3


今、行かせてくれないのもおれのためなんだと分かるから。

「……」

でも、それでも今は無理をしないといけない。

仰向けのまま、上に被っている掛け布団を指の先が白くなるまで強く握り締めた。
その手が、震える。
声が、熱く籠る。


「…っ、でも、おれは、もっと頑張らないといけない。もっと勉強しないといけないんだ。皆に遅れないように」


”誰か”に認めてもらえるように。

最後の一言は言わなかったけど、そう呟けば彼は真剣な顔をして少しの間黙って。
それから綺麗な優しい笑みを浮かべた。
よしよしと頭を撫でられる。




「頑張ってるよ」

「…っ、」



その言葉に、大げさなほどびくりと肩が震えて



「まーくんは、頑張ってる」

「…っ、……おれ、がんばってる…?」



震える声で、そう問えば
彼は躊躇うことなく、頷いた。


「うん。頑張ってる」

「…っ、」


力強いその声が。
髪に触れる手が優しくて。
視界が滲んだ。


瞼の裏が、熱くなる。



「俺はまーくんをずっと見てたから、わかるよ」

「…ッ、うっ、う゛あ、あ…っ」



くしゃりと顔が歪むのが分かる。

その言葉が嬉しい。
どうしようもなく、嬉しい。

弱った心にじわじわと何かがふわりと沁み込んで、眼球が熱くなって。
おさえようとする間もなく、ぶわあと目から零れた涙がシーツに零れ落ちていった。

なんでこんなに悲しいんだろう。
なんでこんなに嬉しいんだろう。


「…っ、ふ…っ、えっ」


”頑張ってる”

誰かにそう言ってもらえるということは、自分の存在を認めてもらえているようで。
自分が誰かの目にうつっているんだってことを知って、酷く嬉しくて。
生きてていいんだって。
おれは誰かに認められたから、少なくとも認められた今だけは存在してていいんだって。
…そう、言われてるような気がした。

記憶の中にいる知らない”誰か”にお前なんかいなければよかったのに、と言われたことで空っぽだったはずの場所を彼の言葉が優しく埋めてくれる。



「―――っ、う…っ、ひ…っ、く…う…っ」


嗚咽が零れる。
子どもみたいにわーわー泣きじゃくっていると、蒼がよしよしと頭を撫でてくれるからもっと涙が溢れた。

何もかも分かったうえで、そんな言葉をかけてくれているような彼のことが
そうやって子供みたいにわーわー泣くおれを慰めてくれる、少し寂しげな顔をした彼のことが

(…改めて、…他に代えられないくらい、大好きなんだと思った)

_________


嗚呼…こうやって、彼とずっと一緒にいることができたら。
prev next


[back]栞を挟む