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それを、確かめたいから。”もしも”、なんて言ったんだ。

……だから、俺は今、そんな言葉を聞きたくて、あんなことを言ったわけじゃない。

ただの気まぐれで、あんなこと言ったわけじゃない。

ぐっと拳を握りしめる。


「蒼は、どういう意味で俺のことが好きなの?友達?それとも…、別な気持ち?」


知りたい。蒼の、本当の気持ちが知りたい。
…でも、知りたくない。
そんな感情が、心の中でぐちゃぐちゃになって
結局知りたいのか、知りたくないのか、自分でもわからなくて、わけがわからなくなる。
真面目な口調で、でも緊張しながら顔を上げて聞いてみれば、彼は一瞬怯んだ表情を浮かべた。


肩を掴む力が弱くなる。
目が、逸らされた。
口が、躊躇うような感じに開かれて、たどたどしく変な間隔をあけて吐き出される言葉。


「…そ、れは、友達として、で」

「でも、俊介にはそう見えないって」


その表情の変化に戸惑いながらそう言えば、ぴくりと蒼の眉が動いて、表情が強張る。
ぽつり、と口から零される言葉。


「……なんであいつのいうことばっか聞くの?」


俯き加減だった蒼の顔が上げられて、必死に何かの感情を隠すように表情に影が濃くなった。
悲しみと怒りを必死にこらえているような、そんな表情。

肩に爪が食いこんで、小さく声があがる。


「…っ、」

「朝だって、昼だって、今までずっと一緒にいたのに。”俊介”が言うからって」


”俊介がこうしろって言うから”って。
それ、ばっかり。

震えて、泣きそうな声で彼は呟く。


「………」


言われて、気づく。
確かに、そう言った。
俊介がこうした方がいいと思うからって。
それで、俺もそうした方がいいと思うんだって言った。
蒼には、俺に縛られないで自由に友達を作ってほしいと思った。
俺が離れることで、蒼がどう思うかなんて、考えもしなかった。

きっとその方が、俺と蒼の為にもなると、…思っていた。

勝手な思い込みで、もしかしたら俺は蒼を傷つけてしまっていたのかもしれない。
やっぱり、これが蒼の不機嫌の原因だったのかもしれない、と今頃思って、「ごめん」ともう一度謝った。
躊躇いがちに、口を開く。


「…その、俺は、蒼だって、俺以外の友達を作りたいだろうって思って」


蒼は、俺がいなければもっと良い友達を作れると思うから。
そう俯いて小さく言葉を零せば、蒼は、その綺麗な顔に、悲痛な笑みにも似た、儚い微笑みを浮かべた。


「…俺は、他のやつなんか、要らなかった。まーくんさえいてくれれば、それでよかった」

「…っ」


息を、呑む。
自嘲気味に笑って、その瞳に辛そうな色を映した。


「今日だって、まーくんのために何か役に立つかと思って、…利用できるかと思ったから、あいつらと出かける約束だってしたのに。まーくんは『楽しんできて』だもんな」


あーあ、と本当に泣きそうな声でそう呟くから、一瞬その言葉の意味を理解できずに反応が遅れる。
理解した瞬間に、反射的にダメだと訴えるように首を振った。

なんで、そんな考え方するんだろう。


「俺の、役に立つからとか、利用とか、…そういうのは相手も傷つくよ」


…俺だったら、自分が誰かのために何か役に立つかもしれないからって理由で仲良くされたら、すごく傷つく。悲しいと思う。
その俺の言葉に、少しの間逸らされていた蒼の視線が、こっちを向く。


「傷、つく…?」

「…うん。それに、…蒼がそういうことで俺に縛られてる感じも、嫌だから。蒼に…俺から自由になってほしいと思ったんだ。俺が蒼に頼り過ぎちゃうのもあって、それも直そうと思って、少しは離れないと、って…」


中学の時も高校でも、蒼は他のどんな大事な用事よりも俺を優先しようとして、…でも、そんなのおかしい。

普通先に約束した方とか、重要な用事を先にするものだと思う。
蒼の暗い瞳が、俺を見る。
暗すぎて、その感情が何も読み取れない


「それも、あいつの言ったこと…?」

「ちがっ」


…そう言いかけて、口が止まった。
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