13

屋敷の中ってどんなんだろう。

お手伝いさんとかいたりするのかな、なんてわくわくしながら蒼の家に到着した。

でも、

(…え、えっと)


戸惑う。


「な、なんで目を塞がれてるの…かな…」


全く、今どこを歩いているか見えない。

家の前まで来たところで、何故か「目隠しをしてほしい」と言われて何故か今布のようなもので目を覆うようにされて、蒼に手を引かれて歩いている。

どこかへ向かっているのはなんとなくわかるけど、目的地もわからないまま、蒼に引かれるままに歩いて少し見えない視界が怖い。

ミシ、ミシと自分の足元で木のようなものが軋む音がするから、やっぱり想像通りの古風な床の感じなんだろう…と思うのだけど。

…残念ながら全く見えない。


「その方が面白いから」


楽しそうな笑いを含んだ声音に、むっと眉を寄せる。
いじめか。いじめなのか。

すごく楽しみにしていただけあって、何故視界を奪われているのか理解できずに不満を覚えた。
でも、俺は人様の家に上がらせて貰っている身なので、こんな立派な家に上がらせてもらっただけでも光栄に思おう。
自分を慰めながら、歩く。


「――」


そして時々、誰かが通るたびに蒼は一度立ち止まって、何故か俺を壁に近づけるようにして会話する。
それが相手から自分を隠しているような感じで、その度にただでさえ黒い布が蒼によって光を遮られて、さらに視界が暗くなる。

何してるんだろう、となんとなく思ったけど、ただ偶然俺が隠れる格好になっているのか意図的にやってるのか確証もないので黙ってただついていく。

優しく手に添えられる蒼のそれだけが頼りで、それがなくなったらすぐに転んでしまうそうな程危うい足取りだと自分でも思った。


「着いたよ」


その声とともに目隠しが外されて、一瞬月の光に目がくらんだ。
…でも、その後目に入ってきた光景に感嘆の声が口から漏れる。


「すご……い…」


月の光が広い庭の池や石、木を照らして、池の面には月の形がぼんやりと映っている。

…それは、思わず目を見張るほどとても幻想的なものだった。
大きな池の傍には竹筒があって水を受けて時折その竹が石を打ってコンと音を鳴らす。
見たことないくらい、美しい。

「わ、すごい。すごい」

今すぐ傍で見たいと声を上げて屋敷の床から飛び降りて、そこまで走ろうとして。
不意に蒼の焦った声が後ろから聞こえた。


「まーくん…っ、何か履かないと」

「あ、」


その言葉にハッとして、足元を見ると靴下のまま砂利の所に足がついてしまっている。
石で痛い。


「子どもみたい」と苦笑する蒼に少し恥ずかしくなって気まずくなりながら振り返って、また違う光景が目に飛び込んできて目を見開く。

一部だけど、家の一面が見えた。


「で、でか…」


想像以上の大きさだった。
全体が木を元にして造られていて、その床は木の板でできている。
そして、扉は障子になっていていくつも並んでいて、やはりその柱も木でできているようだった。


「蒼の家って、うさぎが出てきそうなお屋敷みたいだ…」


昔見た漫画には確かこんな光景のなかで、うさぎが月の中で餅をついている光景があった。


「…っ、何、その表現」


その屋敷と庭に見惚れていれば、笑いを含んだ声が聞こえる。

ぼーっと見ながら圧倒されている間に、いつの間にか俺の履いてた靴を持ってきてくれていたらしい。
わざわざ持ってこさせてしまったことに対して申し訳ないと萎縮しながら、「ありがとう」とお礼を言って、足の砂を払ってそれを履く。

酷く可笑しそうに笑う蒼に、庭を手で示した。


「俺にとっては理想のお屋敷だよ…!!だって、こんなに綺麗な光景が見られるんだから」


「うわー、すごいなぁ」と感動して、ずっと気になっていたコンと定期的に音を鳴らすやつに走り寄って、じーっと観察してみる。
水がたまるたびに、岩にぶつかってコンと鳴っているのをただ観察する。蒼によると、それは「鹿脅し」というものらしい。

池を覗いてみると、自分の顔が水面に映っていて、その水が静かに流れているのが見える。
中には何匹か鯉がゆらゆらと泳いでいた。
それすらも、どこか風情があるように感じて、感心する。


「まーくん、嬉しい?」

「うん…!!こんなすごい綺麗な光景、初めて見た…!」


初めてみるものばかりで、興奮して頬を上気させながら振り返ると、何故か一瞬蒼の瞳が潤んでいるように見えて動きが止まる。

でもすぐに、酷く嬉しそうに頬を緩めて「まーくんが気に入ってくれてよかった」と言葉を零した。
その笑顔に安堵が混じっているように見えて、目を瞬く。

まさか、このために連れてきてくれたのだろうか。


「もしかして、これを見せるために誘ってくれたの?」

「うん。まーくんが喜んでくれたら俺も嬉しいなって思ったから」


恥じらいもなくそう言って微笑む蒼を月が照らして、ただでさえ綺麗なのにそのせいで余計に美しく見えて一瞬見惚れる。
す、すごい面と向かってはっきり言うんだな…。


「う、あ、ありがとう…嬉しい…」


なんか、そう躊躇いなく言われるとこっちが恥ずかしくなってくると照れながら笑うと、それに応えるように頬を緩めた蒼が「今夜は泊まっていって」と言ってくれて、お言葉に甘えて泊まらせてもらうことにした。

どこかの部屋に通されて、先に足が汚れたからとお風呂に入らせてもらった。

浴衣を着て、その後出てきたご飯の豪華さにも面くらった。
すごく見た目が豪華でどっかの旅館みたいな料理に、もうただひたすら「すごい」「おいしい」を繰り返していたような気がする。
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