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「…………」


笑いが返ってこない。
そのおれの必死の笑いに対して返ってきたのは、呆れたようなため息だけだ。

…なんで、そんなにいつもと同じなんだ。
あまりの冷静さに、やっぱりおれの耳がおかしくなってしまったんだろうと思う。

だ、だって、蒼がおれに”キス”なんかを褒美で要求するわけがない。

鱚のことかな。でもなんで魚のことになるのかな。なんて最早現実逃避も等しく、ぐるぐると”きす”の意味を考える。


ていうか、蒼はキスってどういう意味かわかって言ってるのか。
何かと勘違いしてるんじゃないのか。


(男同士でキスって、どの罰ゲームよりもある意味危ないような気が…、)


それこそ、今日の王様ゲームより危険と言っても過言ではないかもしれない。


「……………………」



(…本気、じゃないと信じたい)


蒼は大事な友達だから、おれに、そんなこというわけない。

言って、ほしくない。

後ろから腕を回しておれを抱きしめてる蒼と2人で1つの布団にいて、暑いはずなのに。
何故か寒気を感じながら、心を奮い立たせて意を決して聞いてみる。

冗談であってほしいなんて祈りも込めて。

ごくりと唾を飲みこんで、問う。



「もう一回だけ、言ってくれる?」

「まーくんと、キスしたい」

「……鱚?魚?」


再度繰り返される要求に、絶句して、でもとりあえず何か言わないと困る、おれが困ると必死に言葉を探す。
どっかの漫画で読んだことあるようなボケ方だななんて、自分ながらに思って、でも言うしかない。


「…………何いってんの」

「……………」


…真剣な声で、最早呆れを通り越して頭のおかしい人を憐れむような声音に、う、と胸が痛む。
その自分の認識が間違ってなかったことを知って、理解してしまって、思わず沈黙になる。

いや、だめだ。沈黙になったらだめだ。

心が叫ぶ。何か言えと心が訴える。
ぼたぼたと目に見えない汗が体中を伝ってるような気がする。


「あの、寝ぼけてる?」

「まーくんがそう思いたいんなら、そう思ってもいい」

「…う、」
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