テスト勉強 1



***


その後、何度か蒼に「何すればいい?」と尋ねてみても。
「うーん。まだ後にとっておこうかな」と心臓に悪い返答がずっと返ってきて、結構な日にちが経ち、そんな約束をしたこと自体忘れかけていた。

……というか、受験でそれどころではなくなった。

さすがに中学3年の冬になれば、勉強のこと以外考えられなくなる。

他のことで悩みだすと最早勉強のことを考える余裕がなくなるので、余計なことを考えるのはやめた。キャパシティーオーバー。


……そして今、夕暮れによってオレンジ色に染まる教室でおれと蒼は勉強をしていた。


「ごめん。この問題教えてもらってもいい?」

「ああ、これは…、」


問題集を差し出せば、シャーペンを持つ蒼の手がスラスラと解答を編み出していく。

最近はずっと放課後の教室でこうして勉強をしていた。
依人はそもそも勉強しない方だし、結局二人で放課後に残ろうという話になった。
隣の席で各自勉強をしながら、わからなくなったら蒼に聞く、ということを繰り返す。

むしろ蒼にわからない問題はないんじゃないかと思う。


おれの家で泊まりこみで教えてくれたこともあった。

勉強に付き合ってもらってる形になっていて申し訳ないから、何かしてほしいことはないかと何度も窺うと、「別に何もなくていいけど、…どうしてもって言うなら、いつでもいいから弁当作ってほしいな」とちょっと悩んで困ったように微笑みながら出してくれた提案に即頷いた。

「まーくんの助けになれるなら今まで勉強してきて良かった」と嬉しそうに笑みを零すから、気恥ずかしくて、でもその言葉が嬉しかった。

朝起きてから、夜寝るまでずっと頭の中で公式を唱えたり、地図を頭の中で描いてどの場所が何て名前かを繰り返し考えたりして、精神が消耗する毎日。

昼ご飯の最中も教科書を復習して、風呂の中でも英単語を呟き続ける。

普段勉強しているらしい頭のいい生徒は、たまに授業中にこくりこくりと頭を揺らしていて、皆頑張ってるんだなと思った。
自分なんてまだまだだから皆よりもっと頑張らないと、と改めて感じて気を引き締める。

少しは息抜きしないといけないってわかってるけど、勉強しないといけないのに今自分は遊んでいるというプレッシャーから頭の中は結局リフレッシュできない。

そんなストレスが積みに積み重なって、ついに限界がきた。


「え、」


驚いた声が聞こえて、ふらついた身体をその腕に受け止めてもらった。
……そこで、意識がぷつりと消えた。

結局、日々勉強で夜中まで起きていたのが身体に悪影響を及ぼして、熱を出して倒れたのだった。

――――――――……


「……ん、」


頭に何かが触れて、それに呼び起こされるように瞼を持ち上げる。
目を開ければ、普段見慣れない心配そうな表情でこっちを見ている蒼がいた。

その後ろには白い天井。
ふかふかのベッドの感触が背中に当たっている。

(……保健室、かな)


「起こした?ごめん」

「……ううん。…っごほっ」


怠くて言葉を離すのも億劫なほどで、声が掠れている。
すぐに咳き込んだ。
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