11

箱に入ったチョコを差し出してくる女子に、「ありがとう」とお礼を言いながらそれを一粒食べてみるとチョコが溶けた瞬間、口の中に液体みたいな何かが広がる。

(…苦い)

もぐもぐと咀嚼しつつ、眉を顰めた。
でも食べたことない味が新鮮で、「おいしい」と呟くと「もう一個食べる?」と聞かれてうんと頷いて貰った。
やっぱり、チョコが溶けた瞬間に、液体が口の中に広がる。

「ここに置いとくから、好きなだけ食べていいよ」と机の上に置いておいてくれるので、頷いてお礼を言う。


「…?」


ぱくりともう一個食べれば、なんか身体が熱くなってきたような気がして、首を傾げつつ皆の割り箸を引く様子をぼーっと眺める。


「「王様だーれだ!」」


掛け声とともに、「おー、おれだ」と椙原くんが割り箸を上に掲げて嬉しそうに顔を歪めて笑う。


(…おれも王様やってみたいな)


そんな気持ちを抱きつつ、でも絶対に自分に命令されませんようにと心の中で呟く。


「じゃあ、3番が6番に壁ドン」


その声に、ほっと息をはきつつ誰だろうと周りを見渡せば。
「あ、俺3番」と依人が割り箸を示した。

6番は少し背の小さい女子だった。
壁側にたったその女子の顔の横に、どがっと音がなりそうな勢いで依人が手を突く。


「ふっ、俺に惚れてみるかい?」

「……」


かっこつけまくった依人に対して、全くの無反応の女子に皆がどっと沸く。

依人はやっぱりすごいなぁと感心しながら見て、自分もこのくらい軽くやればよかったんだと知った。


(次、もしも当たったらもっとノリ良くしよう)


うんと自分で頷いて、回収されていった割り箸がまた配られる。

その後は、お茶一気飲みを椙原君がやったり、女子同士でハグしたり、男女でポッキーゲームとかしたりしてた。

自分はそこまで指名されず、同じように蒼くんも指名されていなかった。

次引いた番号は5番で。

「なんか、段々命令が危なくなってきてるよね」と楽しそうに笑う佐原さんに、「…そう、かな」と首を傾げてみる。


「じゃー、6番が2番にフレンチキス」


その男子の言葉に「えー」「キスってキャー!やば!」と興奮やら歓喜やら非難やらが飛び交って、一人の女子が「あ、私2番」と声を上げた。


「おっし。じゃあもう一人は誰だー?」

「…6番」


そう静かな声で呟いたのは蒼くんだった。


「えっ、やったあ!」


嬉しそうに笑う女子に、周りの女子が「ずるい!!」「私も2番だったらよかったな」なんて、「キス」って聞いた時には非難の声を上げていた女子も一転して、羨ましそうな声を上げる。

彼女らの声を気にも留めずに、蒼くんは躊躇う様子もなく腰を上げた。
いつもと違って浴衣を着ているからか、やけに色気を感じる雰囲気で女子の方に近づいていく。

更に喉を鳴らすような美しさに、ごきゅ、と彼を見上げている誰かが変に唾を飲む音が聞こえた。


(…蒼くん、全然嫌がらないんだな)


それを見てすごいと思うと同時に、自分のしたことを反省する。
確かに、おれがあんな態度とったことで相手を傷つけたかもしれない。
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