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声にしてから、気まずい沈黙が流れ、…言葉を間違えたと焦る。


「…あ、あの、敷布団でいいって言ったのは本当で、ここで全然いいんだけど、ベッドとか、そういうわけじゃなくて、俊介が一緒に俺と寝てくれないかなって、」


ああ、言ってしまった。

自分で言ったことなのに、後悔と羞恥心で心臓がばくばくする。


…言わなければよかったかもしれない。

でも、どうしても一人では寝たくない。
暗い部屋で、一人で寝たくない。
何故か昔からそういう感情があって、自分でもどうしてこんなに嫌なのかさえわからない。
いつも電気をつけっぱなしでテレビをつけながら眠っているので、こんな真っ暗で静かな部屋では到底眠れる気がしなかった。

ベッドの方で、もそもそと動く音がする。


「…んん?ついに耳がやられちまったようだ。もう一回言ってくれ」

「布団…別々じゃなくて、……俊介と一緒に、寝られないかなって、…」


その俺の言葉に、「はあ?!」となんだこいつ頭おかしいのかみたいな顔で跳ね起きた俊介に「や、やっぱり嫌だよな…。ごめん」と謝って再び布団にもぐりこむ。

俊介の反応が当然だろう。誰が高校1年生同士で、しかも男同士で寝るのをいいと快く受け入れてくれる人がいるものか。


蒼が珍しいだけで、普通はいいなんて言ってくれないよな。
気持ち悪がられただろうかと悲しくなって落ち込んでいると、ぽつりと声が聞こえる。


「…何、一之瀬とは一緒に寝たことあんの?」

「うん」

「…ふーん」


修学旅行の時は、一日目の夜こそあんなことがあってわけわからない感じになったけど、結局2日目も一緒の布団で寝た。

蒼に一緒に寝てもいいかと言えば、笑って快く受け入れてくれた。


…もしかしてあの時も本当は心の中で嫌がられたりしてたのかな。


そんな考えが脳裏をよぎって、瞳を伏せる。



「…お前らの関係がマジで怖いわ…」



心底引いたと言いたげな声が聞こえて、「ごめん」と謝れば「なんで謝るんだよ」と怒られた。

ごそごそとベッドに潜る気配がして、ああもう嫌だ恥ずかしいと掛け布団を頭の上までかぶって枕をひたすら胸に抱きかかえながらぎゅっと目を閉じた。

自分でもこんな自分のことを情けないと思う。わかってるんだそんなこと。

静かになった部屋で、自分の呼吸の音だけを聞く。
秒針の鳴る音が、10回くらい聞こえた時。


「…あーもう、俺が眠れねーよ。くそっ。子どもか!五郎みたいなこと言いやがって」


なんだってこんなやつが高校生なんだとぶつぶつ呟く声が聞こえて。
カチリと何かの音がする。
布団越しに明るくなった世界に、俊介が電気をつけたのだと分かった。


「わっ」

「起きろ起きろ」

「…うう…」


掛け布団をぶんどられて、目に光が突き刺さる。まぶしい。
光が眩しくて、目を細めながら見上げると。
すごく怒ったような顔で「ほら、こっち来いよ」なんて言って、ベッドを指で示すから。


「いい、の?」と、尋ねれば「だからもう倦怠期のカップルみたいなやり取りしたくねーんだよ…!!だああ、もう黙ってこっちに来い」と赤くなった俊介にまた不機嫌そうな顔で怒られた。


今日は俊介に怒られてばっかりだ。


それでも、不機嫌そうなところに俺が行ったらもっと怒られそうで「いや、でも」と躊躇えば、ぶち切れ寸前の表情でこっちを向いたので、恐る恐る近づく。


「ごめん」と謝りながら、「うおお俺のバカ」なんて苦しそうに唸っている俊介のベッドにお邪魔させてもらう。

ベッドに乗った瞬間、ぎしりと軋む音がした。


「ちゃんと一人で寝れるようにならねーとだめだぞ」と言う俊介の言葉に、「うん。ごめん」と謝ればまた怒ったような表情を浮かべられたので黙る。


二人で寝たら流石に狭いかと思ったけど、意外にベッドが大きかったせいかまだ余裕がある。


「ありがとう」と小さく呟いて、背中に少しだけ触れる体温に安心しながら眠りについた。


――――――――

おやすみ、と呟くと返ってくる声がある。
…凄く幸せで、泣きたいような気分になった。
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