23

息を吸って、ぽつりと呟く。
声が、震えた。
嫌だと、怖いと心は言っているのに。

口から零れる言葉は、反対で。


「…一回だけ、なら、いい」

「いや、無理しなくても」

「いいから。だいじょうぶ」


無理しなくていいという蒼の言葉を遮るように、強く言う。
わかってる。無理している。無理してないわけない。
これを後悔する日だって来るかもしれない。

…というより、もう後悔してる。

男とキスなんて、それも友達とキスするなんて、おれにとって普通じゃない。
普通じゃないのに、なんでこんなこと言ってるんだろう。
…でも、それを考えたらだめだから、いっそのこと早く済ませてほしい。


「…はじめて?」


そんな蒼の問いに、何を聞かれているのかわからなくて首を傾げる。


「キスするの」

「………う、うん」


できれば、聞かないでほしかった…と言わないけど思って、この歳までしたことないって結構恥ずかしいんだけど。
頬があつくなるのを感じて、視線を逸らす。

……と、


「そっか」


頷いて何故か嬉しそうに微笑む蒼に、むっとして「早く」と思わず強気な発言をしてしまったと思った。

(なんか、まるでおれからキスしたがってるみたいじゃないか)

ああもう気にしたら負けだと心の中で呟いて、蒼の服を掴む。
覚悟を決めてぎゅっと目を瞑る。


「…やっぱり、まーくんはそうすると思った」


何故か悲しそうな声を疑問に思って、目を開こうとすると…顎に何かが触れる。

それが指先だと気づき、軽く持ち上げられ て


「……っ」


(…………ぁ、)


震えるような息遣いと、微かに吐息が触れる。
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