1
***
あれ以来、俊介と過ごすことが増えた。
俺も蒼の交流の邪魔はしたくない。
それに、俊介の言う通り蒼に少し頼り過ぎだったかもしれない。
優しいからってそれに甘えてばっかりじゃだめだよな。
…委員会の後の、あの時見た光景が頭をよぎる。
いつもと少し違った蒼の様子を思い出し、心配になる。
だけど、それについて俺がいくら心配しようと自分にできることなんて何もない。
…何もなかったように、過ごす日々。
朝は一人で、昼は俊介と一緒に食べて、帰りは蒼と帰る。
「さすがにいきなりは無理だろうから、少しずつ自立していけ」という俊介の言葉に頷いて、それを実行して一週間が過ぎた。
俺が頼り過ぎてたことが、蒼にとって負担になっていて機嫌が悪くなったと思うから。
多分、これでいいんだ。
一緒にいる時間が増えるとそれだけ人気の理由もわかってくる。
俊介は面白いし、明るいし、かっこいい。
(…そりゃあ、モテるよな…)
俺が女だったら、好きになってたかもしれない。
「な?今日一緒に夜飯食いに行こうぜ」
そう肩を組まれて、誘ってくれる俊介に悩む。
……正直いうと、行きたい…かも。
頷きかけて、その動きをとめた。
「…でも俺、」
蒼と帰る約束が、
そう言おうとすると「いいじゃん。一之瀬だってわかってくれるって」と軽い感じで笑った俊介に携帯をひょいと奪われる。
「あ…っ」
小さく声を上げると、俊介は「こどもじゃねーんだから。一之瀬にだってそこまで真冬を束縛する権限もねーだろ」と何の気なしに呟いた。
…どうだろう。蒼、怒らないかな。
ただでさえ最近どんどん機嫌が悪くなってる気がするんだけど。
そんなことを考えていると、「よし!これでいこう」と俊介の大きな声がして顔を上げると、楽しそうに笑いながらボタンを押していた。
「『えーっと、俊介と放課後デートしてきます』送信…っと」
「えっ!!ちょ…っ」
冗談だろ、と焦って若干叫びながらそれを奪い返す。
(……本当に送信してるし)
「よし!行くぞー真冬」と腕を引っ張ってくる俊介に、はぁとため息を吐いて笑った。
(……まあ、蒼もこのくらいなら許してくれるだろう)
そんな軽い気持ちで、俊介と一緒にご飯を食べに出かけることになったのだった。
――――――
とある喫茶店。向かい側に座っている俊介にじとりと観察するように見つめられて、すこし戸惑った。
「なあ、一之瀬と真冬ってずっとそんな感じだったんだ?」
「うん。中二の冬から」
そんな感じってどんな感じだろうと考えつつ、クリームソーダを飲んで頷く。
久しぶりの炭酸がすごくおいしく感じる。
喉がぱちぱちする。
「それで、どう?俺といても、楽しい?やっぱり一之瀬のほうがいい?」
…何なんだその質問。
その答え辛い内容にすごいこと聞いてくるなあと呆気に取られて、ちょっと悩んだ。
俊介といると賑やかで楽しくて、蒼といるとなんかふわっとなって落ち着く…ような気がする。
そう答えれば俺の回答が気に入らなかったらしく「…ふーん」と不満げな表情をされて、苦笑いするしかない。
どちらかを選べと言われても、むしろ選ぶ意味が分からないから考えたくない。
俊介が気まずそうに、俺から視線を逸らして歯切れの悪い口調で呟く。
「…一之瀬ってさ、真冬のこと、好きだったり…とかって言ってたことある?」
「うん。好きって言ってくれたけど」
「……」
サラダを食べながら普通にそう答えると、俊介が「え?」と呆気に取られたような声を出した。
「”言ってくれた”って、お前、一之瀬のことすきなの?」
「……?…好きだよ」
首を傾げながら頷けば、なんかすごい顔で絶句された。
(…なんでそんな驚いてるんだろう)
なんだかその反応にムッとして、口を尖らせる。
「だって、好きじゃないと一緒にいないだろ?」
「……え、ちょっと待って」
戸惑ったように俊介が額に手を当てて「わけわかんなくなってきた」と呻くから。
むしろこっちがわけがわからない。
好きじゃなかったら、なんで一緒にいるんだって話になると思うんだけど。
俺は好きじゃない人と一緒にいたくない。
[back][TOP]栞を挟む