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***


その夜、電話があった。

風呂上がりで、濡れた髪の毛をタオルで拭きながら、通話ボタンを押す。

もうすぐ夏なだけあって、火照った身体に加えて暖かい部屋は湿度が高く、冷房をかけないと汗をかいてしまいそうだ。


「もしもし」

『真冬?』

「うん、そうだけど」


その声に頷いて答えると、通話の相手はほっとしたように息を吐く。
なんだろう…と自分でつくったうさぎリンゴをしゃりと口に入れながら、耳を澄ませる。


『明日の帰り、ちょっと話があるんだけど時間作れるか?』

「…う、ん。なんとかする」


頷きつつ、内心恐怖におびえていた。

……蒼に、なんて言おう。

俺と俊介が仲良かったり、一緒にいると怒るから、あんまりこれ以上不機嫌にさせたくない…けど。
そんなこと考えてたら、俊介と会話すらできなくなってしまう。


「…(なんで嫌がるんだろう)」


俊介は人柄が良いから、蒼も話してみれば絶対に好きになると思うけどな。

……あの日も、俊介と出かけるってちゃんと伝えたのに。

俊介の家に泊まった頃から、蒼は俺と俊介が一緒にいると今までよりさらに不機嫌になるから、その度にびくびくしてしまう。


(…と、とりあえずなんとかしよう)


俊介からの話を無視するわけにもいかない。

それに、…蒼だって。

(蒼だって明日は友達と遊びに行くって、…言ってた)

この前聞いた昼放課の記憶が蘇って、むっと眉が寄る。
俺だけこんなにびくつくのも変な話だ。

別に蒼とは、俊介と会わないなんて約束はしてない。


「なんとかする」


その言葉を嘘にしないように、ちゃんと蒼に今からメールしとこう。


『あのさ』


歯切れの悪い言葉に、「ん?」と首を傾げた。


『一之瀬は、絶対に連れてこないでほしい』

「え、なんで?」


改めて強めの口調で言われて驚いた。
携帯から、声が聞こえる。


『だって、』


次に言われた言葉に、目を瞬いた。


『これは、一之瀬に関する話だから』


―――――

その声は、酷く真剣で。
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