彼らは、共に過ごした。(中学生編) 【過去のキオク】(アンケートのリクより『テスト勉強期間』) 1

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その後、何日間かしばらく蒼に「何すればいい?」と尋ねてみても。
「うーん。今はいいや」なんてよくわからない返答がずっと返ってきたから、結局そんな約束をしたこと自体記憶から消えた。
…というか、受験勉強でそれどころではなくなった。


さすがに中学3年の冬になれば、勉強のこと以外考えられなくなる。

確実に他のことで悩みだすと最早勉強のことを考える余裕が脳になくなるので、余計なことを考えるのはやめた。キャパシティーオーバー。


…そして今、夕暮れによってオレンジ色に染まる教室で。

おれと蒼は勉強をしていた。


「蒼、この問題がわかんない…。ごめん…教えてもらってもいい?」

「ああ、この問題は…、」


教科書を差し出せば、蒼のシャーペンを持つ手がスラスラと解答を編み出していく。



(すごい…)


感心しながらそのやり方を頭に叩き込んだ。
最近はずっと放課後の教室でこうして勉強をしていた。
依人はそもそも勉強しない方だし、結局二人で放課後に残ろうという話になって。
隣の席でそれぞれの勉強をしながら、わからなくなったら蒼に聞く、ということを繰り返しす。


おれだけじゃわからなくても、大抵の問題は蒼に聞けば丁寧に教えてくれて解決できるから、本当に感謝していた。


むしろ蒼にわからない問題はないんじゃないかと思って、逆に勉強に付き合ってもらってる形になって申し訳ないと言うと、「じゃあ、毎日弁当作ってきてくれたらそれがお返しってことにする?」とちょっと悩んで困ったように微笑みながら出してくれた提案に即頷いた。


そういうわけで毎日お弁当を作る代わりに、勉強を教えてもらうことになったのだった。


「まーくんの助けになれるなら今まで勉強してきて…本当によかった」とすごく幸せそうな表情で嬉しそうに笑みを零すから、気恥ずかしくて、でもその言葉が嬉しくて、ありがとうと笑って返した。


それからは朝起きてから、夜寝るまでずっと頭の中で公式を唱えたり、地図を頭の中で描いてどの場所が何て名前かを繰り返し考えたりして、精神が消耗する毎日。

昼ご飯の最中も教科書を復習して、風呂の中でも英単語を呟き続ける。


普段勉強しているらしい頭のいい生徒は、たまに授業中にこくりこくりと頭を揺らしていて、皆頑張ってるんだななんて思って。
自分なんてまだまだだから皆よりもっと頑張らないと、と改めて感じて気を引き締める。

少しは息抜きしないといけないってわかってるけど、結局勉強しないといけないのに今自分は遊んでいるというプレッシャーから頭の中は結局リフレッシュできない。

そんなストレスが積みに積み重なって、ついに爆発した。


「え、ちょ、まーくん?!」


驚いた声が聞こえて、ふらついた身体をその腕に受け止めてもらった、


…そこで、意識がぷつりと消えた。


結局、日々勉強で夜中まで起きていたのが身体に悪影響を及ぼして、熱を出して倒れたのだった。

――――――――……


「……ん、」


頭に何かが触れて、それに呼び起こされるように目を開けた。
目を開ければ、心配そうにのぞき込んでくる顔が目に飛び込んでくる。


その後ろには白い天井。

それで、すぐにここは保健室だと分かった。
ふかふかのベッドの感触が背中に当たっている。


「…あ、起こした?ごめん」

「………ううん。…っごほっ」



怠くて言葉を離すのも億劫なほどで、声が掠れている。
すぐに咳き込んだ。
白いカーテンはオレンジ色の光に染まっていて、もう夕暮れなんだと気づく。


「ああ、もう。まーくんは、無理しすぎるから」


笑みを零して頬に触れる手が、優しい。
熱で火照った肌に冷たいその手心地よくて、ふ、と身体から自然に力が抜けた。

でも

でも、おれにはこんなところでゆっくり休んでいる暇はないんだ。
家に帰ったら今日の復習して、先生から配られた応用問題も解いて、苦手な社会をもう一度最初から何回もやらないと。
もともとの出来が悪いおれは、皆についていけない。
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