23

あの日以降、何故か足音を感じることはなくなった。


「…(……いいことなんだ)」


それはとてもいいことなんだけど、でも、自分が何もしないうちにこうも何かが解決しているんだと思うと、…なんか変な感じだ。


(…もしかして、蒼が何かしてくれた…とか)


でも、本人聞いてみてもいつも笑顔ではぐらかされて終わってしまうので、なんで解決したのか全然わからなくてどうしようもない不安に駆られる。

結局俺は相手の名前さえもわからずに終わってしまった。


……そんなある日の放課後。

蒼を迎えに行こうと教室を出た瞬間、いきなり現れた板本君に「こっち来て!」と急ぐように俺の手を引っ張られた。


「…っ、わ、板本くん!?」


何故か周りをきょろきょろと警戒するように見回す板本君を不思議に思いながらも、ついていく。

…でも、階段を下りて昇降口まで走ろうとするから。

蒼を置いてきたのに、流石に何も言わずに昇降口から外に出るのはまずいと「ちょ…っ、ちょっと、待って…!」と息を荒げながら抵抗する。

………と、

板本君が振り返った。
キラキラした目で俺を見て、笑う。
その嬉しそうに輝く瞳に、目を瞬く。


「すごい情報を手に入れちゃったんだ。」

「…え?」

「気になってたでしょ?前に柊君が僕に蒼様のことを聞いた日、蒼様が何をしてたのか教えてあげる」


――――――――――――


…つ、ついてきてしまった…。


「…(…また、蒼に怒られたら嫌だな…)」


一応、電話はした。


でも。


面と向かって、帰りに一緒に帰るって約束を破るってことも。

あまり蒼が好きではない、というか警戒しているらしい板本君とあの日よりも随分仲良くなってるってことも。

…今から俺が聞くのは、蒼のことだってことも。

全部、言いづらくて、
とりあえず

すぐに家に帰らないといけなくなったってことと先に帰ってごめんってことを留守電に…残してきた。

……蒼、怒るかな。

前、俊介の時もこうやって帰ってすごく怒ってたし。

今回も多分すぐに俺の嘘は見破られてしまうんだろうと思う。

なんでかわからないけど、蒼はなんでも知ってるからな…。


(…ざ、罪悪感で苦しい…)


本当は本人から聞くのが一番いいってことはわかってる。
わかってるんだけど、絶対に蒼は教えてくれないってことは今までの経験でわかってる。

…俺だって多分蒼が何かをしてくれたから、あの足音がなくなったんだってことくらい気づいている。

俺にとっては、蒼がそうやって俺に内緒で何かをするということが怖くてたまらない。

もしかしたら、危ないことかもしれないんだ。
前ネックレスをあげた時だって、死んでも守るみたいなこと軽々しく言ってたし…。
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