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おれがここで素直に受け入れればいいのか?
「いいよ」っていえば、少しは空気がマシになるのだろうかと本気で悩み始めた時。
「……俺のこと嫌いになった?」
ぽつりと呟かれる言葉に、背を向けたままぶんぶんと勢いよく首を振る。
嫌いになるわけない。
蒼のことは、好きで、大好きだからこうやって普段から一緒にいるんだ。
「嫌いになんて、ならない」
「…まーくんは、やっぱり優しいな」
そう呟けば、苦笑を含んだ声が聞こえる。
でも、どこか自嘲気味な声で。
そんな言い方をされると、思わず頷いてしまいそうになる。
ふ、と笑みを零す気配と、その優しい声に罪悪感でどんどん辛くなってくる。苦しくなってくる。
本当に優しかったら、好きな相手のどんな要求も受け入れられるはずだ。
受け入れられないおれは、優しくなんかない。
ぎゅっと掛け布団を握って、どくどくと鼓動が変に脈打つ。
「…俺、寝るから。ごめん、変なこと言って」
「…っ、」
沈んだ声と、ごそごそと動く音。
もしかして、おれが今日拒んだら、明日からまた変にぎくしゃくしてしまうのだろうか。
蒼と、今まで通りに一緒にいれなくなるのだろうか。
「…(そんなの、嫌だ)」
おれは、蒼に嫌われてしまったら、きっとすごく心が痛くなる。
辛くなる。
そんなの、嫌だ。
そう思うと、自然と身体が動いていた。
「…え」
「あ…、の、」
気づいたら、振り返ってその服を掴んでいた。
唖然とした声を漏らす蒼に、ああおれは何をしてるんだろうと焦って、でも一度掴んでしまったら何か理由を言わないといけないわけで。
なんて言おうと考える暇もなく、確認するように問う。
「本当に、キスじゃないと、だめ?」
「……………」
返事はない。
それは、ある意味肯定を示している…と考えて間違いない気がする。
できれば、他の方法が一番よかった、んだけど。
震える手で蒼の服を握りしめて、もういいやと思う。
キスぐらいなんだと、あの時、思ったじゃないか。
だったら、今だって別にキスぐらいどうってことないはずだ。
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