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***


あの後


「…ありがと、う」


数十分後、やっと涙がとまった。
今となっては、なんであそこまで泣いちゃったんだろうと思うくらいには冷静になった。

ぐいぐい、と制服の袖で目元を拭う。

羞恥心に耐えきれずに俯くと、蒼が可笑しそうにわらって、それにつられておれも気が緩んで笑みを零した。

…泣いてすっきりした。

(蒼には迷惑かけっぱなしだな…)


朦朧としててあまり覚えてないけど、解熱剤も飲ませてくれたらしい。
泣いたせいで余計に身体に力が入らなくて、保健室のベッドから降りた途端にぐらっと視界が歪んで、床に膝をつきそうになる。

抱き留めてくれた後、おれを抱き上げてお姫様だっこしようとする蒼に断固として首を振る。

どうしても歩かないといけない距離は、おんぶで運んでもらうことになった。


……この歳になって、こっちも恥ずかしい、けど、


黒髪が顔に触れる。その首に後ろから腕を回しながら、ちらりと盗み見る。

彼は全然恥ずかしそうじゃなくて、すれ違う人達に変な感じに見られても、まったく嫌な感情ひとつ出さずにおれをおぶってくれる蒼に、…すごく感謝して目を閉じた。

――――――――


家の鍵を渡して、敷いてある布団まで運んでもらう。
見慣れた天井にほっと息を吐いて身体から力を抜いた。
身体がしびれているようにうまく動かない。


「…ありがとう…」


何度目かのお礼を言いつつ、そろそろ帰ってもらわないと悪いなと思って声をかけようとして、また咳き込んでしまう。

風呂はもう後でいいやってことになって「拭こうか?」と、普通に聞いてくる蒼にさすがにそこまでは迷惑かけられないから、「…いや、いい…」と首を振った。


「何か食べる?」


上からかけ布団をかけてくれながら、気を遣ってくれてるのだろう少し小さめの優しげな声で聞いてくれる蒼に答えようとして襲い掛かってくる睡魔にもう声がほとんど出なかった。

舌が、回ってない。


「…食べない……ねむ…たい…」


意識が消えそうなのを堪えて、「でも、」と続ける。
蒼の手を掴んで、「…ちょっと、で、いいから、そば…に…い……」と最早声にならない声で呟いて、そのまま眠りに落ちた。

――――――――

寂しくて。

どうしようもないほど、傍にいてほしかった。
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