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見て、ちゃんと目が合ったはずなのに。

おれが声をかけようとした瞬間に、冷たい目で逸らされた。


「……っ、」


結構、ショックだった。

ぎゅっと拳を握る。


(…おれも、蒼くんを騙した一人だと思ったのかな)


違うけど、あの状況で蒼くんから見たらそう見えても仕方ないかもしれない。


嫌われた。

嫌われた。


ずーんと暗くなっていても、佐原さんは関係なしに話しかけてくる。

あああもう、どうしよう。本格的に嫌になってきた。


「蒼くんに嫌われちゃったねー」

「………」


ケラケラと笑われて、余計に悲しくなった。
今の出来事を見ていたらしい。

…やっぱり、無視されたんだおれ。


「…嫌われ、てるのかな」


他人にまでそう見えていたことに、自分の錯覚ではなかったんだと実感して悲しい。
そうぽつりと零せば、彼女は何故かにこりと嬉しそうに笑った。

ぎゅっと腕に与えられる力が強まる。
浴衣がはだけて、胸がちょっと見えて気まずくて視線をずらした。


「うーん、どうだろ。でも、私はこれで良かったと思ってるけどね」

「…良かった…?」

「いつもめっちゃ仲良しだったからちょっと心配だったんだ」


心配されるようなことが何も思い浮かばなくて、そう尋ねると。
彼女は、全くの予想外の発言をした。



「蒼くんと真冬くんが実はデキてるのかなって」

「……へ?」


さらりと放たれた言葉に、耳を疑った。


デキてる…?

いまいち普段聞きなれない言葉に、意味がピンとこなかった。
眉を寄せると、「もー」と怒ったように頬を膨らませた彼女が言いなおす。


「付き合ってたり、してないよね?」


確認するようにそんな質問をしてくるから、驚いて目を瞬く。


(…なにを言ってるんだろう)


一瞬、理解できなかった。


「…おれ、男なんだけど」


このクラスでは、何故か男同士が付き合うってことがおかしいことだと思われなくなってるような気がする。

でもそんな発想、普通は考えもしないんじゃないだろうか。


(…おれがおかしいのかな)


む、と眉を寄せて疑問に首を傾げる。
本気で自分を疑い始めていると、ふいに腕を掴む手にぎゅっと力が込められた。


「でも、」


一瞬視線を下げて、躊躇いがちな口調で何かを言いかけた佐原さんの言葉をさえぎるように、椙原くんが「注目ー」と声を上げた。

その声に、皆の視線が集まる。

彼は視線を集めたことに満足げに頷き、にやりと笑みを作って。


「今から、王様ゲームをしまーす」


何本かの割り箸を手に、そんなことを言った。
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