蒼の嫉妬 1

***


「ついたよ」

「…っ」


ふわりと綺麗に微笑まれるが、肚のナカで震えるモノのせいで答えるどころじゃない。
声が漏れるのを抑えるので精いっぱいだった。滲んだ汗が額から流れ落ちていく。


「返事は?」

「ひぎ……っ、」


既に床に崩れ落ちそうなほど絶頂が近く、堪えるのに必死な俺を嘲るように笑って、軽く尻を揉まれる。
そのせいで前立腺に当たるように固定されているベルト着きローターがそのぷくっとした弱点の表面でぶるぶる震え、加えて時々ピストンに近い動きをしてきて、身もだえる。どういうわけか、俺にこういうことをするためだけに作ったらしく、なんでって思うぐらい角度良く前立腺を押し潰して振動してくる。


(や、やば…っ)


足がふらつき、蒼に抱き留められる。身を起こし、慌てて周りを見回すけど、こっちを変な目で見ている視線はなかった。
敏感な部分を擦られて鳴り続ける後孔に耐えながら、息を吐く。


「そんなに顔真っ赤だとばれるかもな」

「だ、だったら、やめ…っ、ぁ゛ぅっ、はぁっ…ぐ…っ、…」


一見優しく微笑んで俺の髪を撫でる。
そしてばれるかも、なんて言いながら振動を強くした蒼を睨み付けると、すごく満足げに微笑み返された。腹立つ。


膨張して硬すぎる性器を服の上から、すっと軽く撫でられて「ひ、ぅ…っ、」情けない声が口から出る。
どんなに苦しくても性器と陰嚢の根元に鍵付きの金属製リングを嵌められているせいで自分で外すこともできないし、当然そうなると射精をすることも許されない。

その代わりにリモコン操作で気まぐれにリングの締め付けを少しだけ緩くされたりするから、その時に零れた先走りで下着の中は既にグチャグチャになっている。「結婚指輪みたいで似合ってるよ」とリングについて意味不明なことを言っていたのを思い出し、震えた。


「じゃあ、いこうか」


まるで物語に出てくる王子様みたいに微笑んだ蒼に手を取られて、引っ張られる。

こんな状況でなければ、少しくらいときめいたかもしれないのに。
生憎、見惚れるような状況じゃなかった。


「蒼様、ようこそおいでくださいました。どうぞお通りください」


受付の人は蒼を見た瞬間、券を確認するまでもなく笑ってお辞儀をした。
恭しくお辞儀をし、手で中を示す。

朝聞いた話だと、今俺たちが来ているのは水族館で、蒼の父が設立して。
だから、蒼はその息子ということでタダで通された。
俺も知り合いということで許してもらえた、…らしい。


「え、あの人やばくない?」

「わ、ほんとだ……すごい…イケメン…っていうか超美形……」

「…モデル、…?テレビで見たことない…でも流石に一般人はありえないでしょ」

「…っ、え、やっば…神レベルじゃん…。ちょ、声かけてみようよ」


しばらく歩いているとそんな声が聞こえてきて、見れば女の人たちが恋する乙女とでも表現できそうな雰囲気で話していた。
本人たちはこそこそ話しているつもりなのかもしれないけど、興奮しているからか結構な声量で丸聞こえだ。

その熱い眼差しに耐えきれず、彼女たちの視線を辿って隣にいる人物を見上げる。
そっちを向くと目が合って、ぱっと視線をそらした。

やっぱり蒼は綺麗だから目立つんだなと、呑気な感想を抱いている場合じゃない。

今日は特に見られたくないのにその容姿が否応なしに女性を惹き付けるから、どうやっても注目を浴びてしまう。
いつばれるかと生きた心地がしないまま、大分弱くなったローターの振動をこらえていると、


「あのー」


間近で聞こえたその声にびくりと肩が跳ねる。

まさか、本当に声をかけられるとは思ってなくて。
振り返ろうとすれば、すぐに蒼が目の前に立ちふさがる。


「今デート中だから、邪魔しないでほしいんだけど」

「えっ」


その「えっ」が何故か嬉しそうに聞こえたのは気のせいだろうか。

女の人たちは、そう言った後近づいてこなくなった。
…でも、何故だろう。
ずっと遠巻きに黄色い声で騒がれ、なんか声をかけられる前より見られてる気がした。


「あ、ありが…っ、え…っ」


腕を引っ張られて、トイレの一室に連れ込まれる。
何に機嫌を損ねたのかわからなくて、俺を壁に押し付けて不機嫌そうな顔をする蒼を見上げる。


「何勝手に声かけられてんの」

「い゛…っ」


壁との間に挟まれたまま性器を膝でぐりぐり押されて、苦痛に声が上がる。
まだ後孔にあるローターの振動に、身体が震えた。
痛いのに、それでもぱんぱんに膨れた性器に気持ち良くて、顔を歪めた。


「声って、」


言われても、俺から声をかけたわけじゃないから困る。それに声かけられたのって蒼のせいだし。
そういう意味を込めて蒼を見ると、顎を掴まれた。


「舌、出して」

「なん、」


なんでと聞こうとした瞬間、唇を塞がれる。
何かひどく甘い液体と一緒に丸いものが口の中に流し込むように入ってきて、反射的にそれを飲み込んだ。

優しさを滲ませながら甘ったるく粘膜を擦られ、ゾクリとする。逃げようとするも追いかけられ、良いように弄ばれた。
後頭部が壁に触れたまま、息遣いが激しくなるほど絡ませられ、口の端から唾液が零れる。
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