21

言葉に詰まる。
躊躇うことなくそう言い放つ蒼に、うまく言葉を返せない。

なんでそんなこと言うんだろう。

と考えてみても、わかるわけがない。


「…何でもしてくれるって、言わなかった?」

「え、や、でも」


確かに、言った。
責めるような声に、「いや、でも」と思わず首を振る。

嫌だ。そんなの、嫌だ。

友達なんだから、蒼とおれは友達なんだから。
そんなこと、したらだめだ。
いくら蒼が綺麗な顔してるからって、キスなんてできない。

でも、蒼からしたら、そういう”キス”してもいい対象として見られてると思うと、こうやって抱きしめられてるって状態も異常な気がして。

背中に伝わる体温が、その身体が、怖い。


「離…っれて、ほしい」


思わず、叫ぶようにそう言えば。

「やだ」とより強く抱きしめられて、背中が凍る。

それでも、「やめ…っ、本当に…っ」嫌だからとそう叫ぶように自分から身体を捻って逃げようとすれば「…ごめん」と小さく謝罪するような声とともに、拘束する力が緩む。

少しだけほっとして振り返ってみれば、彼はとても傷ついたような表情を浮かべていて。

(ああ、もう…)

おれは蒼のその表情が、本当に苦手で。
その顔をされると何故かなんでもしたいと思ってしまう。
辛そうな顔をしてほしくないと思ってしまうから。

できるだけ見ないようにと視線を逸らす。
ぎゅっと俯いて、胸の前で拳を握った。

一瞬だけ、拒絶しようとしたことを後悔して、それでもその”行為”は受け入れられないからおれにかけられる言葉なんかない。

ああ、もうどうすればいいんだろうと若干泣きそうになりながら、蒼に背を向けたまま無言になってしまう。
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