部日本の古い遊びだけど、子供達に好評している。

「今日は何する?」
「ハナイチモンメ!」

 三人とも、声を揃えて言った。

 はないちもんめは、実は怖い意味がある。『花』は女の子のことを指し、『一匁いちもんめ』は女の子を買う時の単位。値段をまけて悲しい売り手側と、安く買って嬉しい買い手側の様子を歌ったものだ。
 でも、それを知らない子にとっては、退屈しのぎにちょうどよかった。

 まず、グーパーで二チームに分かれ、交互に歌う。

「か〜ってうれしいハナイチモンメ」
「まけ〜てくやしいハナイチモンメ」

「あの子が欲しい」
「あの子じゃわからん」
「「相談しましょう、そうしましょう」」

 そんな感じで、私は一緒のチームになった男の子と相談する。

「誰がいい?」
「……えっと、エリンがいい」

 エリンという女の子は、子供の中では結構人気の高い愛らしさを持つ子だ。
 ふわふわの茶髪に大きな飴色の瞳の愛らしいエリンは、この二人の男の子に好かれている。
 泥沼関係にならないといいけど……。

「「き〜まった!」」

「エリンが欲しい!」
「魔女さまが欲しい!」

 何でいつも私を欲しがるのかなぁ。男の子の方も選んであげてよ。

 選ばれた者がじゃんけんする。勝ったのは……。

「やった! 魔女さま! こっち!」

 エリン側が勝った。
 それにしても……。

「人数少ないと、すぐ終わっちゃうね」
「じゃあ、他の遊びにしようぜ! 何かない?」

 活発な男の子が期待感溢れる眼差しを向けてくる。
 他の遊びと言っても……あ。

「じゃあ、『小鬼さんがころんだ』にしよう」

 本当は「だるまさんがころんだ」という遊びだけど、この世界に達磨だるまという置物は存在しないから、魔物である小鬼――ゴブリンの別称――にした。

 遊び方を説明して、じゃんけんで鬼役を選び、鬼役から離れたところでスタート。

「こお〜にさんが……こ〜ろんだ!」

 男の子が振り向くと同時に、ピタッと止まる。けれど、鬼の男の子がバランスを崩して動いてしまう。

「あっ、動いた!」
「ちぇー。魔女さま、エリン。勝ってよ!」
「うん!」

 エリンが動かず笑顔で返す。
 そんな感じで、人間に見立てた一人にタッチして、決められた歩数を進んで近くにいるエリンにタッチして、交代する。

「これ面白い!」
「魔女さま、みんなに教えていい?」
「いいよ。じゃあ、ちょっと休憩しよう。林檎があるから、剥いてあげるね」

 籠に入れてある林檎を見せると、三人は目を輝かせて喜んでくれた。
 家の中で林檎を切って、ウサギの形にする。これは三人の好きな切り方だ。
 林檎を食べ終わらせた子供達は満足したのか、手を振って帰って行った。

「さて、と……。何しよう?」

 まきもある。ご飯もある。果物もある。水は……魔法で何とかなる。

 私の魔力は精霊王が好むほどだから、魔力によって作り出される水は、山頂の湧水のような美味しさがある。
 ただし、強い魔力に馴染みのない人が飲むと魔力酔いが起きてしまうので要注意。

 木のコップに魔法で水を注ぎ、一杯飲んで一息つくと、家の扉を乱暴に叩く音が聞こえた。

「おい、魔女! いるんだろ!?」

 今度は大人の男。声色から何かあったのだろう。
 気が引けるけど、渋々と扉を開ける。

「何か用?」
「息子が倒れたんだ。治せるよな?」
「症状は? 熱っぽいとか、せきが出るとか、骨を折ったとか、どんな感じなの?」
「……熱っぽくて咳ばかりしている」

 あぁ、たぶん風邪だ。
 仕方ないから林檎をいくつか入れた籠を持ってついて行った。


 私の家は村の外れにあって、十分ほど歩いたところにアポイナ村がある。
 村に入った途端、外で立ち話をしている主婦や、田畑を耕している働き者の男や同年代の子供が嫌な目を向けてくる。
 本当に気分が悪い。でも、これがここでの普通=B

 男の家に入って、子供の寝室に入る。
 寝室には、私によく石を投げつけてくる少年がいた。

 あー、この子か。そう思いながら診察して、魔法で免疫力を上げてから解熱させる。
 本当は声に出した方がいいけど、こういった特殊な魔法は無詠唱が一番安全だ。私は無詠唱でも魔法を使えるから、本当によかった。

「――はい。あと一日か二日もすれば元気になるよ。それと、風邪の時は果物が一番だから、この林檎をすり下ろして食べさせてあげて。で、報酬は?」
「……黒パン三つだ」
「林檎もあげるんだから野菜も付けて。普通の治療費より安いでしょう?」

 私の発言に、男は舌打ちした。
 助けた人に対してこの態度はいただけないけれど、言っても改めない人間達だ。

 ああもう、心がすさむなぁ……。



 
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