6


……まさか、蒼が待っててくれていたと思ってなくて。

どうしよう、と少し迷って、後を追いかけることにした。


「…っ、蒼、」


二人が消えただろう方向に走る。

けど、


「……っ、ぇ、…?」


見えたのは、蒼の前に立ち、その頬に触れて踵を上げる姿。
制服にかかるほどの長い髪がふわりと揺れる。


(…――キ ス 、…して…る…、?)


ように見えた。

…というかそうとしか思えない光景に、思わず身体が強張る。


「――っ、…」


(…う、わ、どうしよう、)

見てしまった。

…もしかして彼女できてたのか。

蒼も、実はそういう大人なことしてたのかと、パニックに陥った頭でぐるぐる思考を巡らす。
邪魔するわけにもいかないし、ここはさっさと退散しようと思

……ったのも、束の間、…突き飛ばされたようによろめいた女子が怒ったように怒鳴っていた。

それから、不意に振り返って俺に気づき、赤くなった顔でキッと睨みつけられる。
彼女の視線を追って、蒼がこっちを見たのがわかった。

走り去っていく長い髪の後ろ姿を目で追った後、……躊躇いがちに近づいていく。

見てないふりしようと思ったけど、無理…だよな…。

どう、声をかけたら良いかわからず、「ぁ、の」と声を零した。


「……蒼、」

「…今のは何でもない、から」


汚いものでも触れたような表情で唇を袖で拭い、俯きがちに逸らされる視線。
血が通っていないのかと思うほど整った顔に冷めた表情を浮かべていて、…思わず息を呑む。

そういわれてしまえば俺が何か言えるわけもなくて、口を噤んだ。

…それよりも、今更思い当たったことに自分で驚いていた。


(…そっ、か…)


蒼だって、いつ彼女ができてもおかしくないんだ。
高校生だし、むしろこれほどモテるのに、いないのがおかしいだけで。

…見間違い、でなければ…さっきいたのは、前から蒼に好意を寄せていると有名な女子だった。

喧嘩したのか、とか、もしかして付き合ってるのか、とか色んな疑問が浮かんだけど、そんなことより今は心配の方が勝った。


「あの、」

「…さっきの人、待ってるんじゃない?」


声をかけようとすれば、遮るように被せられた声に言いかけた言葉を飲みこんだ。


「……ぁ、」

「じゃあ、また明日」


先程の行為のせいか、ぎこちない雰囲気。
突き放すような口調に「う、うん…」と頷き、遠ざかっていく後ろ姿を追うこともできず、見送る。

けど、それ以上踏み込む度胸も権利もなかった。

prev next


[back][TOP]栞を挟む