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俊介の驚いている意味が理解出来なくて、「何?」と首を傾げると彼が何故かごくりと唾を飲みこんでよくわからない質問をしてきた。
「俺のことは…好き?」
「うん」
躊躇いなく頷くと、何故か俊介がぼっと顔を赤くした。
「い、いやなんで俺今熱くなったんだ」とうおおおと叫びながら紅茶を飲んでいて。
その様子を眺めながら今度は俺が「俊介は?俺のこと好き?」と尋ねたら、ぶはっと口に含んでいたそれを吹き出した。
なんでそんな大げさな反応するんだろうと、不思議に思いながらティッシュを差し出すとすごい勢いでそれを奪うように引ったくられる。
そのあまりの勢いにティッシュが破れた。
「なっ、お前…っ、あんまりそういうこと言うなよ?!」
口の周りについた紅茶を拭いながら、「くっそ。こいつ終わってる」と何故か失礼なことを言われて、そう言われるということはやっぱり「俺のこと嫌い…なんだ」と悲しくなりながら俯く。
すると、「だーっ!!好きに決まってんだろ!やめろこの倦怠期のカップルみたいな雰囲気!」と真っ赤になった俊介に大声で怒鳴られた。
「……(ころころ表情が代わるな、俊介は)」
すごいと驚きながらその荒れ狂う様子を見つめていると、カッと睨み付けられる。…全然怖くない。
「…なんでそんな赤くなってるの?」と聞いたらさらに怒られたので、もうなにも言わないことにした。
どかっと机に頬杖をついた俊介が、不機嫌そうな顔をしてため息をつく。
呆れたようなその表情をされることに、むっとして無意識に眉が寄った。
「あーもう、わかった。お前と蒼の関係」
「…何が?」
俊介の言ってることの意味が全く理解できない。
首を傾げれば、つんと額を指でつつかれた。
「やっぱ、だめだ。お前、一之瀬から離れろ」
「…なんで、そうなる」
むっと俊介を睨み付ければ、「なんででも」と子どもの口喧嘩の上等文句みたいなセリフが返ってくる。
…なんだ、それ。
わけがわからないとため息をつけば、彼に「お前、一之瀬がお前のことどう思ってるのか知ってるのか?」と睨み付けられて。
…もしかして、俊介の耳に蒼が俺を嫌いになったって噂が流れてきてるのかな。
なんでそんな噂が流れるかなんてわからないけど、俊介がこんなこというのは何か理由があるからで。
…俺の知らないうちに蒼と俊介が仲良くなっていて。
蒼から「まーくんがうざいんだけど離れてくれない」みたいな相談を持ち掛けられてたらどうしよう。
「…(あり得る…)」
…蒼に嫌われたらどうしよう。嫌だ。
想像だけで暗くなった俺を見て、俊介がぶんぶんと首を横に振った。
「そーじゃなくて、一之瀬がお前のこと、恋愛的な意味で好きだったら?」
「ないよ」
即答だった。
…ない。そんなはずない。
蒼はそんなこと俺に思ったりしない。蒼はきっともう俺のことを何とも思ってない。
ああいうこと何回もされたのだって、多分蒼の気の迷いで、そうだったはずだから。
思われてたら一緒にいようなんて思わない。
呪いのように頭の中がそれだけでいっぱいになる。
俺と蒼の関係は、そうでなくてはならないから。
もう一度、大きく首を横に振った。
「絶対に、ない」
「…そっか」
俺のきっぱりとした返答に、何故か表情を和らげた俊介は
その気まずくなった空気を振り払うように首を振って、
「今から、俺の家に遊びに来ねえ?」
そう言って、俺に向かって笑った。
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