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そう思わせてしまったことが、申し訳なくて、辛くて、ごめん、ごめんと謝る。
蒼は何も悪くないのに、そんな顔、させたくなんてなかったのに。
結局巻き込んでしまった。
……最後、あんな怒り方をして避けてしまったけど。
やっぱり蒼が近くにいると安心する。嬉しい。
そんな感情が胸に広がって、ほうっと肩から全身から力が抜けた。
「あと少しで全部終わるから、」
抱き締められたまま、彼の体温を感じる。
そう小さく呟き、ひっく、ひっくと嗚咽を漏らしながら泣く俺の頭を撫でてくれていた手が、離れた。
「二度と酷いことさせないから安心して」
「…っ、あおい…?」
真剣な声に、顔を上げる。
「大丈夫。まーくんは、俺が必ず守るよ」
甘い言葉を囁いて、俺を優しく包む蒼の体温と香りに安堵して涙腺が緩む。
ああ、なんで蒼の言葉は、こんなに俺の心を安心させてくれるんだろう。
「ひ、ぅ…っ」
しゃくりあげながら、その背中に回した手で、蒼の服をぎゅっと握る。
こんなに汚い俺を、蒼は抱きしめ返してくれた。
「…蒼、待っ、」
でも、それと同時に
流れてきたむせるような血の匂いが充満していることに、その優しさとの違和感を感じる。
身体に触れた瞬間、生暖かいものが頬につく。
さっきまで目の当たりにしていた光景を思い出し、焦る。
まさか、なんて思いたくない、けど
少し後ろで、板本君の悲鳴が聞こえた。
(………え?)
一度落ち着いた鼓動が、ばくばくと音を立てる。
おかしい。こんなのおかしい。
さっきから、全部俺の常識の範疇を超えたことばかりが起きていて、ついていけない。
もう、俺のせいでもう蒼にさっきみたいな、あんなことさせたくない。
「待って…っ」
身体の力を振り絞って、腕を掴んだ。
「待って、…とまって…ください…っ」
本気で何をしでかすかわからない蒼に、思わず敬語になってしまった。
俺なんかの言葉を聞いてくれるとは思ってなかったけど、怪訝そうに眉を寄せながら止まってくれたのを見て少し安堵する。
「蒼…っ、やめて、くれ…っ頼むから…ッ!お願いだから…っ」
「どうして?」
どうしてって、なんでわかってくれないんだ。
……あんなことして、蒼は大丈夫なのか。
血塗れの公園。
倒れている男達。
なんで、どうでもいいことみたいにしていられるんだ。
言葉が伝わらないことが、悔しくて、悲しくて唇を噛み締める。
「だから…っ、これ以上、蒼にそういうことして欲しくないし、蒼も板本君も、俺の大事な友達だか――っ、」
そこまで言って、腕を掴まれた。
(――え?)
振り向く前に手でぐいと後ろに引き寄せられて、冷たいモノが首に当てられる。
ひんやりとした鋭利な感触。
「――柊君。動かないでね」
「…っ、な、んで…?」
すぐ後ろから、板本君の低い声が聞こえた。
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