10
「命令しまーす!」
目が合うと、にこりと笑みをつくって口を開いた。
「まあ、最初だし軽くしとく。ハグしなさい。あ、2番が5番に対して自分からしてね」
「…へ?」
ハグ…?
そして、すぐにその番号が割り箸のことだと気づく。
「…え、」
驚きと、脳が状況についていけないことで、そんな声しかでない。
呆気にとられて佐原さんを見ると、「えへへ、真冬君。ハグだって」なんて頬を赤らめて、両腕を広げてくる。
「え、おれ、」
頭の中が真っ白になった。
それに、意味が分からないし嫌だ。そう言おうとして一歩後ずさろうとすると、後ろから肩を掴まれる。
振り返ると、椙原君がいた。
「真冬。王様のいうことは”絶対”なんだって。破ったら、きつい罰ゲームがあるからな」
「…な、」
なに、それ。
聞いてないんだけど。という反論は通じない。
加えて「ほら、早く!!」「破ったら、全裸で登校だからね!」と、耳を疑うような声が聞こえてきた。
「別にハグぐらいいいでしょ?」と目の前にいる佐原さんがきょとんとした顔で見てくる。
「…う、」
確かに。
そう言われれば、これで破って全裸で登校の方が嫌だ。
ぐ、と拳を握って頷く。
「…わかった」
さすがに少し離れてくれた佐原さんに恐る恐る腕を伸ばして、躊躇いがちに抱きしめる。
当然だけど身体が密着するような体勢。
腕の中にある身体の、細いのにやわらかい感触に自分がしていることの現実感が襲ってくる。
長い髪か着ている服からか女の子らしい匂いが香ることに気づいてしまって余計に焦った。
「おおー」と歓声みたいな声があがって、ぱっと離れようとすると背中に回された手に力が入って離れない。
「ちょ…っ」
焦って小さく声を上げれば「真冬君って、すっごくいい匂いするね」なんて笑いを含んだ声が聞こえて、手の力が緩んだ瞬間にすぐに離れた。
離れた瞬間、誰かの「あー、真冬君赤くなってる」という声にハッとして顔を手で隠す。
頬が、どんどん熱くなってくる。
「なってない。なってないから」
そもそも女子とハグって行為自体が初めてで、緊張しない方がおかしい。
「……」
(あー、もう嫌だ)
ぱたぱたと手で顔をあおぎながら、ふいに視線を感じてそっちに顔を向ける
と
蒼くんが、いて。
「…っ、」
一瞬身体が凍るような思いに駆られる。
おれを見る表情が、異様に冷たい。
目が合った途端に心臓が跳ねた。
ぱっと逸らして、どくどくと痛む心臓の辺りに手で触れる。
「ほら、真冬2回戦ー」
割り箸を目の前に持ってこられて、もうやめたいと口にしようとすれば「途中でおりても罰ゲームあるから」と先に言われて、最早途中でやめることすら許されなくなった。
「あ、そうだ。あたしお菓子もってるんだ。真冬君、食べる?」
なんとなくこのゲームの意味を理解し始めた。
さすがにもうさっきの二の舞は嫌だから、割り箸を隠す。
番号は1番だった。
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