19
慌てて自分の服の匂いを嗅いでみるけど、何も匂わなかった。
洗剤の香りくらいしかわからない。
…瞬間、
「…あ、」
今までいろんなことで頭の中がぐちゃぐちゃになってたけど、不意に冷静になって思い出してみて血の気が引く。あの人、ビデオ持ってたんだっけ。
ああいうのって、勿論別に変な場面なんかないんだけど、もし嫌がらせとかで住所とかと一緒にネットとかにさらされたらどうなるんだろう…。
ああ、どうしよう。でも、そんなこと言ったら普通に皆と撮った写真だって、ネットにさらされたらだめなわけで、だったらああいうやつも放置しておいてもいいものなのか…?
こういうことが初めてで、うまい対処法がわからない。
それに、…またこれからも知らないうちに盗撮されるのかと思うと、怖くてたまらない。
「……やっぱり、何かあったんじゃないの?」
「…っ、いや、何もないよ」
ここで蒼に頼るわけにはいかない。
俺が、自分でなんとかできるようにならないと。
もしも蒼が今まで俺をあの男の人から守ってくれてたんだとしたら、これ以上迷惑かけたくない。
…俺だって自分のことくらい自分でできる、守れるって証明したいんだ。
「…まーくん。俺、まーくんが困ってることがあるなら力になりたい」
口調を和らげて、優しく問いかけてくる声音に、う、と怯んで話してしまいそうになるけど、首を横に振った。
「大丈夫、心配かけてごめん」
安心させるように、へらっと笑って言えば、何故か蒼は苦しそうな表情を浮かべた。
「…なんで、そうやって、いつもいつも…」
俯いて、小さく吐き捨てるようにそう呟いた蒼に焦って、反射的に「ぁ、ご、ごめん…っ」と謝った。
怒らせた。
絶対に怒らせてしまった。
「あ、の、俺…」どうしよう。いっそ全部話した方がいいのかと迷う。
…と、眉を寄せた蒼が、笑みを零した。
「…そんな顔しないで。怒ってるのは、まーくんにじゃないから」
じゃあ、誰に?と言いたくなったけど有無を言わさぬ雰囲気に、もう一度謝罪の言葉が口を出た。
そのことについては口に出してはいけないような雰囲気で、
……少しぎこちなさを残しつつ、別の話題を振ってくれた蒼と話をしながら、学校に向かった。
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