逃げて、逃げて、逃げて。1

***

高1の冬。
監禁され始めてすぐ、まだ、元の学校に通ってた時の話。


「まーくん、見ーつけた」

「…っ」


あまりの恐怖に声が出ない。
もう蒼に触れられるのが嫌で、もう抱かれるのが嫌で。
苦労してやっとあの屋敷から出ることができたのに。

目の前で何を考えているのか分からないような顔で微笑む蒼に、恐怖で身体が動かない。


「家で待っててって言ったはずなのに、なんでこんなところにいるのかな。俺のお姫様は」

「だっ、て」


震える唇をやっとのことで動かす。
その後の言葉が喉につっかえて出て来ない。
何も言わずにそれでもぶんぶんと首を横に振って拒否の意を示すと、その目が不機嫌に細められる。

今から嫌なことをされるってわかってるのに、素直に待ってる人間がいるわけがない。

後ろに下がると、その度に距離を縮めてくる。
背中が壁に当たったのを感じて、逃げ場を失ったと青ざめた。

……蒼は異常だ。

逃げた俺を探し出すために、こんな夜遅くに屋敷にいる人全員に加えて学校の生徒まで使うなんて。
そこまでして俺を閉じ込めておきたいのか。

それに、そもそも家族でもない蒼の家にいるのもおかしいのに、皆になんて言ったのかは知らないけど、何故か皆俺が蒼の家にいることに何の疑問も抱いてくれなかった。

「真冬くんがいなくなったって連絡あって、今クラスで手の空いてる人皆で探しまわってたんだよ。蒼くんも凄く心配してたんだから、迷惑かけちゃだめだよ」なんて言われたときは、目の前が真っ暗になった。

容姿端麗、成績優秀、そして友人も多い蒼の呼びかけに皆喜んで協力したらしい。

蒼が俺のためだけにそこまでしないだろうと思っていた自分が馬鹿だった。
逃げ出せば、少しは探してもどうせすぐあきらめるだろうと甘く見てた。

こんな大勢で探されたら、どこへ逃げても見つかってしまう。


「お、俺、もう、」


近づいてくる蒼に、嫌だと、もう解放してくれと言おうとした瞬間。
俺を逃がさないためか、通せんぼするように俺の顔の横の、すぐ後ろにある壁に手をついた蒼がにこりと微笑む。


「わかった。」

「――え、」


分かってくれたのかと疑い半分、期待半分の気持ちで顔を上げると。
ポケットから取り出した何かで口を塞がれた。
それが布だと気づいたときには、すでに意識が薄れていて。


「……まーくんを自由にしてた俺が悪かったんだよな」


その言葉の意味を理解するより早く、意識が消えた。
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