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会ってなんて言おう。
むーっと眉を寄せながら苦悶の表情を浮かべてみる。

…とりあえず、昨日は帰る約束いきなり破ってごめんって言って謝ろう。

蒼は優しいから、多分…許してくれる、はず。
それどころかどうでもいいと思って忘れてるかもしれない。

勝手に約束破ったくせに都合が良すぎる、って思うけど、…そうでもしないと足が止まってしまいそうだった。
自分で自分を元気づけながら歩く。

辿り着いた教室の番号を見上げて、深呼吸する。

…少し、緊張する。

何、してるんだろう…。


(…えっと、窓際の一番後ろの席だから)


目当ての人物を探すために、視線をそこに向ける。

すると、


「それでね、蒼君。明後日の帰り、一緒に出掛けない?私達四人で」

「行こうぜ。カラオケとかどう?俺、久しぶりだなー」

「私も久しぶり!それに蒼君の歌、めっちゃ聞きたすぎる…!」


蒼の近くには女子が二人と男子が一人いて、和気あいあいとしている。
会話も弾んでるみたいだし、…すごく楽しそうだ。


「うん、いいよ。丁度俺もどこか行きたいと思ってた」

「っよし決まりな!」

「キャー!やった!」


あまりにも自然な返答の仕方。
前向きな返事をする蒼に、盛り上がる三人は熱を上げている。

…普段から、かなり親しげに話している…みたいなそんな感じ。

中学の時は、俺以外に笑ったりしなかったのに。


「…っ、て、なんだそれ…」


呆れた笑みがこぼれる。
勝手に特別だと自信過剰になり、自惚れていたらしい自分を叱咤した。


(…蒼も、皆と仲良くしたかったんだ…)


ぎゅううと胸が苦しくなって、…寂しくなって、その光景から視線を下にずらす。

俺さえいなければ、蒼は簡単に友達なんて作れるんだろう。
整った容姿に加えて勉強も運動もできる。…きっと誰だって仲良くなりたがるような存在。

…でも、今までは蒼が他の人と話す姿なんてほとんど見たことなくて。

それは、…多分俺が一緒だったからだ。

いつも思うけど、蒼はどんな時でも俺を優先するから、最初蒼と仲良くしたくて近づいてきた人たちも、…皆徐々に離れていってた。

でも、こうやって違うクラスになるとよくわかる。

…俺ってこんなに蒼の邪魔をしてたんだ。


(やっぱり、………俊介の言う通りにしてよかった)


「あ、柊君。こっち来るの久しぶりだね。蒼君呼ぶ?」


廊下側に近い女子で、いつも俺がここに来ると蒼を呼んでくれていた子に、慌ててぶんぶんと首を横に振った。
嫌に心臓がどきどきしてる。

ぎゅうっと胸の辺りの場所を掴む。
痛い。苦しい。


「…(自分は友達作りたいのに、蒼に仲が良い人が出来たら寂しくなるなんて)」


…そんなの、自分勝手すぎるよな。


「大した用じゃないから、後にする。ありがとう」


せっかく盛り上がってるのに、邪魔したら申し訳ない。
自分の汚い感情を隠すように笑って、昨日のことを話すのは帰りにしようと身を翻した。


(…友達に友達が出来て喜べないなんて…本当に、最低だ)


――――――――

自分が恥ずかしい。
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