6
***
「………」
「…………」
き、気まずい。
二人で、職員室に向かう。
沈黙のなか、歩く音と、廊下にいる生徒の声だけが聞こえる。
「…っ、寒い…」
教室の中と違って、廊下はエアコンがきいてないからだろう。
身体に風が吹き付けてくる。
雪でも降り出しそうな寒さだ。
はーっと手に息をかけながら、先導するように彼より少し先を歩く。
一之瀬君はそれを不満に思うこともなく、素直についてきてくれている。
ただ歩くのも気まずいので何か話そうと脳をフル回転する。
好きな食べ物。好きな教科。
「…(皆に聞かれてる気がする…)」
同じ質問ばっかりされるのは嫌だろう多分。
自分ながら、コミュニケーション能力が低いことを改めて自覚する。
それよりも、
「………」
廊下を歩いていれば、一之瀬君の方に色々な熱っぽい視線が向けられるのが分かる。見事に全部といっていいくらい女子の熱視線。
(…まるで芸能人みたいだな…)
一之瀬君は、全然意に介してない様子だけど。
慣れているのかもしれない。
周りの視線をできるだけ避けるような道を選んで、人の少なくなった場所で一之瀬君の隣に並んで話かけてみようと意気込んだ。
(うざいとか思われたらどうしよう)
…なんてそんな余計なことは考えない考えないと心の中で呟きながら、やっぱり王道の挨拶にしようと決めた。
おれより少しだけ背の高い一之瀬君を見上げる。
少し、緊張する。
寒さか、緊張からか、震える唇を動かした。
「あの、一之瀬君って呼んでいい?おれ、柊 真冬っていうんだ。よろしくな」
「……」
できるだけ気分を害さないように精一杯の笑顔で挨拶してみれば、ぴたりと彼が歩みを止める。
一之瀬君が立ち止まったことにより、必然的におれもとまる。
[back][TOP]栞を挟む