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自分がされたら嫌なことを人にしたんだということを実感して、ただでさえ暗いのに余計に落ち込んだ。


「あ、あの…」


目の前に蒼くんが来た瞬間に、すごい勢いで赤くなる。
結構かわいいと評判の女子だから、照れ方で更に可愛く見えた。


(蒼くんも、可愛いって思ってるのかな)


そんなことを思って、二人を眺める。


「目、閉じて」


その蒼くんの言葉に、素直に従う女子。


「………」


皆が固唾を飲んで見守る。

…これほどの美しい少年がキスする場面なんて、なかなか見られるものじゃない。

それどころか、もう最初で最後かもしれない。

見惚れるほど綺麗な横顔で軽く瞼を伏せるその姿は、まるで一枚の絵のようだった。
息が詰まりそうな静寂の中、優しく触れるように蒼くんの薄く整った唇が女子の”それ”に重なる。

一瞬の時が止まったような制止。

……の後、


「「うおおお!!」」

「「きゃああああ!!」」


なんて皆それぞれの盛り上がる声をよそに、二人が離れていくのを見る。

女子は真っ赤になったまま、うっとりとした表情で元々座っていた場所に戻る蒼くんを目で追っていた。

「じゃあ、次いっくぞー」とよりテンションが上がってきたらしく、大きく声を張り上げる椙原くんの声に皆が「おー!!」と歓喜の声を上げる。


「…(7番)」


割りばしを見ながら、相変わらず王様来ないなと思ってため息をつく。
「くそー、王様じゃない―」「私もー」なんて残念そうな声がする中で、「あ、王様だ」なんて声が上がる。


「じゃあ、2番と7番がべろちゅーで!!」


その声にべろちゅーってなんだっけ…なんて考えながら、うとうとと眠くなってきたので目を閉じていると。
真横で「あ!!真冬君7番だよ!」と興奮したような甲高い声が聞こえて、その声があまりにも大きくてびくりと身体が跳ねた。


「あ、…え…?」


目を開けて、割り箸を見る。

本当だ。おれ、7番だった。

何故かぽーっとする頭でその番号を認識して、少し離れた場所で「…に、2番です」とちょっと緊張したように声を上げる女子の方へと言われるがままに向かう。

「あー、ずるい。ゆっちゃん、変わって」と佐原さんが声を上げて、「王様の言うことは絶対だから」と苦笑いしながら手を掴まれているのが視界の端に見える。

目の前の女子に目を向けると、少し照れたような焦ったような表情でそわそわしている。
嫌だとは思われてない様子で、ちょっと安心する。


(べろちゅーって、どうやってやるんだっけ)


ふわふわした思考で考えながら、目を閉じた女子に顔を近づけていく。
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