21
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授業が終わり、帰る時間になる。
当然のように蒼は迎えに来た。
「まーくん、帰ろう」
そう言って綺麗な顔で優しく微笑む蒼に、頷く。
何か、あったのだろうか。
もしかしたら体調が悪くなったのかもしれないなんて思って、保健室にも行ってみたけど、蒼は来てないと言われた。
…じゃあ、蒼は今日1日一体どこにいたんだろう。
でも、何事もなかったかのようにここに俺を迎えに来ていて、そのことに驚きを隠せない。
一緒に帰りながら、何故か嫌な予感が胸をよぎって聞かずにはいられなかった。
なんで、こんなに胸がどきどきしてるんだろう。
朝見た、蒼の表情が脳裏に焼き付いていて離れない。
声が無意識に震えているのを感じる。
多分直球で聞いたら、頭の良い蒼はなんで俺が聞いた理由も全部理解して、うまく躱してしまう気がする。
でも、他に上手な聞き方なんてどれだけ考えてもわからなくて。
「…あの、今日の午前何か用事があって帰ったり、……した?」
答えなんておおよそわかってるけど、思いついた質問がこれぐらいしか思いつかなかった。
その問いに、蒼は一瞬怪訝な顔をして、思い出したように微笑んで頷く。
「ああ、うん。緊急の用事が入って、すぐに家に戻らないといけなくなったんだ」
「緊急の用事?」
午前中学校を休むほどの用事ってなんだろうと疑問に思いながら、もしかして何か家の方で大変なことがあったのだろうかと心配になる。
「大丈夫だった?」と聞けば、彼はふ、と頬を緩める。
「心配してくれてるの?」
「だって、そんなの…」
揶揄うような声音に、む、と眉を顰める。
もしも友達が授業を休んで家に帰らなければならないほどの何かがあったなら、心配するに決まってるじゃないかと言いたい。
そこで、不意に蒼の手から血が流れているのが見えてぎょっとする。
何か鋭いもので切ったように手の甲に一本の赤い線を描いていて、浅い傷だと軽く流せるレベルではない。
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