▲イルミ

コレの続き

友人と言うには距離があり、知人と呼ぶには少し遠い男から壮絶な勘違いをされていた事が発覚したのは今から丁度一ヶ月前の話である。あの日、彼は随分一方的で尚且つ横暴に異国の文化を私に押し付けてきたわけだが、必死に説明を求める私に対して有ろう事か「うるさいなぁ」の一言で片付けたのだから本当に乱暴な奴だと思う。要領を得ない返答にもしや手篭めにする為のただの建前でこんな面倒くさい事を言い出したのだろうか、と身構えたのも束の間。「俺今日は時間ないからまたね」と彼は終始ぽかんとし続ける私を放置してそそくさ部屋を出て行った。

そう。出て行ったのである。

独り残された私の混乱たるや。その晩は考えれば考えるほど分からなくなり眠れず、考えを放棄するという結論に至るもふとした瞬間に思い出し困惑する日々の始まりであった。
そして尚の事良くなかったのがその日以降彼が現れなくなった事である。今までなら数週間顔を見ずとも大して気にはしない。しかし四六時中もやもやしているこの状況では会わない期間が尚更もやもやを助長している気がしてならない。何食わぬ顔でこちらから連絡をしてみるかとも数百回考えたがなけなしのプライドがそれを引き止めてくれている。大体なんなんだあいつは。なんなんだ俺も好きって。私がいつお前を好きだと言ったんだ。俺もってなんだ俺もって。嗚呼振り回されている自分が悔しい畜生畜生。あれから無駄に頭を悩まされている私はジャポンについて調べるくらいには彼に振り回されていた。どうやらジャポン式では好きな人に告白する日だったらしい。あぁそれでと理解したのは束の間で、湧いてくる別の疑問が止まらなくなるだけである。しかもその一ヵ月後にはホワイトデーなるものもあるらしい。これは男が女にお返しをする日だそうで。さすが義理堅いお国柄だなぁと感心しながらも私はどうしても考えてしまうのだ。

この流れであれば3月14日に奴が来る。

いや来た所で困るけど!来なくてももやもやするし!別にいいんだけどまぁあのゾルディックさんですから、さぞかし立派なお返しなんでしょうね!それを貰うくらいの楽しみにしててあげよう!

って思ってた。
阿呆は私だった。

「ホワイトデー?なにそれ」

彼が再び現れたのは3月下旬の事。いつものように突然部屋に来た彼は何食わぬ顔で仕事の情報交換をしてくる。その頃になると私は彼に対して怒りの感情しか抱いていなかったのだが仕事だからと冷静に淡々と返答・・できるわけねぇわな。ついぽろりと洩らした「14日に来ると思った」の一言から首を傾げる彼にジャポンのそれを説明した所でこの返答である。妙な期待をした自分も恥ずかしいし情けないし腹立たしい。これでも一応暗殺者だってのに。

「へぇ。わざわざ調べるくらい気になってたんだ」
「変な言い方しないで。高価な物でも強請ってやろうって思ってただけよ」

結局のところ私があれほど悩んだこともこいつにとってはただの何気ない会話の一部でしかなかったのだ。
馬鹿らしい馬鹿らしい。まだ精進しないと。なんていっそ吹っ切れた私は冷蔵庫の中身を眺めながら「何か飲む?」と尋ねながら振り返ると先程まで人のベッドで寛いでいた彼がすぐ真後ろに立ってこちらを見下ろしていた。「どうしたの?」ちょっと待って。「いや、」怖い。

「本当になまえは俺のこと好きだよね」
「もうやだこのパターン」