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***


「おはよう」


朝、俊介に挨拶すると「おう、真冬。おはよ」と爽やかな笑顔が返ってくる。
少しは元気になったみたいだけど、やっぱりどこかぎこちない。
俊介が、耳元に口を近づけてきた。


「どうだった?一之瀬にちゃんと今日の帰りのこと、伝えた?」


その俊介の言葉に、なんて返せばいいかわからずに俯いた。
「え、言わなかったのか?!」と驚いて目を見開かれて、慌てて「違う」と言いながらぶんぶん首を横に振った。否定の声を上げる。


「…言った、けど…」


昨日のことを思い出して口ごもった。

前に俊介と出かけた時に俺がメールで伝えたことに怒ったんだと思い出して、結局電話した。

俺から電話したことを、蒼は喜んでくれた。

…最初は普通に楽しく話してたんだけど、放課後の件について話した瞬間に無言になってしまった。

思いのほかその時間が長くて、やっぱり怒ったかなと考えていたら「俊介ってやつ?」って聞かれて。

言葉を濁したら「わかった」と、ひやりとする声とともに通話が切れた。

俊介については触れずに、用事があるって言ったんだけど…見抜かれていたらしい。

その流れをかい摘んで話せば、俊介は苦い顔をして「ごめん。真冬」と何故か謝られた。

「俺の言い方が悪いから蒼を怒らせちゃってるんだと思う」と首を横に振っても、俊介は深刻な顔をしたままだった。


「あと、1つ、俊介に言いたいことがあって」

「んー?」



俊介は、怒るだろうか。

あんなに協力してくれようとしたのに、こんなこと言ったら怒らせてしまうだろうか。
嫌われてしまうだろうか。


「…やっぱり、俺」


蒼から離れることなんて、できないかもしれない。
そう口にしようとした瞬間に教師がクラスに入ってきて、会話はそこまでになった。
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